第三十七話 予言
「やれやれ……。」
ジパング中央、紅麗山の居に着いてから一日、私は珍しく一人だった、というべきか、今まではがやがやとした場所にいる事が多かったのが、急に静けさの中にいる事になったのだから、そこに少々心が揺れる、麓の村の村長には、あまり来ないでほしい、物資関係に関しては請け負うが、けれどもあまり妖精と関わりたがる人間がいない、という事を言われていた、言わば、ここに居を構えたのも、一種の厄介払いのようなものだった。
今は初夏と呼ばれる時期で、ローブを着ていると暑い程度な気温だ、この国、というよりはこの紅麗山には、桜という「春」に一週間程度だけ咲く花を持つ木が群生している、というよりは、朱に染まる桜が綺麗だから、という理由で「紅麗山」という名はついた、という事らしかった、まだまだ先の話、一年後の話だが、私もそれを見るのを楽しみにしていた。
「……。」
パイプを吸いながら、独りで過ごすには広すぎるリビングのソファに座って、これからの事を考える。
まだ滅びの未来は変わっていない、ならば私が予言した事が全て当たるのか、と問われると、私は氏を視る未来視の死神、そこに関する精度は鍛えてきた、というよりは鍛えられてきた。
その私が滅ぶと言っている未来、については、滅びを迎える事はほぼ確定しているだろう、このままいけば、の話ではあるが、私が視た未来の通りになるのであれば、世界は暗闇の中に堕ちていく、それが未来だ。
ただ、それが世界の終わりだとは思わない、デイン様の言葉では「戦争による滅び」は「世界の終わり」ではないと言っていた、暗闇に堕ちていった先、にも未来はあるのだと、そう仰られていた、デイン様が戦った理由、デイン様がセスティアの守護者として戦った理由、は「魔物」に関する事だというお話だった、魔によって滅んだ世界は明確に滅びだが、それ以外の理由で滅んだ場合は、また世界が新しく生まれる可能性があったり、また生命が発達していく場合があるらしい、だからテンペシア様は、世界の営みによる滅びには、手を出せないのだ、と。
私が視た滅び、マグナの神々、オリュンポスの神々と呼ばれている神々の中でも、「ゼウス」「ポセイドン」「ハデス」そして、ティタン族の長であった「クロノス」の衝突によって、世界中に戦火が波及していって、そして滅ぶという未来を視た私は、それを防ぐ方法論として、聖獣の守護者と言うキーパーソンがいると知っていた。
「食事にしましょうかね。」
もう夜になって、そろそろ健康的に生活するのであれば練る時間だ、夕食を取って、今日は寝よう。
確かバゲットとハムが受け取った品の中にあったはずだ、それとバターとで、ハムサンドを作って食べようか、と考えて、リビングから続いているキッチンに向かう。
「……。」
聖獣の守護者達、「猿田彦俊平」「鈴ケ嶺清華」「河伯修平」「心月大地」、四人の守護者、南の朱雀、東の青龍、西の白虎、北の玄武をそれぞれ司っている戦士達が、鎮魂の儀を終える為に戦地に立っている、「鎮魂の儀」と言うのは、彼ら聖獣にとっての、戦争を止めて世界を守る為の行為、それが鎮魂の犠だ。
私はそこに立ち会っている、冥界「タルタロス」に幽閉されているクロノス神の封印が解かれて、現世へと復活を果たす、それを機に、マグナの神々を大地に縛っていた封が解けて、マグナの神々はその戦争を世界中へと広げていく。
まずはソーラレスの施政者たる仏陀が殺められ、その神性を喰らったクロノス神が、マグナの神々を喰らい、力を増していく、フェルンからは特使が派遣されているが、間に合わない、というよりは、フェルンはフェルンで、ウィザリアに眠っているマナの源流を手に入れられれば終わる、と目論んでいて、それを画策していた、そんな中、豊穣の神たるクロノス神が、精霊達の力を奪った、それによって神木は枯れ果て、フェルンは戦争どころではなくなってしまう、ウィザリアに眠っていたマナの源流もまた、クロノス神によって奪われてしまう。
そこからは簡単だ、世界中に神の僕たる戦士達、神の気を持った戦士達が世界中に派遣され、そして人間や亜人、妖精達は殺められていき、そして世界は暗闇の中に沈んでいく。
幾度となく見た夢だ、私が見続けた夢、私が明確に予言している滅びの予言、それは夢の中で行われる繰り返しの出来事、まるで振り子のように、繰り返し見ていた夢、私が見た、滅びの未来。
聖獣の守護者達は最後まであきらめない、ただ、それでも敵わなかった、世界中のマナを吸い取って、万物への干渉を是としたクロノス神に、彼らは勝ちようが無かった。
彼らの死、四人の守護者の死をもって、世界は終わってしまう、そこに竜神様方が介在するのか、については予言出来ていない、何故か、竜神様方の事に関しては、私は予言の類が出来なかった、彼らの行動の是非、について私はわからなかった。
ただ、デイン様は仰れていた、世界が滅ぶのであれば、それは自分達も滅ぶべきだろう、自分達だけ逃げて、という選択を取る竜神はいないだろう、と。
「……。」
いつもこの夢を見て、目が覚めてしまう。
「……。」
そう言えば、眠り薬を輸入していた覚えがある、ノースディアンにおいて、秘薬の類とされている薬草から作られた眠り薬、を私には譲渡しても良い、と言われて、グリーンフィールズから輸入していたはずだ。
それをどこにやったか、普段は深酒をして眠る為に、忘れていたけれど、と鞄の中をガサゴソと漁って、小瓶に入れられた薬を見つける。
「……。」
薬を飲んで、水で流し込んで、もう一度ベッドに横たわる。
見たくもない夢、あの夢を見たくない、と思い続けて、幾百年の月日が経っただろうか。
「……。」
眠り薬は即効性があるという話だった、すぐに眠くなって、私は眠りに落ちていった。




