第14話「当たり前」
朝から空はよく晴れていた。
教室へ入ると、窓から差し込む光が机を明るく照らしている。
柚須は席に座り、窓の外を眺めた。
校庭では運動部が朝練をしている。
いつもと変わらない景色だった。
ホームルームが始まり、授業が進んでいく。
休み時間になると、教室はすぐに賑やかになった。
南は友達と楽しそうに話している。
その姿を見ても、柚須はもう何も思わなくなっていた。
学校では学校の時間。
駅では駅の時間。
それでいい。
そう思えるようになっていた。
放課後。
チャイムが鳴る。
柚須はカバンを持って席を立つ。
教室を出ると、少し先で南が振り返った。
「帰ろ。」
「うん。」
それだけだった。
誰も不思議そうには見ない。
誰かが何かを聞くこともない。
二人は並んで歩き始める。
校門を出て、いつもの道を歩く。
交差点。
コンビニ。
歩道橋。
毎日通る道なのに、不思議と飽きることはなかった。
「今日、暑いね。」
南が空を見上げる。
「もう夏やけんね。」
「アイス食べたくならん?」
「なる。」
二人は顔を見合わせて笑った。
駅前のコンビニへ寄る。
それぞれ好きなアイスを選び、店を出る。
歩きながら食べるアイスは、少しだけ特別な味がした。
「こういうのもいいね。」
「うん。」
短い会話。
でも、それで十分だった。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
もう座る場所まで決まっている。
二人は本を開く。
ページをめくる音。
駅のアナウンス。
ホームへ向かう人たちの足音。
全部がいつもの放課後だった。
しばらくして、南が小さく笑う。
「最近さ。」
「ん?」
「『いつもの』って増えたよね。」
柚須は少し考える。
「確かに。」
「帰り道も。」
「広場も。」
「本屋も。」
「アイスも。」
二人は同時に笑った。
何か特別な約束をしたわけじゃない。
それでも、一緒に過ごす放課後は少しずつ形になっていた。
やがて帰る時間になる。
本を閉じ、立ち上がる。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
当たり前だと思える毎日は、案外簡単にはできない。
だからこそ、その何気ない放課後は、二人にとって少しずつ大切な時間になっていくのだった。




