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第六話 紅い瞳の「ジェライセ」

 さて、酒を煽りながら、何処から話を再開しようか。

 美咲さんと昔話に花を咲かせながら、私は思い出す事がある、それはね。


 あの時はそう、村の外に出たいと願っていた、トリムントスの言葉に根負けして、そして私自身村の外に興味があって、村の外を探検してみよう、となってから数日後の事だった、夕べに門番さんが交代で数分いなくなる、その時間帯を狙って、村の外に出てみよう、という、今思えば命知らずも良いところな、そんな冒険をしようと決断をした日だった。

「いくじゃん……!」

「ほんとぉにいくの……?」

「テイラット、今さら後に引くのは男じゃないじゃん……!」

 テイラット、アリサ、トリムントス、そして私の四人、探検仲間だった四人組は、夕べの黄昏れ時、に村の外に初めて出た、門番が門を閉じる前には戻ってくる、とトリムントスには念を押して、夜を超えて父や母に怒られないように、という話をして、その結果として、村の外に出た、そんな日の事だった。

「わぁ……!」

「これが、村の外側の景色なのですね……。」

 村にはぐるりと木製の柵があって、村の外側を見た事はなかった、それこそ、門の傍に近寄った時に、門の外をちらりと見かけた程度、だった。

 この黄昏れ時の夕景、と言うのも、柵が敷き詰められているから見た事がなかった、私が生まれて十年という年月が経った頃だったが、その頃まで、私達は日が沈む景色すら見た事が無かった、それ位には、村は厳重に柵をされていて、「魔物」という脅威への対策を入念に行っていた、だから、夕日が沈むという景色を、私達は見た事が無かった。

 門番がいなくなる数分の間だけ、とトリムントスに念押しをしたのにもかかわらず、テイラットですら、その景色に見入っていた覚えがある。


「……。戻りましょう、そろそろ、門番さんが門を閉めてしまう時間です。」

「……、もっとみたいじゃん!」

「でもねー、トリムントスー。あたし達、ママ達に帰るって約束しちゃったんだよー?」

「そうだよぉ、トリムントス……。」

 夕景を心に収めて、そろそろ門が閉まってしまう時間、だと私は考えていた、その時は、もう門番の方に怒られるのは仕方がない、門番が交代でいなくなる数分、に関しては超えてしまった、と時計を見て悟っていた、父や母に怒られないと良いが、と能天気な事を考えていた覚えがある。

「トリムントス、行きましょう。」

「……、また、見るじゃん。」

「はい、きっと。」

 未練がましく夕日が沈んでいるのを見ていたトリムントスの手を引っ張って、村から出てすぐの所にあった、木の陰、門番が来たとしても隠れられる場所、から出ようとした、その時だった。

「魔物だぁ!!!」

「テイラット!?」

「先生ー!魔物がー!」

「アリサ!」

 トリムントスの手を引っ張って、私とトリムントスが前を歩いていた、と思ったら、後ろから叫び声が聞こえた、獣種の魔物、四つ足歩行で、犬に似た体躯をした魔物、出はどうして魔物かと判断がついたのか、獣と何が違ったのか、それは簡単な話だ。

 魔物は「闇」を纏う、それは私達が本能的に忌避している事柄、私達にとって、害がある存在だと本能が知らせる、黒い靄を纏っている。

 だから、それが魔物だと気づいた、ざわついた感情、という警鐘の前に、魔物が来てしまったというのが正しかっただろう。

「逃げるじゃん!テイラット!アリサ!はやくするじゃん!」

「二人とも!走ってください!」

「怖いよぉ!」

「あたし、走るの苦手ー!」

 テイラットとアリサが、必死になって私達に追いついて、村の入り口にたどり着いた、けれど。

「しまってるじゃん!!!」

 門が閉じていた、門番さんが閉ざしてしまった、私達子供が外に出る、ということ自体想定外の話だ、それも当たり前だろう。

 門をたたく、必死になって、四人そろって、門をたたく。

 けれどけれども、門は開いてはくれなかった、一部の魔物は、人間の真似をする、私達妖精の真似をする、姿かたちが私達に似ている「亜人種」という魔物が存在している、とは学校で習っていた、だから、門番さんからしたら、その亜人種の魔物が妖精の真似をして村に入ろうとしているか、ダークエルフが村に奇襲を掛けようとしている、としか思えなかっただろう。

「……、戦うしか……!」

 誰も武器を持っていない、魔法を使えるのは現状私だけ、ならば、私が戦わなければ、その使命感に駆られて、私は三人の前に出た。

『ファイアボール!』

 火属性の初級魔法、ファイアボール、拙い魔法だったが、それでも時間を稼ぐ程度の事は出来た、その「時間を稼ぐ事」が結果として吉と出たけれど、あの時は絶望した、私の魔法では倒せない、まだ初級魔法しか使えなかった私では、この獣種の魔物は倒せない、何と終わりは呆気ないのか、ここで四人揃って殺されて、そして明日の朝には、魔物に食われて終わりなのか、そう絶望した、そんな記憶だ。

『ファイアボール』

 その時だった。

 村の外、木の陰の奥、森の方から、火球が飛んできた。

 誰かが助けてくれた、それは理解した、こんな辺境の村に立ち寄った旅人か、それとも私達を咎めに外に出てきた大人か、誰だったかはわからないけれど、魔物に対して、私と同じ魔法を使ったにもかかわらず、それは有効に効いていた。

「君達、この村の子供達だね?まったく、子供が外に出てはいけない、と言われなかったかい?大丈夫かな?」

「だ、誰じゃん!?」

 森の方から、誰かがやってきた、それは、私達を助けた人物であり、そして……。

「ダーク、エルフ……?」

「だよねー……?もしかして、あたしたちを食べに来たとか……?」

「うわーん!怖いよぉ!」

 薄暗がりでもわかる、紫色の肌、尖った爪に牙、そして紅い瞳、白く整えられていない頭髪、聞いた事はあった、私達が出会うことは決してないと思っていた、階級としては最下級、と言うべきか、忌避の対象とされていた、私達妖精族の血肉を啜って生きている、だから近づいてはいけない、関わってはいけない、と禁じられてきた、だーうエルフの特徴そのものだった、その方は、私達を助けた、それは間違いではなかったけれど、どうして助けたのか、ならば獲物を横取りされない様にと魔物を殺めたのか、そんな考えが頭をよぎった記憶。

「……。すまない、君達子供が、私達がどういった存在かと教えられているか、については熟考をしなければならなかったね。ただ、たまたまここを通りかかったと思ったら、子供が魔物に襲われてたものでね、ついつい、私達の掟を破ってしまった、という訳だ。決して君達の血肉を啜って餌にしよう、などという事を考えている訳ではない、そこだけは安心して欲しい。」

「その……、貴方は……?」

「私はジェライセ、洞窟で暮らしていてるダークエルフだ。このあたりには動物を狩りに来ていてね、おっと、警戒心を緩めない、その姿勢は正しいね。ただ、そうだね……。私達は元を辿れば君と同じ種族の出自だ、それを信じてくれはしないかい?」

「私達と、同じ……?」

「お、俺達とは全然違うじゃん!」

「そうだね、君達と私とでは、大きくその見た目は違う、それはそうだ。ふむ……、兎にも角にも、今は門を開けてもらわない事には、君達は村の中に戻れない、それが現状だろう。ついてきなさい、私は村の中には入れない、それは君達を脅かすとともに、私の尊厳を脅かす事になるからね。ただ、村を囲う柵には穴が空いている事は知っているかい?そちらのトロル族のお嬢さんでも通れる穴だ。」

「あたしでもー?でもー、村はぐるっと回ったけどー、そんなのなかったよー?」

「普段は隠匿されている穴だからね。魔物除けの結界、と共に、妖精族に対する視覚の誤認識、を起こす結界だ。実際触ってみると、そこに穴が開いている事がわかるはずだ。」

「……、私達を助ける、理由は?」

「疑り深いのは感心だけれど、今だけは私を信じてほしい、断じて私は君達に危害を加えない、それだけはそうさな、ダークエルフの誓いに準えて、誓おう。」

「……。先生、こいつ信じていいじゃん……?」

 助けてくれた、のがダークエルフだった、ジェライセと名乗った彼は、ダークエルフにあるとされていた、魔物と同質の黒い靄を纏ってはいなかった、魔物と同質の存在であれば、必ず黒い靄を纏う、そしてダークエルフは、本質が魔物だから黒い靄を纏う、それがフェルンの学校で習わされた事だった、その「黒い靄」をジェライセさんは纏っていなかった、それだけが、私にとっての、その場の決定権を任されてしまった、私にとっての判断材料のすべてだった。

「……。信じましょう、ならば、助ける理由はなかったのですから。」

「先生、でもぉ……。」

「ジェライセさん、でしたか。何かあったら、私の責任です。私がこの場の責任者として、決断をします。」

「信じてくれる事に感謝を、ならば、一つお願いをしても?」

「お願い?」

「私達の真実を、ダークエルフの真実を語る場を与えてほしい、今日は帰って、そうだね……。三日後の昼、私達の住まう洞窟に案内をさせてもらえないかな?その場で、私達ダークエルフの真実を語ろう、君の近縁種と言われながら、魔物と同質だと言われている、私達ダークエルフの真相、それを伝える事をしたい。」

「先生……、どうしよぉ……?」

 取り合えず門から離れて、ジェライセさんに案内されて村の柵にある「穴」を目指して歩きながら、私は考えた。

 もし万が一、私達を油断させて村を壊滅させるつもりなら、ならばその穴から入れば良いだけの話だ、ならば、そのダークエルフの真相、と言うのにも、興味が無い訳ではない、と私は感じた。

「……、わかりました、三日後の昼ですね。門番さんが交代で入れ替わる時間、に村を出ましょう。ジェライセさんのご自宅までは、どれくらいの時間がかかりますか?」

「ここから大体二時間と言った所かな、君達子供の足で歩いて、だったらだけれどね。私の歩く速度で、大体四十分と言った所だ、だから、そこから逆算するに、二時間は欲しい。」

「では、その日のうちに帰路に就く事は可能ですね?」

「そこに関しては保証しよう、道中魔物が出た場合、私が対処しよう。私は狩人の類でね、魔物程度なら倒せる。」

「……。信じます。貴方は嘘をついていない、私はそう感じました。」

 あの時の決断、ジェライセさんの願いを聞き届けて、ダークエルフの真相を知る為に赴く、という事をしたのが、後々に意味を持つ事になる、それは、とても大きな意味だった、私にとっては、国を脱する程度には、そして、世界を奔走する程度には、大事になるきっかけだった。

 最終的に、村の北側、門が西にあるのに対して、北側に穴があった、そこを通って私達は無事に村に戻る事が出来た、両親に気づかれることもなく、誰かに咎められる事もなく、その日の事は四人だけの秘密だ、と誓いあって、帰路に就いた。

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