第25話「いつも通り」
朝のホームルームが終わる。
先生の話が終わると、教室はいつもの賑やかさを取り戻した。
南は友達と話している。
柚須は窓際の席で本を開く。
目が合うこともあった。
でも、お互いに軽く笑うだけだった。
学校では、それ以上でもそれ以下でもない。
それが二人の距離だった。
放課後。
チャイムが鳴る。
柚須が昇降口へ向かうと、南が壁にもたれながら待っていた。
「帰ろ。」
「うん。」
並んで歩き始める。
信号を渡る。
コンビニの前を通る。
いつもの景色が流れていく。
「そういえば。」
南が口を開く。
「この前、『仲良しやね』って言われたやん。」
「あぁ。」
「今日ね。」
「うん。」
「友達にも『また一緒に帰ると?』って聞かれた。」
柚須は少し笑う。
「何て言った?」
「『うん、帰るよ。』って。」
「それだけ?」
「それだけ。」
二人は思わず笑った。
「間違ってないし。」
「説明するほどでもないしね。」
「確かに。」
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
ベンチに座る。
自然と同じ場所に座り、自然と本を開く。
もう、「ここに座ろう」と言葉にすることもない。
ページをめくる音が静かに重なる。
しばらくして、南がぽつりと言う。
「不思議やね。」
「何が?」
「最初は偶然やったのに。」
柚須は少し考えて笑う。
「今は、いつも通り。」
「うん。」
南もうなずいた。
「『いつも通り』って、いい言葉かも。」
二人はまた本に目を落とす。
駅のアナウンスが流れる。
人が行き交う。
夕方の光がベンチをやさしく照らしていた。
何も特別なことは起きない。
それでも、この時間は昨日とも、一週間前とも少し違う。
「いつも通り」が、少しずつ積み重なっていた。
帰る時間になる。
二人は本をしまい、立ち上がる。
「また明日。」
「また明日。」
その短い言葉も、もう当たり前になっていた。
当たり前だからこそ、大切だと、二人はまだ気づいていなかった。




