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第三十三話 道中

「外園さん、今日はここまでにしようかぁ、馬が疲れちまってるよ。」

「はい、了解しました、魔物除けの結界はお持ちですかね?」

「じゃなかったら行商なんざやってらんねぇわな?」

「それもそうですねぇ。」

 港町を出てから数時間、夜の月明かりが辺りを照らす中、私達はテントを張って休む事にした、幻夢君がいう事に従って、魔物除けの結界の中から出ない様に、横道にそれて寝袋を用意する。

 私は基本的に宿に泊まる事が殆どだった、こうして空の下で眠る事、をした事が殆どなかった、ともすれば、幼少の折に探検仲間達とテントを持って、村の中でテント泊をした事がある程度、だ。

 教に関しては、午後に出発した為に、村までたどり着かなかった、道中にいくつもの群があるらしいが、そこまでたどり着かなかった為、テント泊になる、という事だ。

「幻夢君は煙管を吸うのですか。」

「ん、そうさなぁ、親父からの形見でね、擦っておかないと、手入れをするのを忘れちまいそうでなぁ。」

 幻夢君は、ジパングで時折流通するという、煙管を吸っている、私の吸っているパイプが一時間程度は吸えるのに対して、煙管は一回の葉で数分吸えればいい方だ、という話は聞いた事があった、私は熟考をしたい時にパイプを吸う癖がある為に、長い時間吸えるパイプがあっている、と思っているが、それも私からしたら当たり前の事で、ジパングの民からしたら異常な光景なのだろう。

「ふー……。」

「外園さんが吸ってるんは、それはドラグニートのだろ?」

「そうですねぇ、私の父が吸っていたのは、フェルン産の葉っぱでしたが、私は生憎と、それを入手出来ない身ですので。ドラグニートから輸入している葉っぱ、を使っているのですよ。香りの違いはあれど、どことなく父を思い出す仕草、と言えば良いのでしょうかねぇ。袂を別った相手ではありますが、しかしそこに愛情はあったのでしょう。」

「愛情だとか、そう言うんは俺にゃわからんけど、じゃあなんでフェルンを離れたんか?研究の為って言って、袂を別ったって事は帰れねぇって事だろう?」

「そうですねぇ、私はフェルンを離れてしまった身ですから、おいそれと帰る訳にはいかないのでしょう、帰る日が来るとしたら、それは私の肉体が活動を終えて、神木に魂が還る時、なのでしょうね。」

「フェルンじゃ、魂が神木ってのに集まってるんだっけか?俺達の言い伝えとは全然違うんだなぁって、ずっと思ってるよ。俺達からしたら、死んだらそこでお終いってのかい?転生ってのをするのは、聖獣の守護者様達位のもんだ、って言う話だからなぁ。」

 ジパングにおける信仰、と言うのは聖獣信仰の事で、聖獣信仰における転生と言うのは、選ばれた存在だけが出来る特別な事、それこそ、神たる聖獣は転生を繰り返して生きているのだ、という話で、白虎神が四百年ほど前に生まれ変わった、という事をテンペシア様が仰られていた、神に寿命がある、という事にも驚いたが、けれど竜神様も寿命はある、マグナの神々にも、ソーラレスの仏にも、また命の終わりはある、だから、この世界においては、マナの集合体である精霊でもない限り、命の終わりというのはあるのだろう。

 そんな中で、聖獣信仰が残っている村では、死後は聖獣に迎えられ、魂の終わりを見る、そして大地へと還り、新しい魂として生まれてくる、それがジパングにおける信仰の形だ。

 それを否定するつもりはない、文化の違い、信仰の違いと言うのは、何処の国に行ったとしてもある話だ、例えばエクイティならば、植物種の亜人の施政者が絶対で、その存在が神の様に信仰の対象として祀り上げられている、という話もあった、私は麻薬の類はやらないと思っていたから、エクイティに長居はしなかったが、エクイティにおいては、植物種の亜人が生成する麻薬、を報酬とした社会主義文明、が築かれていて、フェルンとはまた違った歪さがあった覚えがある、ノースディアンの様に人間の先住民しか入れない地域があったり、ソーラレスの様に、住まうのであれば仏門に「帰依」しなければならない、等々、国によってそれは様々だ、今更になって、私があれこれ言う事でもない。

「聖獣の守護者は、その魂を受け継いで生まれかわる、という話でしたか、確か、隠居をしている一族として、戦争が起こる予兆がある度に生まれ変わるのだとか?」

「そうさなぁ、酷な話だ、なんて俺は思うけどなぁ。みんなと違って、大地に還るのを許されてない、ってのは、悲しいこったな。生まれ変わり、なんてしたって、良い事なんざ無いってのによ。」

「しかし、幻夢君は幻夢君で一族を継いでいるのでは?」

「それはそうさな、だからこそ、俺は窮屈だと思うんだよ。俺も、神童の家に生まれてなかったら、もっと自由に生きてたんかなって。」

「左様でしたか、それはそれで苦悩があるのでしょう。……。私も、そう生きられたら良かった、と思う事もあります、私が私としての役割を得ずに生きていたら、今頃私は、フェルンの片田舎で教鞭をとっていたでしょう。……。彼らが生きていてくれたら、それだけで幸せだった、彼らと共にあれたら、それだけで幸せだった、そう思う事もあります。」

 煙管とパイプの煙が立ち上っていき、空を白ませる、瞬きの間、白い煙がまるで雲の様に空を彩る、そんな事柄を眺めながら、私は思い出す。

 あの頃から、思えばあの頃から、ずっと私は死んでいた、生きていて死んでいて、そんな矛盾に満ちた人生を送ってきた、キュリエと出会うまで、アンクウとして目覚めてから、キュリエと言う少女に出会って、世界を守る為に奔走する、と決めるまでの六百年間、私は死んでいた、生きていたけれど、死んでいた。

 それが今ではどうした事か、キュリエはもういない、もう戻ってこない、私の元には、彼女は戻ってきてはくれない、ただそれでも、彼女が遺した意思があると、想いがあると、そう信じて活動を続けている、その結果がどうなるのか、それはわからない、今でも私が未来を視ると、世界は滅びを迎える、それは変わらない未来だ、ただそれでも、私は歩みを止めるつもりはなかった、私には、成すべき事がある、アンクウとして目覚めた意味が、きっとあるのだから。

「あんたさんの大切な人ってのは、どんな人だったんだ?」

「そうですぇ。エルフにトロル、ゴブリンなど、様々は種族が入り混じった国でしたから、私の友人も様々でしたよ。トロルと言う施政に劣る種族でありながら、勉学に励んでいた少女、エルフとしては異端とされていた、心の繊細な少年、ゴブリンらしい好奇心にあふれた少年、そう言った方々と、私は幼少を過ごしてきたのですよ。」

「それがなんだって、今は宗教学者としてフェルンを出ちまったんだ?」

「……。それを話してしまったら、貴方に危険が及ぶ可能性もありますので、秘め事ですよ、幻夢君。……、私の安全の為に、でもありますが、君達の安全の為にも、私は安易に国を出た理由を言えないのですよ。」

「そっかい、まあ、気が向いたら話してくれや、もしかしたら、その頃には俺は引退なんぞして、子孫が外園さんの相手をしてるかもしれねぇけどな。」

「はい、いつの日か。」

 幻夢君は煙管の灰を落とすと、寝袋にくるまって寝てしまった、馬も寝ている時間だ、私はもう少し、考え事をしてから寝よう、眠りに落ちるまでには、もう少し時間が掛かりそうだ。

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