第12話 「少しだけ違う放課後」
月曜日。
休日が終わり、いつもの学校が始まる。
朝のホームルーム。
授業。
休み時間。
教室の景色は何も変わっていなかった。
それでも柚須は、昨日のことを少しだけ思い出していた。
休日の博多駅。
妹と歩く南。
学校では見たことのない、柔らかな笑顔。
教室の前の方では、南が友達と話している。
その姿も、いつも通りだった。
柚須は特に話しかけることもなく、自分の席へ戻る。
昼休み。
窓際の席で本を開く。
ページをめくりながらも、文字はあまり頭に入ってこなかった。
「昨日、博多なんで来とったと?」
ふいに声がした。
顔を上げると、南だった。
「暇すぎて行っとった。」
「やっぱり。」
南は少し笑う。
「まさか会うとは思わんかった。」
「俺も。」
「妹がね。」
「うん?」
「帰ってからずっと聞いてくるんよ。」
柚須は首をかしげる。
「何を?」
「『あの人誰?』って。」
思わず二人とも笑った。
「なんて答えた?」
「学校の友達って。」
「間違ってないな。」
「うん。」
短い会話だった。
それだけ話すと、南は友達に呼ばれて教室の反対側へ戻っていく。
柚須はその背中を見送り、本を閉じた。
放課後。
いつものように校門で待ち合わせる。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで歩き始める。
休日の話は、もうしなかった。
それでも気まずさはない。
話さなくても、お互いに昨日の偶然が少しだけうれしかったことは伝わっている気がした。
博多駅へ着く。
改札を抜け、三階広場へ向かう。
いつものベンチ。
いつもの景色。
二人は本を開く。
しばらく静かな時間が流れる。
やがて南がページから目を離した。
「昨日さ。」
「ん?」
「妹がね。」
少し照れたように笑う。
「『また会えるといいね』って言ってた。」
柚須は少し驚いて、それから笑った。
「会えるやろ。」
「毎日会ってるもんね。」
「そうやな。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
駅のアナウンスが流れる。
ホームへ向かう人たちの足音が広場を通り過ぎていく。
その中で、二人だけの時間は今日もゆっくり流れていた。
帰る時間になる。
本を閉じ、ベンチから立ち上がる。
「また明日。」
「また明日。」
短い言葉を交わし、それぞれのホームへ向かう。
休日の偶然は終わった。
でも、その出来事は二人の間に小さな温かさだけを残していた。
放課後は、今日も変わらず続いていく。




