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第四十五話 朱雀神との謁見

「ふむ、朱雀神様の戦士は村の重役ではなかった、と……。」

「かように聞き及んでおります、お恥ずかしい事ですが、信仰をしていなかった者が守護者として選ばれた、と伝わっております。」

 青龍神の村から一か月、私は朱雀神の祠の麓の村に来ていた、遺された文献によると、猿田彦俊平と言う青年は「信仰心のない青年」として記さていた、玄武神や青龍神の戦士達がそれぞれ本家や分家と言った形で村の重鎮だったのに対して、朱雀神の戦士であった猿田彦俊平青年は、村の中で唯一と言っていい程に信仰心のない人間で、村の警護を勤めていた「忍術」と呼ばれる類の特殊技術を体得している家系の末裔だ、と書いてある。

 その忍術も、俊平青年が末代としてセスティアに渡ってしまったらしく、現在ではこの村において、忍術を扱える人間は残っていない、という話だ。

 忍術、と一口に言っても、忍びと呼ばれる一族がいて、ジパング人としては珍しく魔法が扱えた、そして特殊な体術を体得して、一子相伝の技として扱っていた、程度の情報しか残っていなかった、清華少女の鈴ケ峰流然り、大地青年の心月流の棍術然り、この村の猿田彦流の忍術然り、基本的には一子相伝とされている技術を継承してきた家系、が戦地に赴いて「その時の当代」がセスティアに隠居してしまった為に、この世界においては継承する存在が残されていなかった、それが現状な様子だ。

「では、朱雀神様の祠に出向いても?」

「私め達に許可を求めるのは筋違いでございます、全ては朱雀様がお決めになる事。」

 私は資料を記憶して、幻夢君と移動している最中にそれを書き留めていた、さすがに村に相伝として伝わる資料関係を持ち出すのは酷だろう、と言うのと、許されないだろうという二つの考えから、私は資料を記憶して、書き記し直すという事をしていた、幸いな事に私は記憶力は良い方だ、一度見た資料や文献、の細部まで記憶するのには時間がかかるが、ざっくりと纏める程度になら、さっと目を通すだけでも出来る、程度には前提知識として諸々の情報を得ていた、基本的にはドラグニート秘蔵書物庫で得た情報だったが、それ以外にも、フェルン側で得ていた歴史と、語られていなかったジェライセさんに教えてもらった事柄、そして世界を回って得た知識、これらを統合して、私は大体の事情を把握していた。

 ドラグニート秘蔵書物庫、機密度二、五段階あるうちの二段階目に位置するその情報は、この世界の事ならば大概の事はわかる、程度には情報がたくさんあった、私はその中で、世界を滅びから逃す為に必要でありそうな情報を精査してもらって、読んでいた。


「朱雀神様、いらっしゃいますか?」

「我に呼びかける痴れ者は何者か。ふむ、妖精か。……。青龍と玄武がのたまっていた、世界を滅びから救済せんとする者か。」

「はい、左様でございます。私の名は外園、名は捨てましたので、名乗らぬ事をお許しください。」

「……。それで、愚か者よ。疑問は何か?愚者として疑問を持った、からしてこの地を訪れたのではないのか?」

「はい。ならば、何故ゆえに九百年前の守護者、戦士達をセスティアと言う異世界に送り、そして呼び戻す為の契約を結んだのか、と。」

 私の疑問、と問われると、私の疑問はそこにあった、九百年前の守護者達をセスティアに送って、そして百年後に起こると予言されていた戦争に再び子孫を呼び戻す、という「二度手間」な事をする理由は何か、その是非はと。

 ならば、予言されていた戦争だったのであれば、そう言った類の二度手間をする必要はなかったのではないか?と。

「ふむ、そこを聞くとは、そうさな。我らが守護者、聖獣の守り手達、我が権能を明け渡した愚者達が、恐怖される事を望まなかった、それが全てである。我らはそこにあるしかない神である、どれが信仰し、どれが不信仰であろうと、ただそこにある神である。であるからして、あの日、あの時、あの刹那、我らは選択を余儀なくされた、我が権能を譲り渡した者、我らが権能を譲渡した者達が、恐怖と畏怖の念に支配されたまま生きていくのか、それとも千年の後にこの世界に戻る事を約定として、血盟の儀を執り行うか、二者択一の選択をする事になったのだ。」

 荘厳な声をした朱雀神、ならば丁寧な言葉遣いの青龍神だったり、快活な老人と言った印象を受けた玄武神とは違って、神らしい神、と言った印象を受ける朱雀神に問うた事、それは私が長年疑問に思い続けていた事だった、それに関しては、テンペシア様から少々聞いていた程度、秘蔵書物庫の深度二では閲覧できない程度の情報だった、ならばそれを行った聖獣に問うのが一番だろう、と私は確信していた。 

 恐怖と畏怖の念、そう朱雀神は仰られた、その意味は。

「人間とは脆い生き物だ、貴様も知っておろう、その力の恩恵にあずかっておきながら、そして恐怖するという身勝手な生き物、それが人間であると、そして貴様ら妖精にも、同じことが言えよう、と。ならば、我らの都合で戦地に赴いた戦士達に、その負を強いる理由の是非は、それを竜神に問うた、それだけの話よ。」

「力の恩恵……、そうですね、私藻のその対象として見られていた、そんな記憶が残っています。それを防ぐ為に、セスティアと言う世界に戦士達を隠匿させた、という事であっているのでしょうか?しかし、朱雀神様の信仰が残っているこの村では、生きていけそうな……。」

「彼の愚か者は、不信仰な者であった、我が庇護下にある人間でありながら、我が力に縋らず、そして生きている者であった。その様な者が戦士として選ばれ、そして世界を守った、という結果を、信心深い者達がどう取るか、それはたやすく想像できる事であろうよ。」

「弾圧と、糾弾、ですか……。」

「そうだ、村に代々伝わる本家と呼ばれていた、玄武の戦士ならともかくとして、分家の人間だった青龍と白虎の戦士、そして村の警護者だった我が戦士、その三人においては、弾圧と恐怖の対象として見られたとて、不思議はない。それを考えた我らは、転生者たる子孫を戦地に送るという約定を血盟として、痴れ者達をセスティアと言う世界に送った、それには、かの守護神デインが一枚かんでいるがな。貴様はデインに会った事があるのだろう?」

 デイン神、デイン様と私が呼称している、ドラグニートの中央都市に眠っている神、竜神様方の統率者たるデイン様、私は彼と会った事があった、謁見を許された身として、世界を守る為の何かを得に行く為に、デイン様の元を訪れた事があった、朱雀神はその事を仰られているのだろう、そう判断した。

 セスティアに戦士をわざわざ送った理由、それについては理解した、ただ、転生者という言葉が引っ掛かった、ジパングの信仰には、転生という言葉はなかったはずだ、転生をするのはそれすなわち神の証、聖獣様方は転生をしているが、けれど人間に許された御業ではない、と言うのが、ジパングにおける信仰の形だったはずだ。

「転生者、とは文字通り、その魂の在り方を受け継いで、同一の魂として生まれ変わる、という事でしょうか?ジパングの信仰にはない言葉でしたので……。私達妖精は神木において転生する、というのが一般的な信仰ですが、ジパングにおいても転生という仕組みがあるのでしょうか?」

「ふむ、そこまでは知らされておらんのか。この事は秘め事としておくがよい、我らが守護者は、その魂を尊厳として受け継いだ、転生の儀を含めて、我らとは血盟の儀を交わしたのだ。貴様らの言葉に則って言えば、例外的に、という事になるのか。元来この国においては、魂は輪廻の中にはない、それは我ら聖獣の役割であり、そして特権であり、権能だからだ。民草に与える事柄ではなく、我ら神がそれを成して民草を守る為のからくりだ、と言える。それを例外的に人間である戦士達に施した、子々孫々へと受け継ぎ、我らの力を必要とする時が来た場合、またその力がすぐに発現出来る様に、とな。」

「そうでしたか。千年後に戦争が起こる、そしてその際には聖獣の守護者が現れる、そこまでは竜神様方と共有されていた事だったのですね?」

「そうだ、グローリアグラント、貴様ら的に言えばデスサイドが侵される前に、マナの意思が予言した事だ。」

「マナの意思……。一部でささやかれていた、マナの源流には意思が宿っている、というお話の末路でしたか。そして、世界が滅ぶかどうか、についてまでは予言がされていなかった、と。」

「そうだ。」

 朱雀神は、それだけ告げると気配を消してしまった、私のような存在と長話をするのは、聖獣としてもまずい話なのだろう、あちら側の都合だ、と考えることにした。

「ふむ。」

 ジパングの戦士、その転生者、神が例外的に施した血盟の儀、それらを組み合わせるに、予言の精度自体は私よりやや低め、ただ、いつ戦争になるか、ということ自体は明確に予言していた、と捉えるのが良いだろうか。

 そんな事を考えながら、村の村長には朱雀神との謁見は叶わなかった、と告げる為に、私は祠を出て村へと戻る。

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