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第四話 探検仲間

 さて、物語と言うのはどこから語るのが良いのだろうか、相応しいのだろうか、私の物語、七百年という、長い様で短かった生命活動の中で、切り貼りして語るべきはどこだろうか、という事を、パイプを吸いにデッキに出ながら考える、私にとっての人生、人間ではないのだから、妖精生とでも言えば良いのだろうかね、まあ、それを語るには、少々長い時間を要する、はてさて……。


 始まりは些細な事だった、私の旧友だったトロル族の少女「アリサ」、私と同じエルフ族の少年「テイラット」、そしてゴブリン族の少年だった「トリムントス」、そして私、いたずら好きだった子供達、と大人には認識されていた、「探検仲間」と呼ばれていた、そんな子供達がいた。

 テイラットは臆病者、トリムントスはやや無謀、アリサは熟考を重ねるタイプ、私は子供の頃から学者肌で、「先生」と呼ばれていた。

「先生ー!村の中の探検は飽きたじゃん!」

「でもぉ、村の外は魔物がいるんだよぉ……?」

 じゃん、が口癖のトリムントスは、ゴブリン族らしい尖った鼻に土気色の肌、そして小さい体に大きな野望、と言う、所謂ゴブリンらしい子供だった、じゃん、はなんとなくかっこいいから、という理由で彼が独自に編み出した口癖だったんだとか、そんな話をされた覚えがある。

 逆にテイラットは、エルフらしい好奇心を持たない子だった、聡明で好奇心旺盛、探求心が強いのがエルフ族の特徴で、私ももれなくその類だったのだが、テイラットはそうではなかった、エルフらしからぬ繊細な性格で、臆病者で気弱、という印象が強い子供だった。

「うーん、魔物はねー、怖いってパパ達が言ってたからねー。」

「そうですよ、トリムントス。魔物に襲われてしまったら、私達では敵わないでしょう、もう少し魔法の勉学をしてから……。」

「勉強は嫌いじゃんよー!」

 トロル族のアリサは、トロルという知的にはあまり優れていない種族にもかかわらず、勉学に励んでいる私達の中では一番体躯が大きい少女で、鼻の形がトリムントスとは逆で潰れていて、それがコンプレックスだ、と言っていた。

 私は、と言うと、乳から受け継いだ白髪と、母から受け継いだエメラルドグリーンの瞳が印象的な子だ、と言われていた、幼少から視力が悪く、鼈甲で作られた眼鏡を掛けていた、それは現在でも変わらない。

 当時は、眼鏡が大きくて「大人になってからも使い続けられるように」という願い籠められて眼鏡を受け取った、祖父からの誕生日だった覚えがある、その祖父は、私が生まれて、眼鏡をプレゼントされて以降会っていない、もしかしたら生きているかもしれない、もしかしたら死んでいるかもしれない、所謂「生死不明」という状態だ。

 一部では「ダークエルフ」に攫われて殺された、という噂もたった時期があった、ただ、それは大きな過ちの情報だった、と私はのちに知る事になる、それを聞かされた時には、少しどころではなく、ダークエルフが怖くなった覚えがあった。

「先生なら魔物に勝てるじゃん!」

「私?私は勝てませんよ、まだ基礎的な魔法しか教わっていないのですし……。」

「でも、先生は俺達の中じゃ一番強いじゃん!」

 魔法の勉強、に関しては、私、アリサ、テイラット、トリムントスの順番に賢かった、逆に言えば、身体能力で言うとアリサ、トリムントス、私、テイラットという順番だったが、フェルンにおいては、身体能力より魔法的能力の方が重要視される傾向があった、それはゴブリン族だったとしても、トロル族だったとしても、エルフ族だったとしても、他の種族、私の住んでいた村にはいなかったけれど、ホビット族などと言った、他の種族であろうと、変わらなかった。

 魔力の量によって階級が変わる、ハイエルフというエルフの近縁種、施政者として国の運営をしていた存在達、もそれは変わらない、フェルンにおいては、身体能力がいくら高かろうと、魔力が著しく少ない存在は蔑視の対象だ、所謂底辺に位置する存在、と言うのは、魔力の少ない、魔法の扱いが得意ではない存在達、によって構成されている。

 それとは別に、ダークエルフという被差別階級のエルフ達がいたが、その話はまた後ほど、というよりは、私の運命が変わったのは、彼に出会ってからだろう。

「先生の魔法があれば、魔物なんていちころじゃん!」

「そう言われましても、私もまだ初級魔法しか使えませんし……。」

 テイラットにせがまれていたのは、村の外の探検、私達は村から出た事が無かった、ダークエルフという、妖精種の血を啜って生きている、とされるエルフの近縁種がいるだとか、闇という特殊な属性から生み出される「魔物」という存在が、私達では太刀打ちが出来ないだろう、子供のうちは村を出ず、勉学に励んで魔力を高める、と言うのが、フェルンのどの村でも基本方針だった、村の入り口は一つ、門番という魔力の少なく身体能力の高い、蔑視の対象であるとされていた方達が守っていて、村に対する脅威に関しては、その門番の命をもって立ち向かう、とされていた、私は魔力に優れている類だった為、そこの立ち位置になる可能性は限りなく低い、と言われていたが、テイラットやトリムントスは、その門番の役割を将来的に担わされる可能性がある、と言われていた、所謂優等生と劣等生、という立ち位置だった。

 そんな私達が仲よく「探検仲間」をしていたのは、偏に子供がほとんどいなかったから、私達の世代に属する存在、が著しく少なかったから、という理由だろう、私の両親は、別段差別意識だとか、選民思想があった方ではなかったが、テイラットやトリムントスと関わる事には難色を示していた、それ位、私達にとって魔力による階級社会、と言うのは普遍的だった。

 そんな、中流や下級の階級にいた私達は、村の外に出て探検するかどうか、という議論をしていた、狭い村の仲は、入ってはいけないと言われていた教会の「神木の間」以外は探検しつくした、だから、村の外に出て探検がしたい、それがトリムントスの願いだった、私やアリサが止めたとしても、テイラットが怖がって行きたがらなかったとしても、彼はめげなかった、彼は、村を探検しつくしたのだから、今度は村の外に出て、という主張を繰り返していた。

「じゃあ、俺一人で行くじゃん!魔物だって、俺が倒しちゃうじゃん!」

「それは……。トリムントス、大人の人でも勝てない事があるというのに、魔法が苦手な君が勝てるとは思えませんが……。」

「じゃあ先生もついてくるじゃん!」

「トリムントスー、先生を困らせちゃだめだよー?」

 トリムントスがそんなことを言い出した時には、本当にこの子は好奇心が旺盛で、私達エルフにも劣らない程度に探求心が強い、と感じた覚えがある、所謂「根負け」をした、というやつだ、結果として、その日は解散して、門番の方が交代や休憩で席を外す時間、を狙って村の外に出る計画、というものを考えた、私からしても、村の中は窮屈で、両親がそこで満足しているから私もこの村にいるだけ、という認識だった、ロザウェルという首都、にいつか向かって、魔法の研究がしたい、それが私の将来の夢だった。

 そんな過去があって、ではどうして私は今、フェルンを「脱して」ここにいるのか、脱するという事は、悪い事があった、都合が悪い事が、そして私にとって、そこに居てはいけない理由があった、という事だが、それが何なのか、そして、ダークエルフに隠された真実を知った時、私はハイエルフを心底軽蔑した、私の中で、ハイエルフの研究者は憧れの対象だったのだが、ダークエルフの真相を知って以降、私にとってハイエルフは、ある意味軽蔑や蔑視の対象になってしまった、それ位、その真実は衝撃的だった、出会ったダークエルフが優しかった、というよりは、根が真面目で、真実を妖精達に伝える機会を伺っていた、ただ、神木はダークエルフにとっては危険なもので、私達エルフや妖精が、死んで神木に還って、そしてまた生まれ落ちるという歴史があって、それが当たり前だったのに対して、ダークエルフは違った、彼らにとっては、神木と言うのは危険すぎる程度に危険だった、理性を狂わされる、とはよく言ったものだ、ハイエルフ達が、自分達の支配を盤石なものとする為に生み出した、人造の被差別種族、それがダークエルフだった。 

 さて、それを知る前でには、もう少し思い出がある、ジェライセさん、というダークエルフに出会い、そして真実を知り、そこから数年が経って、やきもきしているうちに、私は「アンクウ」となり、村は滅んだ。

 それを語る為には、そうさな、クレール地方のワインでも傾けたい気分だ。

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