第26話「空いたベンチ」
放課後。
今日もいつものように学校を出る。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は駅へ向かって歩き始めた。
他愛もない話をしながら博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
すると、いつものベンチには先に親子連れが座っていた。
「あ。」
南が立ち止まる。
「珍しいね。」
「初めてかも。」
柚須も少し驚いたようにベンチを見る。
二人は顔を見合わせる。
「どうする?」
「隣、空いとるよ。」
少し離れた別のベンチを見つけ、そこへ座ることにした。
位置が少し違うだけ。
見える景色も少し違う。
それでも本を開くと、いつもの静かな時間が始まった。
しばらくして、親子連れが立ち上がる。
いつものベンチが空いた。
南がちらっと見る。
「空いたね。」
「うん。」
「移る?」
柚須は少し考えてから首を振る。
「今日はここでいいや。」
南も笑う。
「私もそう思った。」
二人はまた本に目を落とす。
場所は違う。
でも、落ち着く空気は変わらない。
駅のアナウンスが流れ、人が行き交う。
夕日がガラス越しに差し込み、ページをやさしく照らしていた。
帰る時間になる。
本を閉じ、立ち上がる。
「そういえば。」
南がベンチを見ながら言う。
「場所じゃないんやね。」
「ん?」
「落ち着くの。」
柚須は少し照れくさそうに笑った。
「……そうかも。」
それ以上は言わなかった。
改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
いつものベンチじゃなくても。
駅の景色が少し違っても。
二人の放課後は、変わらずそこにあった。




