第19話「雨上がり」
昼過ぎから降り始めた雨は、放課後になる頃には止んでいた。
校舎を出ると、濡れた地面が夕日を映している。
水たまりを避けながら、柚須は昇降口へ向かった。
南は傘をたたみながら待っていた。
「止んだね。」
「うん。」
二人は並んで歩き始める。
雨上がりの空気は少しひんやりとしていて、夏の暑さを忘れさせてくれた。
歩道の木からは、ぽたぽたと雫が落ちる。
「雨の日の匂い、好きなんよね。」
南が空を見上げる。
「分かる。」
柚須も小さくうなずく。
「静かになる感じ。」
「そうそう。」
それだけ話して、また歩く。
無理に会話を続けなくても、不思議と気まずくならない。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
今日は人が少し少なかった。
二人は並んで座り、本を開く。
ページをめくる音だけが静かに響く。
駅のアナウンス。
列車のブレーキ音。
遠くから聞こえる笑い声。
どれもいつもと同じなのに、雨上がりだからか少しやさしく聞こえた。
しばらくして、南が本から顔を上げる。
「ねぇ。」
「ん?」
「もし、この広場がなかったら。」
柚須は少し考える。
「どうしてたやろ。」
「帰っとったかも。」
「やね。」
二人は笑う。
「じゃあ、この広場に感謝やね。」
「そうかも。」
また本を開く。
静かな時間が流れる。
何も特別なことは起きない。
それでも、この放課後は二人にとって特別だった。
やがて帰る時間になる。
本を閉じ、改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
それぞれのホームへ向かう。
夕焼けの残る空に、小さな虹が架かっていた。
二人は気付かなかった。
けれど、その景色も今日という放課後のどこかに、静かに溶け込んでいた。




