第17話「一通だけ」
放課後。
今日は空が少し曇っていた。
授業が終わると、柚須は職員室へ呼ばれた。
提出物の確認。
それだけだったが、いつもより少し時間がかかる。
校舎を出る頃には、もういつもの帰る時間を過ぎていた。
「待たせたかな。」
そう思いながら歩き始める。
そのとき、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
画面を見る。
南からだった。
『今日は先に駅に行っとくね。ゆっくりで大丈夫。』
短いメッセージ。
柚須は思わず笑った。
連絡先を交換してから初めて、本当に必要な連絡だった。
『ありがとう。もう少しで着く。』
それだけ返して、駅へ向かう。
博多駅。
改札を抜け、三階広場へ上がる。
いつものベンチ。
南は本を読んでいた。
足音に気付いて顔を上げる。
「おかえり。」
「ただいま。」
二人とも少し笑う。
「待たせた?」
「ううん。」
南は首を横に振った。
「本読んでたら、あっという間だった。」
「ならよかった。」
柚須も本を取り出し、隣へ座る。
ページをめくる音が静かに重なる。
しばらくして、南が小さく言った。
「今日さ。」
「ん?」
「初めて連絡先が役に立ったね。」
「ほんとやね。」
「やっぱり、大事な時だけで十分かも。」
柚須は笑う。
「それ以外は、ここで会えるし。」
「うん。」
その一言だけで、お互い十分だった。
駅のアナウンスが流れる。
夕方の光がガラス越しに差し込み、広場をやさしく照らしていた。
やがて帰る時間になる。
本を閉じ、二人は立ち上がる。
改札の前で足を止める。
「また明日。」
「また明日。」
それぞれのホームへ向かう。
ポケットの中には、お互いの連絡先が入っている。
でも、一番安心できるのは画面の中じゃない。
放課後になれば、いつもの場所で顔を合わせられること。
それが、二人にとって何より自然な約束になっていた。




