第27話「そのままで」
放課後。
チャイムが鳴る。
いつものように昇降口へ向かう。
南が待っている。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで歩き始めた。
駅へ向かう道。
信号待ちで、南がふと空を見上げる。
「今日は風あるね。」
「涼しくてちょうどいい。」
「夏なのにね。」
笑いながら歩く。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
ベンチへ座り、本を開く。
しばらくページをめくっていると、一冊の本が床に落ちた。
南の本だった。
「あ。」
二人が同時に手を伸ばす。
一瞬だけ手が触れる。
「ごめん。」
「いや。」
どちらともなく手を引っ込める。
ほんの数秒。
それだけの出来事だった。
南は本を受け取り、小さく笑う。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
また本を開く。
ページをめくる音だけが響く。
でも、さっきまでとは少しだけ空気が違っていた。
気まずいわけじゃない。
意識しているわけでもない。
ただ、お互い少しだけ照れくさかった。
しばらくして、南が笑いながら言う。
「なんか変な感じやね。」
「何が?」
「今の。」
柚須も苦笑する。
「まあ、同時やったけんね。」
「うん。」
その一言で終わる。
それ以上は話さない。
話さなくても、その空気は少しずつ元に戻っていく。
帰る時間。
本を閉じ、立ち上がる。
改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
それぞれのホームへ向かう。
ほんの一瞬、手が触れただけ。
それだけなのに、その日の帰り道は少しだけ長く感じた。
そして翌日には、きっとまた「いつも通り」が始まる。
二人とも、それを当たり前のように信じていた。




