第19話・魔王様、尊敬される
先だっては、大変ご迷惑をおかけしました。
これからも、当作品をよろしくお願いいたします。
街に東側に広がる、商業区。
その一角に居を構えているのが、魔王ことシアが面接を受けた『ブレアンド商会』である。
今日は天候が雨という事もあって訪れる者はいつもより少なく、昼だというのに閑散としている。
・・が、それは商会の客向けの表立った場所に限った事。
裏手にある玄関には、現在、二人の女性が訪れていた。
今日は、『ブレアンド商会』で採用する者たちの、合格発表の日。
採用するものたちには今日、中へ入ってもらい、雇用契約書を書いてもらったり制服の採寸を行う予定となっている。
外はあいにくの空模様であるが、そのおかげで、商会はヒマをもてあまし気味だ。
こんな事を言っては失礼かもしれないが、タイミング的には、実にちょうど良かったといえる。
だが・・・
「あの・・大丈夫ですか?」
「何がじゃ?」
「ヘックチ!!」
受付の窓口にまず、やって来たのは二人の女性。
一人はスタイルの良い、黒いドレスを身に纏った赤目黒髪の妖麗な女性。
もう一人は小柄な、赤目赤髪の、可愛らしい雰囲気の女性。
受付に顔を出したその二人は、どちらも全身がズブ濡れの状態であった。
先ほどまで雷を伴った、非常に強い雨が降っていたが・・・
特に赤髪の女性の方は、手に大きな傘を持っている。
なぜ濡れたのか、ちょっと不思議だ。
「ヘックチッチ!!」
「あのどうぞ、こちらのタオルをお使い下さい。 風邪でもひかれては、大変ですので。」
二人に対して、バスタオルのような大きなタオルを差し出す受付の女性。
これで濡れた体を拭け、という事だ。
一人は先ほどからくしゃみが止まらないし、もう一人は濡れたせいで、服が体にピッタリとなってしまっている。
端的に言えば、体のラインなどが丸見えだ。
先ほどから、彼の後ろに居る受付の若手男性従業員が、ときおりコレを、ガン見しているのだが・・
彼女は、気にはならないのだろうか?
「必要ない、いちいち拭いていては、時間がもったいないであろう?」
「で、ですが・・・!」
差し出されるタオルを『不必要だ』とはねつける黒髪の女性。
見た目はともかく、たしかに彼女はグラマラスな見た目はともかく、とても健康そうだ。
だが視線を移せば、小刻みに震える赤毛の女性が見える。
心なしか、先ほどより顔色が悪くなったようにも見える。
このままでは、本当に風邪を引いてしまう。
「へ・・・ヘックチ!」
「どうした赤髪よ。 魔法で服を乾かす事も出来ぬのか?」
なかば呆れ調になりながら、彼女に『クリーン』という魔法をかける魔王様。
この魔法は聖属性なので、魔族である自分は得手分野ではないのだが、回復魔法よりは存外、楽に掛ける事ができる。
モノのついでに、自分にもかけておく。
これで濡れた服による、ゴワゴワした感じが無くなった。
途端に静まり返る、商会の窓口。
この世界で『聖魔法』が使えるのは、基本的に聖職者のみであるとされる。
ごくごくタマに使える人間も居はするが、そういった人間は治療院などの療養施設で働くのが一般的だ。
なぜこのようなところに居るのかと、奇異の目で見られても仕方が無かった。
400年来のひきこもりだった彼女は、そんな人間社会の事情など、知る由も無いが。
「表の張り紙に『識別票を受付の者に渡すように』と書いてあったのだが?」
「は、はい! お預かりいたします!!」
シアの言葉に我に返った受付の女性は、二人から手渡される木の札の番号を、手元にある資料と照合する。
「はい確認が取れました。 エティシア=ライザック様とセリア=リムール様ですね? 担当の者をお呼びしますので、あちらにおかけになってお待ち下さい。」
「うむ、よろしく頼む。」
指し示されたソファへ躊躇無く腰掛ける魔王。
それに倣い、セリアさんもその横にチョコンと腰掛ける。
シアと話がしたいのか、ジッと彼女の横顔に視線を送る。
それに気づいたシアが彼女に視線を向けると、とたんに彼女は視線を横へ向けた。
どうやら彼女は、恥ずかしがり屋のようだ。
「どうした、我の顔に何かついておるのか??」
「い、いえ! ・・・その、あなたが素敵だなーと思いまして。」
「?」
すてき?
それは見てくれの話だろうか??
確かに自分自身、よく男どもに絡まれるだけあって見た目は、そうそう悪くは無いと思っている。
おごりとかではなく、ごくごく自然な感情で。
まあ・・我はキライなのだがな。
「我はこの見た目のせいで、永い間、苦労させられたからな。」
「それもなのですが・・・・受付の方との一連のやり取りが、とっても積極的で。 私は知らない方と話すのが苦手でして・・・私もあなたを見習いたいです!!」
目をキラキラ輝かせるセリア。
なるほど、だから先ほどは何も話さなかったのか。
だが同時に、疑問が頭をよぎる。
「我と会ったのも、ついさっきではないか。 十分に積極的に話しているように見受けられるが?」
初対面の者がダメならば、自分もまた、初対面だ。
嫌な気持ちはしないが、不思議ではある。
「何といいましょうか・・こんな事を言っては失礼かもしれませんが、あなたには親近感が湧くのです。 家の裏手に居た、おばあちゃんのような・・・!!」
ほう。
その『裏手のおばあちゃん』とやらは知らんが、『親近感が湧く』という言葉は、純粋に嬉しい。
立場上、多くの魔族を束ねる者として、それは何よりの誉め言葉だ。
未だ、誰にも言われた事はないが。
・・・いや待てよ、そういえば配下の魔族たちに『魔王様には悩みを打ち明けやすい』と言われた事があったな。
おかげで魔王城は極貧でありながら、死人が出る事はなかった。
指導者たるもの、命令を下すだけでは何も成す事はできぬ。
この女はセリアとか言ったか?
大切な事を思い起こさせてくれて、礼を言うぞ。
「そのおばあちゃんは既に死んでしまって・・・あ、あの、あなたを『おばあちゃん』と呼んではダメですか!!!??」
「ダメじゃ。」
・・・が、ソレとこれとは、話が別である。
400年以上を生きてきたとはいえ、『おばあちゃん』はいただけない。
呼ぶならば、せめて『おばあさま』と呼ぶのじゃ!
言葉のニュアンスは、両者に大きな差異はなかった。




