第11話「休日の偶然」
休日の朝。
平日より少し遅く目が覚めた。
窓を開けると、夏を思わせる風が部屋へ流れ込む。
今日は学校もない。
特に約束もない。
柚須は部屋で本を読みながら過ごしていたが、昼前になるとふと思い立った。
「……駅でも行くか。」
理由はなかった。
気分転換。
それくらいの感覚だった。
電車に乗り、博多駅へ向かう。
休日の駅は平日とは少し違う。
旅行客。
買い物へ向かう家族連れ。
スーツ姿より、私服の人の方が多い。
駅を歩きながら、本屋へ立ち寄る。
新刊を眺め、気になる本を一冊手に取る。
そのまま三階広場へ向かおうとした、その時だった。
「……あ。」
聞き覚えのある声。
振り向くと、少し離れた場所に南が立っていた。
制服ではなく、白いシャツにデニム姿。
隣には、小学生くらいの女の子がいる。
南の妹だった。
「柚須!」
南が手を振る。
柚須も軽く手を上げる。
「休日に会うとは思わんかった。」
「私も。」
二人は笑う。
妹は二人の顔を交互に見ていた。
「お姉ちゃん、お友達?」
「学校の友達。」
「へぇ。」
妹は興味津々といった様子で柚須を見る。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
柚須が軽く頭を下げると、妹も元気よくお辞儀を返した。
「今日は買い物?」
「うん。妹の服を見に来た。」
「なるほど。」
少しだけ立ち話をする。
休日だからか、学校とも駅の放課後とも違う空気だった。
「じゃあ、そろそろ行くね。」
南が言う。
「うん。また。」
「またね。」
柚須は三階広場へ。
南と妹はショッピングフロアへ歩いていく。
少し距離が離れたところで、妹が急に立ち止まった。
「ねぇ、お姉ちゃん。」
「ん?」
「あの人。」
「柚須?」
「うん。」
妹は少しにやっと笑う。
「学校の友達って、それだけ?」
南の足が止まる。
「……それだけだけど?」
「ほんとに?」
「ほんと。」
妹は腕を組み、じっと姉を見る。
「なんか違う気がする。」
「違わないって。」
「でも、お姉ちゃん、さっきすごくうれしそうだったよ。」
南は一瞬言葉に詰まる。
「……そんなことない。」
「ある。」
妹はいたずらっぽく笑う。
「ふーん。」
「もう、買い物行くよ!」
南は少しだけ照れたように歩き出した。
「待ってよ、お姉ちゃん!」
妹が楽しそうに追いかける。
その声は、人で賑わう休日の駅へ溶けていった。
一方その頃。
三階広場のベンチで本を開いた柚須は、さっきの出来事を思い返していた。
制服じゃない南。
妹と笑い合う南。
学校でも、放課後でも見たことのない表情だった。
「……ああいう顔もするんやな。」
小さくつぶやき、本のページをめくる。
休日の博多駅は、今日もいつもより少しだけ賑やかだった。




