第六十四話 ディーさんとの出会い
「じゃあ、君はジパングに居を構えて、守護者達のサポートがしたい、そういう事だね?」
「はい、現地に赴いて待つのが、一番最善の手かと思いますので。」
「じゃあ、そのあたりの交渉に関してはこっちでやろうか、それ位の手伝いなら、しても問題ないと思うしね。ジパングは物々交換の国だ、だから、ここから品物を輸入するのが一番良いだろうね。……。ディーを呼んで貰えるかい?行商人のディー・セレスティアルに、僕から用事があるという事を伝えて欲しい。」
テンペシア様の都市に戻って、テンペシア様にジパングに向かおうと思っている事を伝えると、テンペシア様は誰かを呼んでほしいと神官の方に仰られていた、その時に出会ったのが、今となってはもう会う事もないであろう、と言うか、別れを告げたばかりである、ディーさん、ディー・セレスティアルその人だった。
「外園君、ちょっとだけ待ってね?彼は行商人だから、転移で飛ばしてくるにしても、少し周りの様子を伺わないといけないから。」
「承知しました。」
ディーさんとの出会い、それはジパングに居を構える事になってから、実際にジパングに居を構える三十年前の話、グランマリア号に乗り始めてから、かれこれ十五年程度は経った頃だった。
あの頃から、私とディーさんの行動圏がかぶっている、と言うのもあって、船に乗ってはディーさんと共に美咲さんの所で飲み、そしてディーさんが千鳥足で客室に戻って、と言うのを繰り返してきたのだが、そのディーさんと出会ったのが、あの時だ。
「テンペシア様、僕に何か用事ですか?」
「ディー君、君に依頼したい事がある、詳しい話はこれからするとして、取り合えずその依頼に関わる妖精を紹介するよ。こちらは外園君、世界を守る為に活動をしている妖精で、ジパングに居を構えたいという話だ。外園君、こちらは僕の都市の住人で、行商人として国を回っているディー君だ。」
「世界を守る為?それって、テンペシア様達と一緒の行動原理っていう事ですよね?まあいっか、外園君、僕はディー。ディー・セレスティアル。風の都市テンペシアの行商人だよ!」
「ディーさん、よろしくお願いします。私は外園、名は捨てたので、それだけでお許しください。それでテンペシア様、ディーさんに依頼するとは、どういった事を依頼するのでしょうか?」
今よりだいぶん若かったディーさん、まだ子育て中で、息子であるレイン君が一人前になる前だったディーさんは、今と変わらない優しい風色の瞳に大きな体躯、顔の特徴としては、長いマズルに髭が生えていた、何でも竜人は、この髭の長さが年齢に比例して長くなっていくのだとか、という話を聞いた覚えがある、現在のディーさん、港街で最後に会った時のディーさんは、髭がだいぶん伸びていた、それを加味しても、あの頃のディーさんは若かった、と言えるだろう。
そう言えば、竜人種の特徴として、竜神様と違う所と言うと、翼があるかどうか、だろう。
竜神様は人間の見た目に尖った耳、そしてそれぞれの属性を司った色の翼を生やしていらっしゃった、それに対して竜人種の方々は、マズルや肌の色が特徴的で、逆に翼は生えていなかった。
それがどうしてか、と問われると、竜人種の先祖に起因する所があるらしい、という話だけは聞いた事があった、ただ、それ以上の事、どうして竜としての一つのパーツである翼を失ったのか、という事を私はいまだに知り得ない。
「妖精っていう事は、美咲さんと一緒の種族?確か、彼女はエルフだって言ってた気がするけれど、似ているね。」
「はい、私はエルフ族になります。」
「フェルンから出る妖精は極端に少ないって聞いた事があるけれど、君はどうして国を出たんだい?」
「……。世界を滅ぼすだけの戦争、それを予期した存在として、やるべき事があるのだ、と。」
「世界を滅ぼす……?あの、僕が生まれる前に起こった大戦争の先の話?でも、滅ぶって言うのは聞いた事がないし……。」
「ディー君、その話はまた追々で。とにかく、外園君がジパングに居を構えたいと言っているから、その為の手伝いをして欲しいんだ。土地の交渉に関しては、そうだね、紅麗山の麓の村の村長と交渉をして欲しい、その旨を神童の家系の当代に伝えれば、おそらく話は通るだろうから。君には、主には外園君が生活をする為の物資を調達する役割を担ってほしい、これに関しては、この都市の長としての依頼だ。」
ディーさんの疑問は御尤もだっただろう、私のような妖精が「世界を滅びから守る」とって行動している事、それ自体がイレギュラーなのだ、だからディーさんの疑問符は当たり前だろう。
実際、最初ディーさんは首をかしげて私の方を見ていた、この妖精は信頼に値するか、ならばどうして風の神殿にいるのだろうか、テンペシア様が一定値の信頼を置いているのなら、信じても良いのだろうか、そんな感覚だった、と本人が後々に仰られていた。
「とにかく、外園君のサポート、それがディー君に僕から渡す指令だよ。これは、竜神としての総意だと思ってくれて構わない、外園君のサポートをして欲しい、という依頼だ。」
「……。はい、わかりました!じゃあ、外園君、一回僕達の所に来てもらっても良い?今ちょっと、家の方で品物の整理をしていてね。それを片付けてからじゃないと、話を聞く事も出来ないや。」
「私はそれで構いませんよ。」
「じゃあ、テンペシア様、お願いします!」
「うん、また詳しい話は後ほど。」
ディーさんがそうおっしゃると、テンペシア様は転移魔法を発動された、私は人生で二度目の転移魔法を経験したが、ディーさんは慣れている様子だった。
「さて、話を聞こうかな。どうして世界が滅ぶっていう事になってしまったんだい?テンペシア様にああいわれてしまった以上は、僕は協力するしかないけれど、事情位教えてくれても良いだろう?」
「はい、構いません。ただ、他言無用でお願いしますね。」
「まっかせなさいな、僕、これでも口は堅い方だよ?」
「では……。」
小奇麗な行商人の家、の二階、ディーさんの自宅のリビングに通された私は、ディーさんが物を片付けている間、ディーさんの奥さんであられる竜人のミナさんからお茶を頂いて待った。
何分間か、ディーさんがバタバタとしていたと思ったら、二階に上がってきて、開口一番にその言葉を発して、私に問うた、そんな流れだ。
私は語った、アンクウとして滅びの未来を視てしまった事、そしてそれを防ぐ為に活動を始めたきっかけ、キュリエとの出会い、別れ、ゾキュペ村の末路、それらを語った。
ディーさんは、最初は信じられない物を見る目で私を見ていた、私の言葉が信じられないというよりは「そんな過酷な人生があってたまるものか」と言った疑問を持っていた、と本人は仰られていた、そして、私の言葉が本当だ、と知るや否や、ぽろぽろと涙を流し始めたのだから、当時は驚いた。
「……。これが、私が世界を守らんとする理由です。ご納得いただけましたか?」
「……。うん、君は、ずっと辛かったんだね。僕達が幸せだと思って生きている裏側で、そんな事が起きていたなんて……。ごめんよ、泣き虫だから、涙が止まらないんだ……。」
「……。私の為に、泣いてくださるのですね。私は涙を失ってしまった、私は涙を流さなくなってしまった、そんな私の為に、泣いてくださるのですね。」
ディーさんの涙を、私はいつだって「嬉しい」と思っていた、涙を流せなくなった私や美咲さんの代わりに、まるでその気持ちや境遇、感情を代わりに請け負ってくれている様で、嬉しかった。
ディーさん本人は「泣き虫で弱虫だから」と仰られていたが、けれども、私の様に救われた存在もいる、私の様に「涙に意味を見出せなくなった」存在からしたら、涙を流してくれる存在と言うのは、ありがたい存在なのだ。
「うん、君の境遇も、理由もわかった。僕に出来る事があったら、なんでもするよ。まずは、家を建てたいんだっけ。じゃあ、幻夢君に手紙を送って、紅麗山の麓の村の村長さんに依頼してみようか。」
「はい、お願いします。」
「よーし、やってうやろう!きっと、世界を守る為に!」
「はい。」
ディーさんは、涙を拭って、えいえいおーと拳を上げた、それが何を意味するのか、に関しては私はわからなかったが、ディーさんなりの覚悟の決め方だったのだろう、と今なら考える。
そこから百年とちょっと、ディーさんとやり取りを続けて、私はここまでやってきた。
それもあと少し、どういう未来になるのか、どういう結末になるのか、それはわからないが、結果はもうすぐわかる、それだけは確かだ。




