第10話「寄り道」
放課後。
チャイムが鳴り終わる頃には、教室の中はいつもの賑わいに包まれていた。
柚須はカバンを肩に掛ける。
廊下へ出ると、少し後ろから足音が近づいてきた。
「柚須。」
振り返る。
南が笑っていた。
「帰ろ。」
「うん。」
二人は並んで学校を出る。
夕方の街を歩くのも、もうすっかり日常になっていた。
学校であったこと。
授業のこと。
明日の小テストのこと。
特別じゃない話をしながら、博多駅へ向かう。
駅前に着くと、南がふと立ち止まった。
「そうだ。」
「ん?」
「本屋、ちょっと寄っていい?」
「いいよ。」
二人は駅前の書店へ入る。
新刊を眺め、気になった本を手に取る。
しばらく店内を歩き回り、それぞれ一冊ずつ本を選んだ。
店を出ると、南が駅とは反対側を見た。
「あ。」
その視線の先には、ゲームセンターがあった。
入口には新しい景品のポスターが並んでいる。
南は少しだけ目を輝かせた。
「ちょっと寄っていい?」
柚須はゲームセンターを見上げる。
「いいけど。」
二人は店の中へ入った。
電子音があちこちから聞こえる。
クレーンゲーム。
音楽ゲーム。
メダルゲーム。
放課後の学生たちで賑わっていた。
南は一台のクレーンゲームの前で立ち止まる。
「これ。」
ケースの中には、好きなアニメのぬいぐるみが並んでいた。
「欲しかったやつ。」
「やってみれば?」
「うん。」
百円玉を入れる。
アームがゆっくり動く。
「そこそこ。」
柚須が小さく言う。
「分かってる。」
ボタンを押す。
アームが景品をつかむ。
「おっ。」
一瞬持ち上がる。
……が、途中でぽとりと落ちた。
「あー。」
南は思わず笑った。
「惜しかった。」
「惜しいどころじゃない。」
「あとちょっとだったのに。」
「もう一回。」
二回目。
三回目。
結果は同じだった。
景品は少し動いただけ。
南は肩を落とす。
「今日は縁がなかったか。」
その言い方がおかしくて、柚須は吹き出した。
「そんな言い方ある?」
「あるよ。」
「初めて聞いた。」
二人は顔を見合わせて笑う。
景品は取れなかった。
それでも、不思議と残念な気持ちは小さかった。
「また今度挑戦しようかな。」
「その時は取れるといいな。」
「手伝ってね。」
「見守るくらいなら。」
「それ手伝ってない。」
また笑い声が重なる。
ゲームセンターを出ると、夕日が街をオレンジ色に染めていた。
「広場行こ。」
「うん。」
二人は博多駅へ向かう。
改札を抜け、二階から三階へ。
いつもの広場。
いつものベンチ。
並んで腰を下ろし、本を開く。
さっきまでの賑やかな電子音はなくなり、聞こえるのは駅のアナウンスと人の足音だけだった。
「結局、取れんかったね。」
本を閉じながら柚須が言う。
「でも楽しかった。」
南は笑う。
「また寄ろう。」
「うん。」
その一言が、とても自然だった。
ゲームセンターへ寄ることも。
本屋へ寄ることも。
そして最後に、この広場へ来ることも。
少しずつ、二人だけの放課後になっていく。
時計の針が帰る時間を知らせる。
二人は立ち上がり、改札の前でいつものように言葉を交わす。
「また明日。」
「また明日。」
その言葉は今日も変わらない。
けれど、二人の放課後は少しずつ色を増やしながら、静かに続いていくのだった。




