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第6話「帰り道」



 放課後のチャイムが鳴る。


 教室の空気が一斉にほどけていく。


 椅子を引く音。友達を呼ぶ声。部活動へ向かう足音。


 吉塚柚須は教科書をカバンにしまい、静かに席を立った。


 今日も、いつものように博多駅へ向かう。


 昇降口へ続く廊下を歩いていると、後ろから声がした。


「柚須。」


 聞き慣れた声だった。


 振り返ると、福岡南が少し小走りで近づいてくる。


 カバンを肩に掛け、息を整えながら笑った。


「待たせた?」


「いや、今出たとこ。」


 南は安心したように笑う。


「よかった。」


 少しだけ間が空く。


 そして南が、いつもの調子で言った。


「今日も広場?」


 柚須も自然に笑う。


「うん。」


 その一言だけで、二人は並んで歩き始めた。


 校門を出る。


 夕方の街は、部活動帰りの学生や仕事帰りの人たちで少しずつ賑わい始めていた。


 歩幅を合わせるわけでもない。


 それでも、不思議と歩く速さは同じになる。


 しばらくは何も話さない。


 気まずい沈黙ではなかった。


 駅の三階広場で本を読んでいる時間と同じように、隣にいるだけで落ち着く静けさだった。


 やがて南が口を開く。


「今日の数学、最後の問題難しかったね。」


「あれは無理。」


 柚須は苦笑する。


「途中で諦めた。」


「私も。」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 ほんの少しの会話。


 それだけで十分だった。


 交差点で信号を待つ。


 夕日が街をやわらかく照らし始めている。


「明日、小テストあったよね。」


「英語。」


「あぁ……。」


 南が小さく肩を落とす。


「単語、全然覚えてない。」


「俺も。」


「じゃあ、お互い頑張らんとね。」


「そうやな。」


 また小さく笑う。


 学校のこと。


 授業のこと。


 宿題のこと。


 話しているのは、それだけだった。


 それでも、駅でしか話さなかった頃より、会話は少しずつ増えていた。


 博多駅が見えてくる。


 改札を抜け、二階から三階へ。


 ICカード専用改札の横。


 いつもの広場。


 いつものベンチ。


 二人は自然とそこへ向かう。


 カバンから本を取り出し、並んで座る。


 ページをめくる音が重なった。


 遠くから流れるアナウンス。


 改札を抜ける人の足音。


 ガラス越しに差し込む夕方の光。


 何も話さなくても、この場所だけは時間がゆっくり流れているように感じた。


 しばらくして南が本を閉じる。


「そろそろ帰ろっか。」


「うん。」


 二人は立ち上がる。


 改札の前で足を止める。


「また明日。」


「また明日。」


 短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かった。


 学校から駅まで一緒に歩くこと。


 広場で本を読むこと。


 それは少しずつ、「いつもの放課後」になり始めていた。

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