第3話「今日もいる?」
3話です1巻で30話10分の①です
放課後。
吉塚柚須は、いつもより少しだけ早く教室を出た。
理由は特にない。
……いや、ないこともない。
昨日と同じ場所に行けば、また会える気がした。
そんな曖昧な予感だけがあった。
校門を出て、駅へ向かう道を歩く。
いつもと同じ景色。
同じ帰り道のはずなのに、少しだけ違って見える。
博多駅に着くと、人の流れは昨日と同じように忙しなかった。
改札を抜け、エスカレーターを上がる。
本屋の前を通り過ぎる。
そのまま、あの場所へ。
ホームから上がったIC専用改札の横。
屋根付きの広場。
ベンチが見えた瞬間、柚須は足を止めた。
「……いる。」
福岡南は、そこにいた。
昨日と同じように、本を開いている。
まるで最初からそこにいるのが当然みたいに。
「やっぱり来たんだ。」
柚須が近づくと、南が顔を上げた。
「日課だから。」
「ふふ、私も。」
軽い会話。
それだけで、昨日の続きが自然に始まる。
二人は並んで座り、それぞれ本を開いた。
しばらく、何も話さない時間が続く。
それでも不思議と、気まずくはない。
駅の音が、背景のように流れている。
アナウンス。
発車ベル。
足早に通り過ぎる人たち。
その全部が、この場所の一部みたいだった。
しばらくして、南がふと本から目を上げた。
「ねぇ。」
「ん?」
柚須が顔を上げる。
南は少しだけ首をかしげるようにして言った。
「今日もいる?」
柚須は一瞬だけ考えて、それから小さく笑った。
「いるけど。」
「それって、偶然?」
「どうだろうな。」
南は少しだけ目を細めた。
「……じゃあ、私も偶然。」
二人で小さく笑う。
でも、その“偶然”が少しずつ形を変えていることを、どちらも気づいていた。
夕方の光がガラス越しに差し込む。
駅の中がオレンジ色に染まっていく。
本を閉じる音が重なる。
「そろそろ帰ろっか。」
「うん。」
二人は立ち上がる。
改札へ向かう途中、南が少しだけ歩幅を合わせてきた。
何も言わない。
ただ、隣にいる。
改札の前で立ち止まる。
少しだけ間があった。
「また明日。」
「うん。また明日。」
それだけの言葉。
でも、その言葉はもう“約束”に近くなっていた。
柚須はホームへ。
南は別の方向へ。
それぞれの帰り道へ向かう。
振り返らない。
けれど、明日もここに来ることだけは、もう疑っていなかった。
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