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第四十九話 守護者とは

「幻夢君、これからもよろしくお願いしますね、君の一族の方々とは、長い付き合いになりそうですから。」

「おうよ、任せろってんだ!外園さんはエルフ種なんだろ?ってこたぁ、俺達よりずっと長生きだ、なら、俺の一族が面倒見るってのが筋だろな。ディーのやつもそう言ってたしな!」

「あはは、それはありがたい話です。それでは、私は文献を纏める為に暫くこもりますので、基本的には麓の村とのやり取り、をよろしくお願いしますね。」

「任された!」

 紅麗山の中腹、私の住まいである屋敷まで戻ってきて、幻夢君は元来の役割である貿易商として動いてもらう事になる、逆に今回、私がジパング全体を見て回ったのが例外的な措置だ、認識していた、彼にとっては国を回る事は当たり前の事でも、品物を持たずに国を回る、と言うのは例外的な話だろう、と。

 私は、各村に残されていた文献の写しの文章だったり、聖獣様方から聞いた話を纏めた書面だったりを、書斎に保管する為に荷物を一旦書斎にもっていく、トランクケースと言う、木の箱に革張りの鞄、というのは、私達が旅に出た当初、と言うのは、ドラグニートで流通し始めた頃だった、それ以外の国では、まだ麻布の袋だったり、手持ちの革製の鞄だったりはあったけれど、しかし大きなトランクケースという鞄の種類は発明されて少し経った頃、だったのをよく覚えている、私達は旅に出るにあたって、テンペシア様から下賜されたそれを使い始めて、そして現在においてもそれを使い続けているのだが、それもジパングの民、閉鎖国家ですらない、国家としては成り立っていない、村々のやり取りでしか交流のないジパングの民からしたら、相当に珍しい物だ、と誰かが言っていた。

「ふー……。」

 パイプを吸いながら、私は羊皮紙にメモした事柄を改めて文章に起こす、それをして書斎の棚に入れて、そうしないと落ち着かない、というのが私の癖でもある。

 羊皮紙、これも現在においては紙と言う筆記媒体が流通していて、逆に羊皮紙で何かを書く人間、と言うのは少なくなってきている、竜神様方や、フェルンの社会においてはまだ羊皮紙と羽ペンを使っている存在がいるのかもしれないが、現在においては、殆どが樹木から生成された紙に、つけペンという類のペンを使って物を書き起こす、ジパングにおいては、千何百前から「和紙」という独特な記録媒体の継承が成されていて、それを専門に扱っている家系があって、その家系は重宝されているんだとか。

 私も興味が無い訳ではない、羊皮紙が湿気に弱いという特性を持っていて、和紙はそこそこに保存が楽だ、という事も聞いた事はあった、ただ、私は羊皮紙に物事を記載するのが慣れている、と言うべきか、私はそう言った形を今でも好んでいる、だから、わざわざ幻夢君を通じて、ドラグニートでも珍しい類になってきた羊皮紙を輸入している、それが現状だ。

「聖獣信仰と、そして戦士達……。」

 聖獣に選ばれた戦士達が、それぞれ本家や分家、或いは忌み子だったり不信仰な特殊な一族だったり、そう言った情報に関しては、ドラグニートの秘蔵書物庫では拝見出来なかった、深度二という五段階あるうちの二段階目の禁忌事項までしか触れる事が出来なかった、と言うのもあるが、しかしそれに関しては、取りまとめをしている村の長達の意向、と言うのも反映されていたりするのだろう、とは考えられる、村の外側には流通させる話としては都合が悪かった話だとか、そもそもが信仰あってこその文献だとか、そう言う事柄もあるにはある、ということ自体は知っていた、ただ、それでも信仰は広く流布されるべきだろう、世界を守った戦士、と言うのは凱旋を経て英雄視されるべきだろう、という私の思想とは、異なる結果を反映した、それが現在のジパングだ。

 蔑視ではないものの、恐怖と畏怖の対象として嫌悪される可能性、デイン様がかつてそうであった様に、ならば闇にさらされる可能性でさえある、という話を聞いた事があった私は、聖獣様方の決断、意見を無碍にできる理由はないと考えた、私がそうであった、アンクウと言うだけで周りから避けられ、王家に良い様に使われているのにもかかわらず、王家に恐れられていた、それは私の力の「暴走」を危惧しての話だとロイスは言っていた、ただ、それでも私を「利用」しようとしていた身でありながら、私を恐れるという二律背反の形、と言うのが私には理解が出来なかった、怖れるのであればそれなりに敬う、各地の土着神、荒神と呼ばれる荒ぶる神々を鎮める為に祠を建設し、そしてそこに供物をささげるという形を取っていたこの世界において、恐怖や畏怖の念の対象として見ておきながら、それを剰え利用しよう、けれども自分達に都合が悪い事が起こるかもしれないから、という思考が、私にはわからなかった。

 畏怖するのであれば、恐怖するのであれば、それなりの対応というものがあるだろう、ならば私を殺めて、アンクウと言う力の暴走の可能性を秘めている存在を抹消する、という結論の方が、まだ私からしても「理不尽ではあるが受け入れられる」決定だ、恐怖と畏怖がありながら、アンクウを利用する価値があるからと捕縛して、監禁して洗脳して、という事を行うのが、どれだけの蛮行か、それが私でなかったとしても、私がハイエルフだったり、王家に近しい存在だったら、進言していただろう、ロイスの様に粛清去れてお終い、なのかもしれないが、けれども恐怖と利用という背反を起こす前に、何某かの策を講じるべきだと私は説いただろう。

「……。」

 戦士達、聖獣の戦士達は、その身をもって鎮魂の儀を奏でた、鎮魂の儀とは、神と対峙し、神を鎮め、荒ぶる神の魂を鎮める為の儀だ、そう玄武神が仰られていた。

 九百年前の対戦、ドラグニートからも戦士が輩出された、グローリアグラントからも戦士が輩出された、フェルンからも、サウスディアンからも、ノースディアンからも、戦士は輩出された、という伝説は残っていた、ただ、それぞれに目的があって、神を鎮める、と言う一番大切な役割を担っていたのは、ジパングの聖獣の守護者達だけだった、とテンペシア様の言葉だ。

 ドラグニートの戦士とグローリアグラントの戦士は、マナの源流を守るという役割、サウスディアンとノースディアンの戦士は、それぞれの国を守るという役割、そしてフェルンから輩出された戦士は、マナの源流を研究し、あわよくば己が手に取り込む為に。

 グローリアグラントと言う、世界で最も国と民を愛した王「グロル」という歴代において名を継いでいた王が統治していた国、マグナを除けば、唯一先の大戦で戦火に飲み込まれてしまった国、現在においては、デスサイドという名がついていて、六百年前、統治者達の議決によって「何者も立ち入ることを禁ずる」と言う結論の出た、闇に呑みこまれてしまった国、なんでも、世界中の「負の思念」を一身に集めて、今にも暴発したとしてもおかしくはない、そうなった場合「闇による滅び」とカウントされる為、竜神様方は動かれる、という話だった、竜神様方が戦争では動かず「闇による滅び」では動く、その理由は単純明快、竜神と言う種族が「闇に対する対抗装置」であるからだ、とテンペシア様のお言葉を受け取った覚えがある、デイン様も仰られていた、僕達竜神は、闇に対する明確なカウンターであって、世界の営みに干渉する事を許されてはいないんだ、と。

 闇による滅び、と世界の滅びの違い、ならば自分達が守護をしている世界が、実質的に滅んだとしても、それを是とするという精神性、私にはそれも理解できなかった、私が世界に属する存在だから、と言うのもあるのかもしれないが、私は世界の滅びを是として、闇による滅びを是としない、というその「違い」がとうとう理解出来なかった、デイン様にそれをぶつけた時、世界に属する者としては当たり前の感情だ、とは言われたが、蹴れども、一万年と言う長い時間を共に過ごしてきた世界が、滅んでしまう事を「世界の営みだから」と言って許容する、という精神性が、私にはわからなかった。

 思考が散らばる、それは私の悪い癖だ、一つの思考から、あれだこれだと思考が散らばっていく、ある意味哲学者のような気質だ、研究者のような気質だ、と言われた事はあった、現在においても、私は表向きは研究者を名乗っている、それも間違いではないのだろう。

 ただ、思案をしたい時には、それが雑念になる事もある。

「ふむ。」

 取り合えずの取りまとめとして、それぞれの聖獣様方との話、そして伝承における戦士達の寓話、をかき纏め終わった頃には、とっくのとうに日が沈んでいた、私は日が沈むと意識する前に蝋燭に火を灯すために、気づかずに火をまたいでいて、という事も往々にしてあった。

「……。」

 未来を一度視る、終わりの未来を、滅びの未来を、私は明確に視ていた。

 ただ、デイン様と出会って以降、少しだヴィジョンが不明瞭になってきていた、それが何の意味があって、それがどういう事柄で、という事まではわからない、私は視の未来を視るだけの権限がある、それ以外には何の権限も持たない死神だ、私にもわからない事は沢山ある、どうすれば滅びを回避出来るのか、どうすれば死にゆく命を絶やさずにいられるのか、わからない事ばかりだ。

「さて、食事にでも……。」

 一人呟いて、書斎を出る。

 今日から本格的に独りでの生活だ、孤独だったとしても、それが私の選んだ道なのだから、それに文句を言うのは筋違い、という事なのだろう。

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