第22話気づけば
放課後。
チャイムが鳴る。
柚須は教科書をしまい、席を立った。
廊下へ出ると、少し前を南が歩いている。
振り返り、目が合う。
「帰ろ。」
「うん。」
その一言だけで十分だった。
二人はいつもの道を歩き始める。
信号を渡り、駅へ向かう。
今日の授業。
新しく出た本。
週末の予定。
特別じゃない話をしながら歩く。
博多駅へ着くと、改札を抜けて三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
もう、どちらから言わなくても自然とそこへ向かっていた。
本を開き、静かな時間が流れる。
しばらくすると、隣のベンチに座っていた高校生くらいの二人組が立ち上がった。
そのうちの一人が、小さな声で言う。
「毎日来とるよね、あの二人。」
「うん。本読んどる人たちやろ。」
その声は小さく、柚須たちの耳には届かない。
二人は変わらず本を読み続けていた。
ページをめくる音だけが重なる。
やがて南が本を閉じる。
「最近さ。」
「ん?」
「ここ、落ち着くね。」
「うん。まあ最近からではないけどね?」
「家とも学校とも違う感じ。」
柚須は少し考えてからうなずく。
「ちょうど真ん中やね
。」
南は笑った。
「その言い方、いいね。」
二人はまた本を開く。
駅のアナウンスが流れ、人が行き交う。
そんな景色の中で、二人の放課後は今日も静かに過ぎていく。
帰る時間。
本をしまい、ベンチを立つ。
「また明日。」
「また明日。」
いつもの言葉。
それぞれのホームへ向かう。
二人は気づいていなかった。
毎日同じ時間に、同じ場所で本を読む二人の姿は、少しずつ駅の日常の風景になり始めていたことを。




