表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/31

第3話「今日もいる?」

3話です1巻で30話10分の①です



 放課後。


 吉塚柚須は、いつもより少しだけ早く教室を出た。


 理由は特にない。


 ……いや、ないこともない。


 昨日と同じ場所に行けば、また会える気がした。


 そんな曖昧な予感だけがあった。


 校門を出て、駅へ向かう道を歩く。


 いつもと同じ景色。


 同じ帰り道のはずなのに、少しだけ違って見える。


 博多駅に着くと、人の流れは昨日と同じように忙しなかった。


 改札を抜け、エスカレーターを上がる。


 本屋の前を通り過ぎる。


 そのまま、あの場所へ。


 ホームから上がったIC専用改札の横。


 屋根付きの広場。


 ベンチが見えた瞬間、柚須は足を止めた。


「……いる。」


 福岡南は、そこにいた。


 昨日と同じように、本を開いている。


 まるで最初からそこにいるのが当然みたいに。


「やっぱり来たんだ。」


 柚須が近づくと、南が顔を上げた。


「日課だから。」


「ふふ、私も。」


 軽い会話。


 それだけで、昨日の続きが自然に始まる。


 二人は並んで座り、それぞれ本を開いた。


 しばらく、何も話さない時間が続く。


 それでも不思議と、気まずくはない。


 駅の音が、背景のように流れている。


 アナウンス。


 発車ベル。


 足早に通り過ぎる人たち。


 その全部が、この場所の一部みたいだった。


 しばらくして、南がふと本から目を上げた。


「ねぇ。」


「ん?」


 柚須が顔を上げる。


 南は少しだけ首をかしげるようにして言った。


「今日もいる?」


 柚須は一瞬だけ考えて、それから小さく笑った。


「いるけど。」


「それって、偶然?」


「どうだろうな。」


 南は少しだけ目を細めた。


「……じゃあ、私も偶然。」


 二人で小さく笑う。


 でも、その“偶然”が少しずつ形を変えていることを、どちらも気づいていた。


 夕方の光がガラス越しに差し込む。


 駅の中がオレンジ色に染まっていく。


 本を閉じる音が重なる。


「そろそろ帰ろっか。」


「うん。」


 二人は立ち上がる。


 改札へ向かう途中、南が少しだけ歩幅を合わせてきた。


 何も言わない。


 ただ、隣にいる。


 改札の前で立ち止まる。


 少しだけ間があった。


「また明日。」


「うん。また明日。」


 それだけの言葉。


 でも、その言葉はもう“約束”に近くなっていた。


 柚須はホームへ。


 南は別の方向へ。


 それぞれの帰り道へ向かう。


 振り返らない。


 けれど、明日もここに来ることだけは、もう疑っていなかった。

見てくれてありがとう評価お待ちしてます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ