第三十四話 旅の予感
「テンペシア様、私はどうすればいいのでしょうか?世界の滅びを予言した、と言っても、その道中に関しては……。」
「そうだね、アンクウは滅びを見る未来視の存在、その過程に関しては視る権限がなかった、だったね。ならば、旅をしてみるのはどうだい?そちらの子、キュリエと言ったね。キュリエを連れて、世界各国を巡って、知見を広げるのが一番良いんじゃないかな?それに関する旅費は、僕の方で何とかするよ。」
「先生、旅するの?」
「……。竜神様の仰る事に、意味が無いとは思えませんし……。そうですね、各国の情勢も知っておいて損はないでしょう。テンペシア様、二百年後の滅びに関して、聖獣の守護者と言うのはどういった関係が?」
聖獣の守護者、その死をもってこの世界は滅んでいく、という予言を私はした、ならば、それを知っている可能性があるのは、竜神様方か、それか聖獣にまつわる誰かだろう、と考えた私は、何気なく疑問を投げた。
テンペシア様は、その言葉を聞いて、穏やかな瞳を丸く開いて驚いていた、それだけの事を私が言った、という自覚はなかったが、それだけの事を私は言ったのだろう。
「聖獣の守護者、それはジパングの守護者の話だね。聖獣の守護者、八百年前の対戦を鎮めた、鎮魂の守護者達。その子孫が駆り出されるという話なのかな?」
「はい、私の視たヴィジョンでは、聖獣の守護者と言う、四名の少年少女の死、をもって世界は暗闇へと閉ざされていく、滅びを迎える、という未来でした。」
「……。彼らには、感謝してもしきれないというのに、末裔である彼らの子孫が駆り出される、それは確定事項だったとはね。確かに、聖獣達は彼らに対して、次の戦争が起こった時に、その子孫を出向かせるという約定をもって、彼らをセスティアに送る事を許してくれたけれど……。けれど、そうならない未来、があってほしいと願ったのも事実だ、僕達が防げていたら、というよりは、僕達が介入出来る事柄だったら、彼らの魂がまたこの世界に来る事もなかっただろうに。」
「セスティア、とは?」
「まずはそこから説明が必要だったね。この世界の裏側、彼らからしたら、僕達のいる世界、ディセントが裏側と言う話になってくるね。彼らが隠居した先、セスティアは、魔力を持つ人間がいない、精霊や神、竜神や君達妖精といった、僕達にとっては当たり前に存在する者達は、信仰の対象である偶像として扱われている、そんな世界だ。人間が統治をしている世界、と言い換えても良いのかもしれないね、僕達竜神の存在はもちろん秘匿事項と言うべきかな、知っている存在は殆どいない、神や精霊と言った者達も、眼には見えない、実在するかどうかもわかっていない存在、ああそうだ、例外的に、ソーラレスの統治者である仏陀は、あの世界の出身だったね。とにかく、人間が治めている世界であるセスティアに、聖獣の守護者の祖先達は隠居した、それを覚えてくれていたら助かるよ。」
私はそこで、世界に裏側がある事を知った、私達にとって普遍的な存在である精霊達も、竜神様も、そして私達妖精すらも、セスティアにおいては御伽噺の類である事、その程度には、人間による統治が進んでいて、亜人種もいない事、そして何より、魔力を持つ者が現存しない事、それに私は衝撃を受けた覚えがある。
その世界に聖獣の守護者達は隠居した、その理由も知っている、哀しい現実として、私にとってもそれは離れた話ではない事として、私は知っていた。
「では、二百年後の戦争に関しては、予言されていた事だ、と?」
「うん、あの頃から言うと、千年後にもう一度戦争が起こる、とは言われていたね。ただ、彼らを必要とするかどうか、までは知らされていなかったから、少し悲しいね。……。彼らの魂を必要とする戦争が起こるのであれば、僕達竜神が手を貸すのも吝かじゃない、というよりは、先の大戦の時にはドラグニートからも戦士を送り出したからね。僕達はサポートに回るのが正解かな、彼がどういう判断をするか、によっても変わってくるんだろうけど、僕達は基本的にはサポートだからね。」
「彼、とは?」
「セスティアとこの世界、両方を守る宿命を持った竜神、十代目竜神王だよ。彼は今、力を取り戻すために修行をしている、その間、僕達にとっての敵が動いていないと言うのが幸いだと思っているけれど、彼が動く可能性についても考えないといけないかな。王様はどう考えて、どう動くかに関しては、僕達もわかっていないから。」
「十代目、竜神王……。その方は、どの様な方なのですか?」
十代目竜神王、という言葉についても、その時に知った、私は知らない言葉だった、知らない存在だった、不明瞭な存在だった、ただ、それは竜神様方にとっても同じだったらしかった。
「それがね、僕達もよくわかっていないんだ。レイラ様は、確かに十代目竜神王だ、その証を持っている、と言っていたけれど、そうだね……。未来からやってきた、滅びの未来を変える為に、転移魔法の中でも禁忌、というよりは、竜神王にしか発動出来ないと言われている、実際にそれが発動されたかどうかの記録も残っていない、時空超越、と言う転移魔法を使って、未来からやってきた、と言っていたかな。なんでも、その未来においては、契約召喚、っていう形で、僕達八竜を呼び出していたから、面識があるんだとか、そんな事を言っていたね。不明瞭な存在、そして、現竜神の中では最強の存在、それが守護者たる所以だ、ってレイラ様は言っていたかな。その彼が接触してくるかどうか、によっ、僕達の立ち回りは変わってくるけれど、そうだね。もしも接触してきたとしたら、それはセスティアを含めての滅びに関することになる、ならば僕達も動かなければならない、彼が関与しないのであれば、僕達も動いてはいけない、そういう事になるのかな。」
「……。随分と、危うい関係値なのですね。」
「そうだね、彼の事をもっと知りたいと思っているけれど、王様は語りたがらない人だからね。」
キュリエが頭に?を浮かべている中、私はテンペシア様との話を続けていた、キュリエは知らなかっただろうフェルンの隠された歴史と、私が視た滅びのヴィジョン、と言うのが結びついた瞬間、それはそこだった、フェルン側が九百年前の戦争に戦士を派遣した理由、についても私は知っていた、それは、マナの源流を自分達が独占する為に、統一国家と言う、妖精だけが支配をする世界を生み出す為に、マナの源流が必要だったから、ジェライセさんが知らせてくれたフェルンの裏の歴史書には、そう書かれていた。
ただ、それと聖獣の守護者の事、がその時までは結びつかなかった、彼らがジパングからやってきた事、については知っていたけれど、その理由と、それが受け継がれていない理由がわからなかった、ただ、それが結びついたのは、あの時だった。
「さて、講義も良いのだけれど、君の見た滅びの予言には、誰が関わっているのか、それはわかっているのかい?」
「聖獣の守護者と、マグナの神々による闘争、としか……。」
「なら、余計に世界を見て回った方が良いね。キュリエちゃんには、僕達から贈り物をしようか、君の様に闇をまとっている存在、と言うのは、それだけで警戒されてしまう対象になるからね、それを遮断する法衣を渡そうか。」
「あたし?」
「うん、人工的にでも、偶発的にでも、魔に侵されたような気配を持っている、と言うのは警戒される対象になる。この国には、それを探知できる存在と言うのは多くてね、君はそれだけで警戒されてしまうんだ。だから、それを防ぐ為の法衣を渡す、という話だよ。」
キュリエは、ダークエルフの興りに関しては無知だった、知らなかった、だからこそ、普通にエルフと友達になりたい、と言ってエルフや他の妖精達に声をかけて回っていた、それが巡り巡って、女王にとって不都合な存在として、私に処される寸前だった、それに気づいていた私と、知らなかったキュリエ、私は、黙る事を選択した。
それからだった、法衣を受け取って、金銭的な援助を受ける約束をして、テンペシア様の神殿を出て、世界を見て回るという事を始めたのは、かれこれ百年前の話、それから今の今まで、私は旅を続けていた、今現在向かっているジパングの居に至るまで、もう少しだけ時間は掛かりそうだ。




