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聖獣達の鎮魂歌外伝~預言者の物語~  作者: 悠介


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第五話 バー「デュボア」

 カランカラン

「やぁ、外園君。ハオちゃんは良いのかな?」

「えぇ、子供に飲ませる様な趣味の持ち合わせはありませんので。」

 午後二時、少し腹が整ってきた頃に、私はグランマリア号の五階にあるバー「デュボア」に来た。

 カウンター席が十席、テーブル席が五席、ランプに火がともって、窓辺から柔らかな光が差し込むバー、夜になると、魔法でつけられるランプを灯して、幻想的な雰囲気になる、そんなバー。

 出迎えるバーテンダーは美咲・デュボア、私と同じエルフ族の女性で、私よりは若いけれど、このグランマリア号が出来てから五十年、ずっとバーテンダーとして客に酒をふるまっている、そんな女性だ。

 私がフェルンに戻れない理由があるのと違って、彼女は何時でもフェルンに出入りが出来る、フェルン産のワインやウィスキー、を飲む為には、ここに来るのが手っ取り早い、という話だ。

「さ、何を入れようか。」

「クレールを頂きましょうか。」

 美咲さんの見た目に関して何かを評するのであれば、ポニーテールの金髪に、パリっとしたパンツスーツといういで立ちは、男装の麗人、という事柄に当てはまるだろうか、フェルンの女性はスカートを好んでいる、という流行が、私がフェルンを出る前には会った覚えがあったが、それには従っていない、それが美咲さんらしい。

 碧眼の瞳、に関しては、私と同じと言うべきか、エルフ族の中では特徴的と言うべきか、多くのエルフが持つ素養だ。

 人間からしたら、瞳の色が違う、と言うのは、出身地や種族の違い、という話になってくるのだろうけれど、私達エルフ族は、大概が紺碧や碧玉色、と言った色合いの瞳をしているのが通例だ。

 私の瞳の色であるエメラルドグリーンも、言い換えれば碧玉色、と言い換える事が出来る、そういう意味で、私達エルフ族にとっては、瞳の色と言うのは、両親から受け継ぐ素養であって、普遍的な要素だ。

 ただ一つ、紅の瞳を除いて、だがね。

「はい、クレールだよ。」

「頂きましょう。」

 クレール地方、という、フェルンの中では東側に位置する小規模な街、クレール、で作られている、伝統的な手法のワイン、葡萄を綺麗に洗って、大樽の中に入れて、踏んで潰して、そこで出来た原液を暗室保管して、発酵させるという手法で出来た、クレールというワイン、私がフェルンにいた頃は中々ありつけないワインだという噂は聞いていた、製法が製法なだけあって、数が絞れないのだ、と。

 他の地方では、圧搾機を使って原液であるぶどうジュースを抽出しているが、クレールでは違う、足で踏んで、という手法をとっている為、高級だという話だった。

 かくいうここ、デュボアでも、一番高いワイン、がクレールだ、他の地方のワインだったり、ウィスキーだったり、諸々置いてはいるものの、クレール以上に品数が揃いにくいワインもそうそうお目にかかれない、と美咲さんは言っていただろうか。

「んん、この気品のある香り、上品な味わい、どれをとっても、何処のワイン以上ですねぇ。」

「私が飲んできた中でも、史上の逸品だと認識しているからね。それに、私にとっては故郷でもある、故郷の飲みなれた味、と言うのは、中々に捨て難いものだよ。」

「そう言えば、美咲さんはクレール地方の出身でしたか。」

「そうだね、クレールの片田舎、葡萄畑の農家の出身だよ、私はね。と言っても、それは祖父までの話だったけれど、ね。」

 美咲さんの人生、それも筆舌に尽くしがたいと言うべきか、両親は葡萄畑の売れ行きに悩んでいて、結果として、ウィザリアに研究に行った、という話で、その時に美咲さんは売られた、奴隷として売られたという話だった、そんな彼女がどうしてグランマリア号でバーテンをしているのか、と問われると、その奴隷商売の結果にたどり着いた師匠、という方が、偉く酒のみだった、そして、その師匠に優しくされた美咲さんは、その酒の造詣の深さに惚れこんで、バーテンダーという道を選んだ、その話を聞いたのは、グランマリア号が出航を始めて、すぐに乗った時の話だった、帆船から蒸気船へと切り替わって、運営の為の封が切られて、フェルン以外の世界中が、蒸気船を迎え入れる為の準備に奔走していて、その頃から五十年、美咲さんはバー「デュボア」を守り続けてきた、私が初めてグランマリア号に乗ったのは、確かドラグニートからサウスディアンに向かう時、その頃には、運営開始から五年程度は経っていた覚えがある、その頃に、私は初めてグランマリア号に乗船し、そして美咲さんに出会った。

 それからというもの、移動に関してはこの四十年と少し、この蒸気船を使い続けている、乗るたびに美咲さんの所に顔を出して、こうしてクレールを飲んで、と言うのが、私の中では習慣になっていた。

 今回はドラグニートを経由して、ソーラレスに立ち寄ったのちに、ジパングへと渡る予定だ、そこから先、旅を続けるのかどうかはわかっていない、このグランマリア号もだいぶん旧式と言われる類にはなってきたという話も聞いた、五十年間運航を続ける技術、というのは、私達の文明の中では難しいのだ、と。

「美咲さんの人生、も中々なものだとは認識していましたが、はてさて……。」

「君と比べてしまったら、私の人生など些事だよ、外園君。君の人生、それは私からは想像もできない位には、大変だったんだろう?」

「大変だった、と一口に言われましても、何が大変だったのか、ならば何を過酷な人生と言うのか。そう言った部分に関しては、熟考の余地がありそうですねぇ。美咲さん程の美人な方でも、苦労はされているのですから、逆に私の苦労は些事、ととらえる事も出来るでしょう。」

「美人……、君に出会ってから四十年以上が経ったけれど、未だにその社交辞令は言うのだね?」

「おや、社交辞令や冗談の類だと思われていたのなら心外ですね、私にとっては、美咲さんは美人ですよ、何処からどう取っても、麗人と言うべきでしょうかね。」

「まったく、女をからかうものじゃないよ、外園君。」

 お互い、人生を語り合った事があった、まだであってそこまで経っていないかった頃、私はキュリエを失って、呆然事実としていた頃、旅の中でやけ酒でもしないとやっていられない、と思ってこのバーに来た時に、人生について吐露した覚えがある、美咲さんもフェルンの出、つまりダークエルフであるキュリエと行動を共にしていた、という事実には驚いていたが、結果として、私の言葉を信じる道を選んでくれた、フェルンから追われている身である私の事を、フェルン側に告げ口せずに、私の旅を妨害せずにいてくれる事、それに関して、私は美咲さんを信頼に値する人物だ、と認識する様になった、そのきっかけが、その吐露だった。

 互いに長い道のりを歩いてきた、私はアンクウという死神、王家に仕える神官として、数多の死の未来を「視て」来た、それだけが私に与えられた役割だった、王家にとって都合の良い死、転生、教会を没落させる為に必要な死、それらを何百年と視続けた、私は、それをし続けるほかに道が無かった、私がきっかけで村が滅んで、私のせいで村が滅んで、私は居場所を失った、そして王家に誘拐された、素子て美咲さんは、クレール地方の田舎町の少女として、葡萄踏みに加わって生きていくはずだったのにもかかわらず、両親の野望によって、ウィザリアにおいて人身売買の奴隷として生きる事になった、私藻美咲さんも、結果として今を生きている、結果として生き延びた、というだけで、何か一つ間違えていれば、そこで死んでいただろう。

「さて、グラスが空いたけれど、次は何を飲むかい?つまみは何が良いかな?」

「では、ノースディアンのウィスキーを頂きましょう。つまみはそうですね……、レッドチーズを頂きましょうか。」

 ウィスキーとスモークチーズで一杯やりながら、旅の中で新たに得た知見を話したり、逆に美咲さんから受け取る世界の情勢を整理したり、そう言う話をするのにはもってこい、というよりは、普段他の客は夜に飲みに来るのだから、昼間はあまり混まない、美咲さんを独占しても、誰も文句を言わない、美咲さんは旅人の中で、酒を嗜む者達からしたら人気者、なのだが、今は私一人が独占しても誰も文句は言わない、誰かに聞かれることもない、だから、そういった話をするのには、丁度「都合がいい」という奴だろう。

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