表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/30

第20話「少しだけ」



 放課後。


 いつものようにチャイムが鳴る。


 いつものように荷物をまとめる。


 いつものように昇降口へ向かう。


 そして、いつものように南が待っていた。


「帰ろ。」


「うん。」


 二人は並んで歩き始める。


 夏が近づき、日が長くなってきた。


 夕方の光が歩道をオレンジ色に染める。


 駅へ向かう道も、少しだけゆっくり流れているように感じた。


「今日さ。」


 南が笑いながら言う。


「数学、危なかった。」


「先生に当てられとったね。」


「全然分からんかった。」


「顔に出とった。」


「やめて。」


 二人は笑う。


 そんな他愛もない話をしながら、博多駅へ着く。


 三階広場。


 いつものベンチ。


 本を開き、それぞれの世界へ入っていく。


 しばらくして、一人の小さな子どもが走ってきた。


 勢いよく転びそうになる。


「あっ。」


 南はすぐに立ち上がった。


「大丈夫?」


 子どもは少し驚いた顔をしたあと、小さくうなずく。


 そこへ保護者が駆け寄ってきた。


「ありがとうございます。」


「いえ、大丈夫ですよ。」


 南は笑って答え、再びベンチへ戻ってきた。


「びっくりした。」


 そう言って本を開く。


 何事もなかったようにページをめくり始めた。


 柚須はその横顔を見ていた。


 困っている人がいたら、迷わず声を掛ける。


 それを特別なことだと思っていない。


 そんな南らしさを、初めて見た気がした。


「どうした?」


 視線に気付いた南が首をかしげる。


「いや。」


 柚須は慌てて本へ目を落とす。


「なんでもない。」


「変なの。」


 南は笑う。


 その笑顔を見ていると、柚須もつられて笑ってしまった。


 ページは開いたままなのに、文字が頭へ入ってこない。


 理由は分からない。


 でも、今日の放課後はいつもと少しだけ違った。


 帰る時間になる。


 二人は立ち上がり、改札の前まで歩く。


「また明日。」


「また明日。」


 南はいつものようにホームへ向かった。


 その後ろ姿を見送りながら、柚須は小さく息をつく。


「……なんやろ。」


 言葉にはできない。


 説明もできない。


 ただ一つだけ思った。


 今日は、いつもより会えてよかった。


 その理由を知るのは、もう少し先のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ