第13話「いつもの場所」
放課後のチャイムが鳴る。
教室には帰り支度をする音が広がっていた。
柚須は教科書をカバンへしまい、静かに席を立つ。
今日は委員会があると先生が言っていた。
少しだけ帰る時間が遅くなる。
廊下へ出ると、窓の外は夕方へ向かう柔らかな光に包まれていた。
委員会が終わり、校舎を出る頃には、普段より人も少なくなっていた。
「今日は遅くなったな。」
小さくつぶやきながら駅へ向かう。
いつもの帰り道。
だけど、ふと考える。
「……今日はもう帰っとるかもしれんな。」
南には何も伝えていない。
連絡先もまだ知らない。
待っている理由なんてない。
そう思いながらも、足は自然と博多駅へ向かっていた。
改札を抜ける。
二階から三階へ。
ICカード専用改札の横。
いつもの広場。
ベンチが見える。
「……あ。」
そこには南が座っていた。
本を読んでいる。
柚須に気付くと、顔を上げて笑った。
「お疲れ。」
「……待っとった?」
「うん。」
あまりにも自然な返事だった。
柚須は少し驚く。
「帰ったかと思っとった。」
「今日は委員会って聞いたから。」
「そうやったっけ。」
「朝、先生言ってたよ。」
南は本を閉じる。
「せっかくだし、一緒に帰ろうかなって。」
その言葉に、柚須は少しだけ照れくさくなった。
「ありがと。」
「別に。」
南も少し照れたように笑う。
二人はベンチへ並んで座る。
本を開く。
ページをめくる音だけが静かに響く。
しばらくすると、駅のアナウンスが流れた。
人が行き交う。
その景色はいつもと変わらない。
変わったのは、ほんの少しだけ二人の距離だった。
帰る時間になる。
二人は立ち上がり、改札の前まで歩く。
「待ってくれてありがとう。」
柚須が言う。
南は少しだけ笑って肩をすくめた。
「ここで本読んでたら、あっという間だったよ。」
「そっか。」
改札の前で立ち止まる。
「また明日。」
「また明日。」
二人はそれぞれのホームへ向かう。
待つ理由なんて、まだ言葉にはできない。
それでも今日は、お互いが自然に同じ場所を選んでいた。
博多駅三階広場。
その場所は、少しずつ「約束の場所」になり始めていた。




