第28話「いつもの席」
放課後。
チャイムが鳴る。
柚須はカバンを持ち、教室を出た。
昇降口へ向かう。
そこには、いつものように南がいた。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで学校を出る。
歩幅も、歩く速さも、気づけば自然と合っていた。
駅までの道を歩きながら、今日返ってきた小テストの話になる。
「どうやった?」
「思ったよりできとった。」
「何点?」
「八十九。」
「惜しいね。」
「南は?」
「九十二。」
「負けた。」
柚須が笑う。
「この前、『授業聞いとけば大丈夫』って言っとったし。」
「ほら。」
南が少し得意そうに笑う。
「ちゃんと聞いとるけん。」
「はいはい。」
「まあここは解けてないけどココ!は解けてますからー」
「それ言ったらーこっちもー」
二人は笑い合う。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
今日も空いていた。
「やっぱりここやね。」
南が自然に腰を下ろす。
柚須も隣に座った。
本を開く。
ページをめくる音が重なる。
駅のアナウンス。
列車の走る音。
人の話し声。
全部が、二人にとって心地よいBGMになっていた。
しばらくして、柚須がぽつりと言う。
「最初はさ。」
「ん?」
「たまたま同じ電車やっただけやったのに。」
南は本を閉じる。
「そうやね。」
「気づいたら毎日ここにおる。」
「不思議やね。」
「でも。」
柚須は笑った。
「もう違和感ない。」
南も静かにうなずく。
「私も。」
それだけだった。
理由なんて考えなくてもいい。
放課後になれば一緒に帰る。
駅で本を読む。
「また明日」と言って別れる。
それが二人の日常になっていた。
帰る時間になる。
本をしまい、改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
二人は知らなかった。
この「いつもの放課後」が、明日は少しだけ違う景色になることを。




