第24話「その一言だけ」
放課後。
教室では帰り支度をする音が響いていた。
柚須はカバンを肩に掛け、廊下へ出る。
いつものように昇降口へ向かうと、南が待っていた。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで学校を出る。
駅までの道を歩きながら、今日あった出来事を話す。
特別なことはない。
それが心地よかった。
博多駅へ着き、改札を抜ける。
三階広場へ向かう途中、後ろから声が聞こえた。
「あ。」
二人が振り返る。
同じ学校の男子生徒が友達と歩いていた。
「やっぱり。」
男子は笑いながら言う。
「今日も一緒なんや。」
柚須と南は顔を見合わせる。
「まぁ。」
柚須が少し笑う。
「いつものことやけん。」
「仲良しやな。」
その一言を残し、男子たちは笑いながら改札へ向かっていった。
二人の間に少しだけ静かな時間が流れる。
「……仲良し、か。」
南がぽつりと言った。
「そうみえるんやね。」
「そうなんじゃね?」
柚須は苦笑する。
「俺らは普通にしとるだけなんやけど。」
「うん。」
二人は三階広場へ着き、いつものベンチへ座る。
本を開く。
ページをめくる音だけが響く。
少しして、南が本から目を上げた。
「でもさ。」
「ん?」
「『仲良し』って言われて嫌だった?」
柚須は少し考える。
今日の帰り道を思い返す。
毎日の放課後。
駅まで歩く時間。
本を読む時間。
帰る前の「また明日」。
どれももう、自分の生活の一部になっていた。
「……嫌ではなかった。」
南は小さく笑う。
「私も。」
それだけ話すと、また本を開く。
いつもの静かな時間が戻ってくる。
駅のアナウンスが流れる。
夕方の光がページを照らしていた。
帰る時間になる。
二人はベンチを立ち、改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
誰かの何気ない一言。
それだけで何かが変わるわけではない。
それでも二人は少しだけ、自分たちの関係を考えるようになっていた。
まだ名前はない。
でも、その時間は確かに二人だけのものになっていた。




