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第四十八話 サウスディアン国王

「そちがテンペシアの言っておった、未来を視る死神か。して、我々に望むは何か?」

「世界の崩壊の為には、オリュンポスの神々の開放が必要だ、と私は予言しました、それをどうなさるか、に関しては各国の長に任せております、私はある種の殉教者、一つの可能性だととらえていただければ。」

「カカカ、未来を視通す力を持ちながら、その身を殉教者と説くか。」

「……。私は、死の未来、終わりの未来を視る事が出来るだけです、その道中、その経過に関しましては、一切の権限を持っておりません。……。サウスディアンの施政者たる国王様、貴方様にその情報をお渡しに来たのは、偏にテンペシア様の要望でございます。」

 サウスディアンの国王の元に訪れた私達は、キュリエを宿において私一人で国王に謁見をしていた、事前にテンペシア様から書状が送られていた為、私の事をすんなりと受け入れてはくれた、ただ、それ以上の事、と言われると、人間である彼らに「魔物と同じ闇を孕んだ存在であるダークエルフ」の解決方法を問う事は出来なかった、それをしてしまったら、私達は良くて国外追放、悪くてその場で粛清だろう、とは考えていた、その為に、その場にキュリエを連れていく事をしなければ、キュリエの存在の是非を問う事をしなかった、ただ、文献を読ませてほしい、とは願っていた、各地の文献に、もしかするにキュリエの状態を「治す」魔法か何かが残っているかもしれない、存在しているかもしれない、ドラグニートの秘蔵書物庫の深度二には遺されていなかった、その手段が何処かにあるかもしれない、と私は希望を捨てなかった、というよりは、世界の滅びを告げるという口実をもって、それを隠れ蓑にして、その方法論を探していた、が正しいだろう。

「滅びを視た予言者よ、お主はどう考える?滅びを予言した、のであれば、その滅びを避ける方法論もあるのではないか?」

「……。私には、その方法論を模索する事は許されていませんでした、というよりは、フェルンにいた時代、私はその予言を告げていませんでした。ハイエルフ達にとって都合の悪い未来、というものを見た、と言ってしまえば、そこで私は粛清されてお終いだったのでしょう。言い換えれば、この国サウスディアンはフェルンとは協力的ではない、であるからして、私は警鐘を鳴らしに来れたのです。もしも、フェルンと外交関係が良く、私の事を取引の材料とされる場合であったら、私はこの国には訪れなかったでしょう。」

「カカカ、お見通しか、それもテンペシアの入り知恵か。まあ良い、滅びの予言、その細部を我が記録隊に告げる事を許可する、その見返りとして、我が国の魔導の神髄を閲覧する事も許可しよう。ただ、お主が求める魔法が書き残されているか、に関してはわからんがな。」

「……。感謝いたします。」

 サウスディアンの国王は、私の目的を知っていたのだろう、恐らく、テンペシア様や他の竜神様からの通達で知らされていた、そしてそれを隠している事を容認されていた、それが妥当な筋だ、と今でも考える事はある。

 サウスディアンの魔導図書館、基本的には国家の運営に携わる存在、サウスディアンにおいては人間が主で、亜人はほとんどいなかったが、そう言った存在しか入る事を許されていない魔導図書館、に入って、中身を閲覧する許可を得た、それに関しては僥倖だった、皺くちゃな老人の国王がどんな判断を下して、議会でどうだなんだという話は、私にはあまり関係が無かった、私は各国の持っている機密情報、の中でも、闇と生物を弾き剥がす方法論、を求めていた。

 それがキュリエを救う事になる、もしかしたら、ダークエルフという人造的な迫害の歴史に終止符を打つ為の第一歩になるかもしれない、フェルン側も、私がこうして動いていて、竜神様やサウスディアンの国王と連携して物事に取り組んでいる、と知れば、安易には手を出してこないだろう、という目論みもあった、私がダークエルフの根源的な部分である「配給に含まれる闇」からダークエルフを解き放って、彼らを救うという選択を取った事、結論としてその方法論はこの世界にはなかった、もしかするにマグナには存在していたのかもしれないが、ならばソーラレスにおける魔物「餓鬼」という、闇を植え付けられた元人間、というダークエルフにも似た魔物が存在する、という所までは知識を得ていて、そしてそれが仏陀と言う施政者の元に行われている事だ、という情報までは理解こそすれど「そこから解き放つ方法論」はなかった、という結果に至るまで、私はだいぶん時間を要した。

 思えば、あの頃からキュリエは禁断症状が出始めていた、ダークエルフは王家からの「配給」によって、人為的に闇を孕んだ存在として確立されているのと同時に、「配給」によって、その闇が暴走して村を襲ったりしない様に、と「調整」がされていた、それに関してはジェライセさんから聞いていて知っていた、ただ、まだ当時で十六歳だったキュリエがそうなってしまうのには、時間がかかると思っていた、禁断症状はすぐに出てきたわけでも、急激に起こるわけでもなかった、そこに関しては私は無教養だった、キュリエが少しずつ狂っていく様を見て、私は策を講じる事が出来なかった、というよりは「暴走」の予兆がどんな事柄で、どんな風に暴走をして、という事までは、ジェライセさんに聞いていなかった、そしてその事はキュリエ自身知らなかった、気づいていなかった、気づかない様に、徐々に徐々にそれはキュリエの中を蝕んでいっていた、私は、それに気づけなかった。

 気づいた時、それがキュリエが五十歳の頃、私達がウィザリアに到着して、マナの源流の調査をしようとした時だった、あの時キュリエは明確に「暴走」をしかけた、そしてそれを知って、私は彼女を殺めたのだ。


「キュリエ、私は魔導図書館に行きますので、あまり目立つ事をしてはいけませんよ?」

「はーい!でも、お友達は作っても良いでしょう?」

「えぇ、それに関しては、ダークエルフだという事だけは隠しておいてくれれば、良いでしょう。」

 宿に戻って、そこから魔導図書館へと案内される手筈だった覚えがある、あの頃のキュリエは、友を作りたがっていた、沢山の友がいると誇らしげに言っていた、ただそれと同時に、私と一緒に居る時に「よだれ」を垂らす事がごく稀にあった、人間や亜人の前では垂らす事がなかったそれは、年に何度か私が注意するかしないか、ある意味、思春期前的な作法の問題だと勘違いしていた。

「キュリエ、よだれが。」

「あ、ごめんなさい!なんで出ちゃうんだろう?」

「お腹でも空いているのかもしれませんね。」

「そこまで子供じゃないよー!じゃあ、行ってきまーす!」

 それが何を意味するのか、と今聞かれれば暴走の予兆だと気づいたかもしれない、ダークエルフは妖精の血肉を啜って生きている、という伝承が、そもそもが暴走した結果のダークエルフの状態だった、その状態を利用して、王家が流した伝承だった、という事に気づいていれば、もしかしたら私はそこで立ち止まったのかもしれなかった、ただ、王家が行っていた配給の配合、闇を暴走させない範囲で闇を含ませる方法論、と言うのもまた私は知らなかった、知り得なかった、それはフェルンの王立書庫、の中でも禁忌とされているハイエルフだけが閲覧を許される場所、に保管されているだろうと私は予想している、出なければ、ハイエルフ達が伝聞だけでそれを行っていた、という話にはなってくるのだが、それはほぼ不可能だろう、ハイエルフ達がいちいちその事を覚えておいて、いちいち配合の具合を調整して、という事をするとは思えなかった、という事は、何処かにそれの製造方法が記述されている、それが現実的な線だろう、と私は踏んでいた。

 王立書庫、私がアンクウとして閲覧を許されていた場所の他に、ハイエルフだけが入る事を許されていた、私如きが入った瞬間に粛清されても仕方がない、とロイスにきつく言われていて、それを守っていた場所、にダークエルフに関する「記述」は残っているだろう、と言うのが私の推察で、それは当たっているのだろう。

「外園様、お迎えに上がりました。」

「はい、ありがとうございます。」

 ただ、あの頃はそんな事も考える余裕がなかった、配給があって、それを頼りに生きている、とジェライセさんに聞いて知ってはいたものの、その結果、暴走の予兆だったり、暴走した結果を知っていたとしても、その過程を知らなかった私は、それを予想しえなかった、キュリエが私の傍にいる時に限って、というよりは「私と二人きりの時」によだれを垂らしていた理由、それが私に対する安心感か油断の類だと思い込んでい誰が為に、私はキュリエの暴走の予兆に気づかなかった。

 ただ、気づいていたとて、暴走を止める事は出来なかっただろう、それだけ緻密に編まれた「配給」だったとジェライセさんは言っていた、王家がダークエルフを生かすだけ、そして人為的に闇を孕んだとしても人格や自我を失わないだけ、という絶妙な配合をされていた配給にたどり着く為には、それこそダークエルフの興りである数千年前の情報、を綿密に得ていないと難しかっただろう、それは今でも思う事だ。

 どう足搔いた所で、キュリエを巣食う事は出来なかった、ダークエルフとしてあの夜であった時に殺めるか、それとも暴走した結果殺めるか、はたまた私が血肉を啜られて死んでいたか、それ以外にキュリエの未来は残されていなかったのだ、私はそう結論を出した、それが何十年前の話だった。

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