第23話「いつもの2人」
朝。
教室にはいつものように話し声が広がっていた。
柚須が席に着くと、前の席の男子が振り返る。
「柚須。」
「ん?」
「最近さ。」
「何?」
「放課後、毎日一緒に帰っとるよね。」
柚須は少しだけ驚いた。
「そう?」
「そうやん。」
「たまたま方向が一緒やけん。」
「ふーん。」
男子はそれ以上何も言わず、自分の席へ戻った。
柚須は少しだけ首をかしげる。
「そんな毎日なんかな。」
自分では気づいていなかった。
放課後になる。
いつものように昇降口へ向かう。
南はすでに待っていた。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで歩き始める。
駅までの道。
信号待ち。
他愛もない会話。
それは昨日までと何も変わらない。
「今日さ。」
柚須が口を開く。
「クラスの人に言われた。」
「何て?」
「『毎日一緒に帰っとるよね』って。」
南は少し笑う。
「間違ってないね。」
「まぁね。」
「でも。」
南は前を向いたまま続ける。
「気づいたらそうなっとっただけやし。」
「うん。」
「意識したことなかった。」
柚須もうなずく。
「俺も。」
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
二人は並んで座り、本を開いた。
静かな時間が流れる。
ページをめくる音だけが重なる。
しばらくして、南が小さく笑う。
「なんか。」
「ん?」
「『毎日一緒』って言われると変な感じ。」
「分かる。」
「でも。」
柚須は本を閉じる。
「嫌ではない。」
南は少しだけ目を丸くしたあと、優しく笑った。
「私も。」
その一言だけで十分だった。
駅のアナウンスが響く。
夕日が広場をやわらかく照らしている。
今日も特別なことは起きなかった。
それでも、二人の放課後は少しずつ誰かの目にも映る日常になっていた。
帰る時間になる。
本をしまい、ベンチから立ち上がる。
「また明日。」
「また明日。」
いつもの言葉を交わし、それぞれのホームへ歩き出す。
少し前までは偶然だった。
今では誰が見ても、「いつもの二人」になっていた。




