第三十五話 屋敷に着いて
「さ、着いたぜ?っていって、まあ随分と立派な家を建ててもらったんだなぁ。」
「はい、私一人では大きすぎますが、来客があった際には必要かと思いまして。」
「って言うとあれかい?研究者仲間かい?」
「そうなりますかね。」
紅麗山の中腹、山間部に構えた居は、ジパングの中では大きすぎると言われている程度には大きい屋敷だった、部屋数七部屋、居間に最新式のシャワーも完備している屋敷で、私はこれから、ここで情報を集めて、そして聖獣の守護者の出現を待つ事になる。
私に何が出来て、私に何が出来なくて、それに関してはわからない、私は死の未来と言う「結果」の未来視をする死神であって、「その過程」を視る事は出来ない、それは私の権限ではない。
だから、私に何が出来て、そして彼らの未来がどう変わっていくのか、については私の与り知らぬ所だ。
カチャ
預かっていた鍵を鍵穴に入れて、家の中に入る、幻夢君は荷物を搬送する為に動いてくれている、そもそも家具類は搬送済みだ、だから、食料関係を搬送する、という事になる、台所には氷の魔法が掛けられている場所があって、そこを保管場所にするのが良さそうだ。
聖獣の守護者達が住まえるだけの家具をそろえて、と言っても百年後の話なのだから、手入れが大変そうだけれども、しかしそれをしない理由はなかった、以前ジパングを訪れた時に出会った聖獣「玄武」は、老人のような嗄れ声をした大きな亀だった、その亀が、私に対してコンタクトを取ってきた、と言うのにも驚きだったが、けれども、世界の滅びを予言した者、ということ自体は竜神様方と共有していたらしかった、だから私はそこまでは驚かなかった。
ただ、実体を持たないと言われている、ある意味精霊とも似た存在である聖獣が、私の前に顔を出した、と言うのが驚きだった、そんな感情だ。
「外園さん!これはこっちで良いんか?」
「はい、お願いします。」
幻夢君が食料品の運搬をしてくれている中、私は自室となる部屋に行って、荷物を置いた。
リヴォルビングランタンやインソムニアと言った武器、パイプに葉っぱ、ローブは脱いでも問題は無いだろうか、中に着ているスーツでも少々暑い時期だが、冷却の魔法をかけておけば問題ないだろう。
「それじゃ、こっから先長い付き合いになるんだろうけど、よろしく頼んまぁ!」
「はい、頼りにしていますよ。」
幻夢君が馬車に乗って去っていく、ここから先は、麓の村の人間を経由してのやり取りになる、それはわかっている、だから、これから先私は基本的に一人だ、私は孤独に離れている、ただ、これから先百年間、という時間を研究と待機の為に使う、と言うのは少々心が疲弊しそうだ。
「……。」
居間でパイプを吸いながら、これまでの事を思い出す、これまでの事、私が生きた七百年という、妖精としてはまだ若い、竜人としては二世代程度、そして人間からしたら、何十世代と重ねなければたどり着かない時間、を私は過ごしてきた、そこに関して何かを言うつもりはない、ただ、これから先、の事を考えると、世界の滅びを回避したとしても、行きつく先がない、帰るべき場所も、守るべきものも、もう残っていない、それは事実だ。
世界を守って欲しい、それはキュリエとの約束、私が、彼女の今際の際に伝えられた、私の中に残ってる言葉。
それを果たした先、私が生きる道はあるのだろうか、私が生きていい道は、生きるべき道はあるのだろうか。
そんな事を考えると、ふと寂しくなってくる事もある、皆、帰るべき場所がある、セスティアの戦士達にも、竜神様方にも、誰にも彼にも、帰るべき場所は残されている、それが殆どだ。
私にはそれがない、私には、帰るべき場所などない、私には、帰って良い場所など存在しない。
そんな事はわかり切っている、フェルンを脱して、キュリエを失った以上、私に帰るべき場所など存在しない、あったとして、そこに迎合できない。
それはわかっている、わかっているから、私は命の終わりをその場にしよう、と決めたのだ。
命の終わりを、世界を守ったのであればそこに、世界が滅ぶのであればそこに、それぞれ目標地点、最終地点として定めた、それが今の私だ。
「ふー……。」
父のパイプの吸い方をまねているつもりはない、ただ、思い返すと、父もこうしてパイプの煙を吐いていた覚えがある、そんな記憶が、朧気ながら残っている。
彼が、彼らが、あの子達が生きていたら、私はそれだけで幸せだっただろう、ゾキュペ村という辺境の村の重鎮として、村の施政に携わって、父の様に教鞭をとって、そうやって生きた未来があったのかもしれない。
ただ、それはあったかもしれない未来であって、現在ある未来ではない、私のいた痕跡は消されている、私が存在した「外園ケイ」が存在した記録は、どこにも遺されていない。
だからそこが終わりでも構わない、だから、そこが命の果てでも構わない。
私は世界を守る歯車で良い、私は世界を守る為の一つの道具で良い、そう生きてきた、これから先も、きっとそうやって生きていくのだろう。




