第三話 グランマリア号
「はぁい!イケメンにかわいこちゃん!」
「マダム、今日は空いていますね。」
「そうねぇ、まだ昼時には早いんじゃないかしら?」
食堂に降りると、むっちんとしたマダムな食堂の受付の女性がいて、奥では魔力を使って厨房を一人で動かしている壮年の男性がいる、私達にとっての旅の生命線、給仕と言うのは、この方々が担っている、という訳だ。
「私はコーヒーとサンドイッチを頂きましょうか。」
「サンドは何サンドにするのかしら?」
「そうですねぇ、ハムエッグのサンドにしていただけますか?卵の在庫はありますかね?」
「えぇあるわよぉ?かわいこちゃんは何にする?」
「えっと、カレーにサンドイッチと、サラダとハムと……。」
ハオが見た目や年齢に似合わず大食いな事は知っていた、けれど、ここまで大食いだと認識すると、ある意味感動すら覚える、この小さな体のどこにそれだけの食事をため込んでいるのか、ハオはそこまでふくよかな方ではない、むしろ細身な類の子供だ、だから、それだけの量を食べていられる理由、が私にはわからない。
「じゃ、注文受けたわよー!」
「ハオ、座りましょうか。」
「あ、うん!」
水を受け取って、ウィスキーは食後で良いだろう、子供の前で酔っぱらう様な事があってもいけない、だから、午後に船内のバーに行くまでは、それを楽しみに今は食事をしようか。
「先生は、小食なんだね……!」
「そうですねぇ、私からすれば、君が大食いな類だとは思いますがね。」
「そ、そうかなぁ。」
何故か顔を赤らめるハオは、ささっと運ばれてくる食事に目を輝かせて、まるで何かに掻き立てられているかの様に、カレーを頬張っている。
「さて、私も頂きますか。」
サンドイッチ、ハムとゆで卵、それにマヨネーズを加えて混ぜた単純なサンドイッチ、ただ、これ位がお気楽で助かると思っていた、私は、自分で作るには凝り性な類、誰かに振舞うには凝り性な類だが、人さまが作る料理、に関しては無頓着と言える類の性格だ、と認識していた、最低限食べられればそれで良い、他人の作った料理にあれやこれやと文句を言うのは違う、と言う話だ。
ただ、この船の料理は美味い類だ、他の連絡船にも乗船した事があったり、旅を始めて百年の間に帆船だったのが蒸気船に変わったりもした、という変化は感じていれど、この船、グランマリア号の食事は、何時だって美味しい、と感じる。
ハオがバクバクと食事を食べている隣で、私はのんびりとサンドイッチを齧り、コーヒーをすする、私はコーヒーはブラックの渋みが好きだ、砂糖とミルクを入れてマイルドにしたものも嫌いではないが、基本的には、コーヒーとは苦みを味わうものだ、と思っている。
一部の地域では、というよりは私の故郷の村でもそうだったが、コーヒーよりココアという、甘みのある暖かい飲み物が主流だった、ただ私は、両親の影響か、子供のころから苦いコーヒーを飲みなれていた。
「ん……、先生、もう食べ終わっちゃった?」
「そうですねぇ、君は君のペースで食べればいいのですよ。」
ガツガツと食べるハオを眺めていると、かつての旧友を思い出す、もういなくなってしまった友柄、私にとっては、忘れられない友柄、忘れてはいけない友柄、私の力のせいで失ってしまった、そんな関係だった、とあるトロルの子供を思い出す。
アリサ、という、トロル族という知性の足りないと言われている種族の中では聡明で、賢い部類だった少女、彼女は、トロルらしく大喰らいだった思い出がある、学校の給食では足りないといつも嘆いていて、学校から帰ると、まず最初にお母様の焼いたクッキーを平らげていた、という子供だった記憶がある。
ハオは人間族、私達妖精と違って、人間と言うのは儚い、と誰かが言っていた、私達エルフが五千年の時を生きるのであれば、人間は生きたとしても百年、平均寿命としては五十年を下回るというのだから、その差には驚きだった。
儚い命、私達エルフが一世代を超えるのに、人間という種族は何世代、下手をすれば何十世代と世代を重ねなければいけない、それだけの歴史を重ねて、人間という種は存続している、と知識では知っていたものの、実際それを目の当たりにした時には、えもなく悲しみを覚えたものだ。
トロル族やゴブリン族も、私達エルフ族より寿命は短いが、人間ほどではない、人間ほどに寿命が短い種族、となると、後は家畜などの言葉が通じない動物、死か私は知らない。
「ふー、ご馳走様でした!」
「美味しかったかい?」
「うん、ここのご飯、私は好きなんだ……!ただ、ソーラレスはお肉が食べられないって聞いたから、ちょっと不安……。」
ソーラレス、仏門という、特殊な宗教が繁栄している国、確かに、あそこは肉の類が食べられない、食べられていない、宗教的に許されていないだとかで、確か「精進料理」という、菜食の料理が当たり前だった、と訪問した時の記憶が残っている。
仏門というもの自体が、セスティアという世界からやってきた宗教だ、とはテンペシア様が仰っていた、テンペシア様と言うのは、ドラグニートや、ひいては世界を守護する八柱の竜神が一柱「風の竜神莫竜テンペシア」という竜神様の名前だ。
キュリエという少女を連れて、少ない旅費を何とかしてたどり着いた莫竜様の都市、神殿にたどり着いて、「ダークエルフ」という、エルフの近縁種の様で違う、ハイエルフ達によって人為的に生み出されている被差別階級を許して良いのか?と歎願しに行った際には、「世界の運営に必要な事に関しては、僕達は介入を許されていないんだ」という回答が返ってきた、竜神様は世界の守護が目的の種族であって、種族間での諍いや、国家間での諍いには基本的に手を出してはいけない、と言うのは、その直後にデイン様から聞いた事だ。
竜神様の目的、八柱足してデイン様がいらっしゃる竜神様方は、世界の守護、「年輪の世界群」と呼ばれる、私達世界に属する存在では探知する事も、認知する事も、行き来する事も出来ない世界を守っている、という話だった、デイン様もかつては「セスティア」の守護者の一人だった、と。
「君は肉を食べるのが好きなのかい?」
「えっと、鹿肉を食べるのが、私達北の民の食生活だから。」
「鹿肉、鹿と言うのはあれですかね?角が大きな草食動物の事でしょう?」
「えっと、うん、その認識であってるかな。」
鹿、という草食動物は、確か生え変わる大きな角が特徴的な草食動物で、ノースディアンに生息している、という種別の動物だ、と聞いた事があった、その肉を食べるという事は、北の民も狩猟はするのだろう、ただ、ドラグニートの都市「ヴォルガロ」で製造されているという「マスケット銃」がノースディアンに流通しているのか?と問われると、懐疑的な部分がある、という事は、弓矢で狩猟をしている、という事になるだろうか、そう言った部分に関しては、私が出る前のフェルンとあまり変わらない、のだろうか、フェルンでは、魔法による狩猟が主で、弓矢を使うのは一部のエルフ族だけなのだが、人間とエルフとでは魔力の総量や、精密さが違う、と言うのはきいた事があった、実際、何百年という長い時間ではあるが、神官として魔法の鍛錬をして来た私よりも、魔法に長けている人間は見た事が無かった、とある地域で、魔法を得意とする人間の一族がいると聞いて、興味本位で関わった事があったが、私には遠く及ばない練度の魔法、しか使えていなかった。
「下げますよ。」
「ありがとうございます。」
「先生、この後の用事は?」
「バーに行こうと思っていますよ、君はまだアルコールが飲める年齢ではありませんね?」
「うん、お付き合いしたいけど……、お酒はだめだって、パパに言われてるから……。」
食器を給仕担当の方が下げて、私は食後のコーヒーを飲み終えて、一服がしたいという感覚だ。
と言っても、まだ小さいハオに煙を吸わせる訳にもいかない、とは思っていた、だから、私達は部屋の前で解散して、私はパイプに葉を詰めて、喫煙出来るデッキに向かう。




