第四十三話 青龍神
「では、そちら様が妖精の研究者、未来を視たという方ですかね?」
「はい、私が書面でやり取りをさせていただいていた、外園と申します。」
「文献をご覧になられるのは構いませんが、青龍様はお顔を出されるかどうか、に関しては私どももわかっておりませんので、そこに関してはご了承くださいませ。」
「はい、承知しています。」
北の玄武神の村を出てから約一か月、私は東の青龍神を祀っている祠がある村に来ていた、この村の村長は、青龍神に仕える巫女、という神官の家系の者らしく、女系の家系で、基本的にはその村の中で一番強いとされる男子を家に婿入りさせて、そして次の代の娘にそれを継がせる、という家系らしい、何でも、九百年前の青龍の戦士「鈴ケ峰清華」という少女は、血筋としては巫女の分家の人間で、心月家が本家の人間が戦地に赴いて、分家が現在を守っているのに対して、鈴ケ峰家は分家が戦地に赴いて、そして本家が村を守っている、と言っても、血が薄れて久しい、二刀流の刀を操る戦士だった鈴ケ峰清華と言う戦士の末裔、はこの世界には残っていない、分家の人間として警護に励んでいて、鍛錬を積んでいた鈴ケ峰の分家、その分家の中の当代だった清華氏は、セスティアに居を移した、その時に、子孫を残さなかったらしく、その時点で鈴ケ峰流と言われていた二刀流剣術、は廃れてしまったのだとか、そう言った事柄が文献には記されていた。
鈴ケ峰流、刀と呼ばれるジパング特有の武器、少し湾曲した反りのある刀を、長刀と短刀の日本携えて、長刀に水、短刀に雷の魔力を流し込んで戦うという、ジパングにおいては例外的な能力の持ち主にしか扱えない剣術技法、鈴ケ峰家の中でも、清華氏を筆頭として、巫女の守護を担っていた分家の中でも、数名しか体得が出来なかった、という特殊な剣術体系、という事が書いてある文献、これを読んでも良いと言われた理由の一つは、私がドラグニート秘蔵書物庫「深度二」までの閲覧を許されていて、そしてそれによって前提知識を得ていたから、だろう。
「こちらの情報は本家の方だけがご存じの情報なのですかね?」
「はい、村の者達は、かつての先祖であられる清華様の子孫が私達だと、今でも信じております、私達本家の人間は、清華様が分家であられる事を、ひた隠しにしていたのです。」
「それはまた、どうしてでしょうか?」
「都合、というのがあった、と言うのが私の先祖の発言でございます、本家の人間、巫女として仕えていた者ではなく、その巫女を警護する役割を担っていた分家の者が選ばれた、と言うのは、都合が悪かったのだ、と、私は聞き及んでおります。」
「左様でしたか、では、それは秘め事としておきましょう.。村の伝統を私のようなよそ者が踏みにじると言うのは、少々烏滸がましいでしょうからね。」
「感謝いたします、では、文献を読まれた後は祠に向かわれるので?」
「玄武神は私に接触をしてくださった、というよりは拝謁を許して下さったので、一応赴いておこうかと思っています。」
文献を一通り読み終わって、私は村長の家を出て祠のある丘に向かう、聖獣を祭っている場所、に共通項があるとしたら、それは基本的に村の裏手にある丘の上、に祠が鎮座している、という事だった、各地における聖獣信仰、中央や港町においては、かつての信仰だ、と言われてしまっていて、もし万が一戦争がまた起きて、そして戦士が必要とされた時に、村の掟としてもてなせ、程度には伝わっているものの、しかしもはやそれも形骸化しかけている、風化した伝承として遺されている程度の信仰、それが聖獣信仰の現在だ、と幻夢君が話していた。
悲しい現実だ、ジパングと言う国を守ってくださっている、守護しているのはまぎれもなく聖獣であり、その戦士は世界を守った者達なのにも関わらず、そこから千年と経たないうちに、信仰自体が消えかけている、聖獣信仰と言う、一つの信仰形態が消えかけている、それを私は嘆くのかもしれない、憎んでいるのかもしれない、私達フェルンの民に神木信仰があり、ドラグニートには竜神信仰があり、ソーラレスには仏門と言う信仰があり、マグナにはオリュンポスの神と言う信仰対象がいて、エクイティにはイクリプスという王政が信仰対象としても扱われていて、サウスディアンとノースディアンは信仰という信仰はないが、けれどもそれぞれの信仰があって、それぞれの神がいて、守護神がいて、と言う中で、ジパングの民は信仰心を捨てかけている、それはとても悲しい事で、憐れましい事で。
「さて。」
そんな事を考えている私も、結局は国を捨てて、今こうして生きているわけだけれども、結果として、私は神木への信仰を捨てられなかった、捨てる意味も見当たらなかった、捨てるという意思が無かった、フェルンと言う歪な国家があったとして、王家が教会がと歪みがあったとして、神木はそれには関係がない、神木は、私達妖精にとっては、守り神であり皆母であり、そう言った存在なのだから、と。
「青龍神様、謁見をお許しいただけますか?」
「……。はい、貴方は外園と言う名の妖精の方でしたね?玄武から話はきいております、なんでも、世界の滅びを予言したのだとか。」
「はい、仰る通りです。」
「では、私達が契りを交わした戦士達が、またこちらの世界に赴く事になる、という事ですね?」
「はい、ジパングは聖獣の守護者、その四名の死をもって、世界は滅びを向かえる、それが私のした予言です。」
青龍神の祠、玄武神の祠には橙色の宝玉が祀ってあったのに対して、澄んだ青色の宝玉が祀られている青龍神の祠、に入って、私は青龍神と話をする、玄武神にも話をした事の確認、九百年前、血盟の契りを交わしたという戦士の末裔、セスティアに隠居した戦士達の末裔が、戦地に赴く事になる、という話を、青龍神にも伝える。
「では、転生者が現れるのですね。……。あの子達には、苦労を掛けてしまう定めなのでしょう、あの子らが、自らの魂に課した血盟の契り、それを果たす為に、生まれ変わる。……。私は悲しい、そして嬉しいのです。」
「嬉しい、とは?」
意味が分からない言葉を言っていた、神とはどういった思考をしているのか、と言うのがそれぞれ過ぎて、どの意味での「嬉しい」なのか、が私にはわからなかった。
玄武神はこう言っていた、過去の禍根を未来へ託す事になる、それを自分達の都合で戦士達と定めた者達に背負わせる、それが悲しいのだ、と。
ならば、悲しくも嬉しい、その言葉の意味は。
「私達聖獣は、殆どの人間には認知が出来ません、いる事を証明する存在、と言うのが、私達には必要がないのですから、それに準じて、私達の存在を認知出来る人間は殆ど居ないのです。貴方が私の声を聴けているのは、私達の事を知って、そして接触する意味と意義を見出したから、に他ならないのです。殆どの人間にとって、私達は守護神と言う立ち位置であって、対話をする存在ではないのです。ある意味で、在ろうとなかろうと構わない存在、が私達の在り方だと言えるでしょう。ただ、戦士達は違うのです、私達と対話をする意味を見出し、意義を生み出し、そして向き合って、戦場へと赴いて行った。……。私は、嬉しかったのです。私が私として転生してから幾千年か、私と対話をする意義を見出した者は、殆どいなかったのですから.ただたんに、承認欲求だと朱雀には窘められてしまいましたが、そうです。私は、私を認識して、対話してくれる者がいる事、が嬉しいのですよ。」
「……。左様でしたか、それは、悲しい結末だったとしても、尊重されるべきお言葉なのでしょう。私達妖精にとっては、神木と言うのはある意味母体、皆母と呼ばれる、全ての要請にとっての母であり、循環の為の装置であり、そして敬愛すべき存在でした。それを、意思のある青龍神様が望む、と言うのは、ある意味間違ってはいないのでしょう。……。
過ぎた言葉を失礼いたしました、私のような凡夫には、わからぬ苦悩があるのでしょう。」
「それは貴方も同じことなのではないでしょうか?アンクウと呼ばれる、未来を視る者、それはフェルンとしては、隠しておきたい事柄だと、玄武がお話されていたことがありました、玄武が転生した頃に、確かアンクウと言う未来を視る死神が存在したのだと、フェルンにおける教会に属していた、未来を視通す為にひた隠しにされていた存在が居たのだと。貴方も、そうなのでしょう?竜神様でもなく、神でもなく、未来を視通す力を持っているというのは、この世界においてはアンクウ程度でしょう。……。貴方も、悲しみを背負っているのだ、と私には感じられます。私達とは違う悲しみ、それを背負って、しかし世界を守ろうとしている、その心意気は、純粋な心なのでしょうね。」
「……。私は純粋とはほど遠い存在です、穢れきった存在です、それは間違いないでしょう。しかし、貴方様のお言葉を拝聴していると、そうですね……。純粋な願いに支えらえれて、今を生きている、とは考えています。」
「よろしかったら、もう少しだけお話をしていきませんか?」
「是非。」
青龍神は、基本的には話したがりなのだろう、ただ、それを許される立場ではないから、それを抑えていた、それが現実だったのだろう。
語らいあう、私達は、未来を視た者と、未来に託した神として、語らいあった。




