第16話「変わらないもの」
翌朝。
目覚まし時計が鳴る。
柚須は手を伸ばし、スマートフォンを手に取った。
画面には新しい通知が一件。
昨夜、南から届いたメッセージだった。
『おはよう。今日も暑そうだね。』
短い一文。
柚須は少し笑う。
『おはよう。ほんとやね。』
そう返して、スマートフォンをポケットへしまった。
学校へ向かう。
教室に入ると、南は友達と話していた。
柚須に気付くと、小さく手を振る。
柚須も軽く手を上げる。
それだけだった。
休み時間も、お互い無理に話しかけることはない。
学校には学校の時間がある。
それは昨日までと変わらなかった。
放課後。
チャイムが鳴る。
昇降口で南が待っている。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで歩き始める。
駅までの道。
交差点。
いつものコンビニ。
夕方の風。
何も変わらない景色が続いていた。
「そういえば。」
南が笑う。
「昨日、初めてメッセージ送ったね。」
「そうやね。」
「なんか不思議だった。」
「毎日会っとるのに。」
「うん。」
二人は顔を見合わせて笑った。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
本を開く。
ページをめくる音が静かに重なる。
しばらくして、南のスマートフォンが震えた。
画面を見る。
友達からの連絡だった。
返信を終えると、スマートフォンをしまう。
柚須は少しだけ笑う。
「俺には送らんの?」
南も笑った。
「今、隣におるし。」
「それもそうや。」
また本を開く。
お互い隣にいるのに、わざわざメッセージを送る理由はない。
必要なら話せばいい。
その距離に、二人はもう慣れていた。
帰る時間になる。
本を閉じ、改札の前まで歩く。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
連絡先は交換した。
でも、放課後は何も変わらない。
それが少しだけ、二人らしかった。




