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第三十一話 紅麗山に向かって

「幻夢君、よろしくお願いしますね。」

「はいな、外国の人とやり取りし慣れてる人って、俺達の一族位だし、任せてくださいな。」

「頼りがいがありそうで何よりです。」

 ジパングの港町に一晩泊って、今日から二週間をかけてジパング中央「紅麗山」の中腹に構えてもらった居に到着する、その道中に、ディーさんから受け取った品物達を運ぶ必要があった、という事があって、幻夢君に依頼をして、今こうして馬車に揺られて、紅麗山に向かっている、御者である幻夢君と、荷台の後ろに乗った私は、馬の駆ける音と蹄が鳴る音と共に、二週間の旅路を始めた。

 ジパングは基本的には村単位で動く種族の人間達が住まう国、国と言って良いのかどうか、と言われるとわからないという程には、村々の間で行き来する人間が少なく、そして国家として必要な都市などがない、かつて、ジパングを治めている神であられる聖獣達が、国家を建設するかどうかを協議した際に、今のままで良い、という意見でまとまったから、という話だった覚えがある、その程度には、この国の人達は施政に興味がない、という事にもなってくるだろう。

「……。」

 パイプに葉を詰めて、火を点けて一息する、馬車に揺られることに関しては慣れている、こういう場と言うのは思考を纏めるのにはちょうど都合がいい、幻夢君は馬の制御に集中しているし、誰かが話しかけてくるわけでもない、そう言った時間と言うのは、私にとっては考えを纏めるのにちょうど都合が良い時間だ。

「ふー……。」

 百年間という旅の中で、私は何を得て、そして何を失ったのか。

 破滅の予言まで後百年、私が見た滅びの予言まで後丁度百年、その間に、私は聖獣信仰における伝承を纏めて、そして聖獣の守護者の出現に合わせて、彼らをサポートする役割になるのだろう、それが私に与えられた役割だと思っていた、信じていた、私程度の存在に何が出来るのか、そもそも何も出来ないのか、と考えていた時期もあったけれど、しかし、今の私は違う、出来る事をして、成すべき事を成して、それでも崩壊を免れないのであれば、彼らにその責を負わせるのは違うだろう、という思考だった。

 私に出来る事は何か、ならば、百年間未来を変える活動をし続けて、結果として見えるヴィジョンに違いはなかった、私が加わった結果の破滅か、それとも私が加わらなかった場合の破滅か、それ以外の差異が無かった未来のヴィジョン、それを変える方法は、果たしてあるのだろうか。

「……。」

 私の視た未来、あの頃で言うのなら八百年後、今で言うのなら百年後、聖獣の守護者達が、マグナにおける戦争を鎮める戦士として戦いに赴き、そして神によって惨殺される、そんな結果が引き起こす、明確な世界の滅び。

 伝承によると、聖獣の守護者は九百年前の大戦争を止めた守護者達の末裔で、今現在としてはセスティア、この世界の裏側に隠居しているが、百年後の戦争において、隠居から復活、と言うべきか、駆り出されるという話だ、かつて、九百年前の大戦争の際に、そう言った予言をした人物がいたらしい、千年後にもう一度大きな戦争が起こる、そう予言した誰かの言葉、によって、聖獣の守護者達の末裔は、セスティアから駆り出される事を条件に、隠居する道を選んだのだとか。

 隠居した理由、についてはテンペシア様から伺った、なんでも、ジパングにおいては「魔法を使える存在」というもの自体が限られていて、村人達がどうやって魔物の脅威から逃れているのか、と問われると、各地の村には「魔物除けの結界」という結界術が使われていて、それで魔物に対する難を逃れているらしい、という前提の元で「魔力をもって、魔法を行使する、そして自分達が信仰している神から力を賜った存在」と言うのは、畏怖と共に恐怖の対象としても捉えかねられなかった、事実、デイン様はそう言った過去を持たれていた、という話だった、デイン様は過去のセスティアにおいて、世界を守った挙句に恐怖され、追放されたのだと仰られていた。

 それと同じ、聖獣の祀られている祠のふもと、の村から選抜されたという守護者、戦士達は、恐怖の対象として見られない為にも、力を封印してセスティアに隠居した、という話らしかった、なんと都合のいい話か、何と哀れな話か、世界を守るという偉業を讃える訳でもなく、賞賛するでもなく、ただ「力を持っている」事に恐怖する、という精神性、それを私は唾棄すべき悪だと感じていた、何と身勝手な、世界を守るという大業を任せておいて、普段は信仰していると言っていた神から受け取った力を行使した存在を恐怖する。

 しかし、それは何処においても同じなのかもしれない、力を持たない者からしたら、「それをいつ自分達に向けられるかわからない」という事柄は、恐怖の対象として視ても仕方がないのかもしれない、私もそうだった、アンクウとして、暴走する可能性を秘めているから、という理由で、寝室に魔力遮断の結界を張られて、そことアンクウの間だけで生活を完結していたのだから、「それを持たない」者達からしたら、同じ様な意識なのかもしれない、とも思わなくはない。

「やれやれ。」

「外園さん、何かお悩みかい?」

「いえ、これから先の生活を考えますと、少々ため息が。」

「そりゃそうだろうねぇ、妖精さんがこの国で研究者をしていく、なんて話は今までなかったからねぇ、俺達も妖精さんって言う種族自体は知ってたけども、見た事はなかったしねぇ。」

「フェルンもジパングも、お互いに鎖国的な国ですからね。君が港町の行商として生きている事、の方が珍しいのではないでしょうかね?」

 幻夢君と話をしながら、この方の一族の出自、と言うのも考える、何百年かにも続く行商の家系、そもそもは行商をしていたのかどうかは不明だが、現在としては行商として活動を続けている家系、と言うのはジパングでは殆ど見られない家系だ、とディーさんが言っていた、そもそもが村の中で基本的に完結するというジパングの性質上、飢饉などが怒ったりしなければ、村の長やその使いが時折村の間を回ったり、それこそ物々交換の行商が行ったり来たりをするだけだ、と言っていたこの国において、外国とやり取りをする行商、と言うのはとても珍しい一族だ、とディーさんは言っていた。

「鎖国的って言うか、そうさなぁ、村の単位で生きてる人達だからねぇ、俺のご先祖様は、そんな空気が嫌いで、行商の道を選んだんだって話だったなぁ。」

「それを代々の家業として続けている君も、立派なものですよ。」

「そうかねぇ?」

 御者台の方から幻夢君が話しかけてくる、私にとっては思考の邪魔、と言いかねない事かもしれないが、こういった場合、基本的には思考を止めて、話をしに行った方がいい、と経験上あたりはついていた、あまり自分の世界に引っ込みすぎると、社会不適合者として嫌われてしまう、私にとっては独りでいる時間の方が長かったとしてもお、他人はそうではない、という事をキュリエに言われた覚えがある、私は引っ込み思案ではないが、自分の世界に引きこもる悪癖がある、と。

「……。」

「ま、心配なのもわからぁな。だいじょぶさ、俺達がちゃんと、品を届け続けるって決まり事してんだからなぁ。」

「感謝していますよ、君達の一族がいなかったら、私の研究は立ち行かなくなっていたでしょう。」

「まあいいって事よ!」

 元気はつらつと言ったこの青年も、きっと私より先に逝ってしまうのだろう、私達エルフが数千年の年月を生きる、そして人間は百年も生きたら「仙人」と呼ばれる程度には長生きだと言われている、だから、彼との関りはいつかなくなってしまう、自生代の幻夢君と関わり続ける事はあるのだろうけれど、こうして現在当代をしている青年である幻夢君と、関わり続ける事は出来ない。

 わかっていた、寿命の差、命の差、私達妖精と人間、妖精の中でも違う、そして更に永い時を生きる竜神様、それぞれの命の終わりがあって、それぞれの命の在り方があって、それはわかっている、ただ、時折寂しくもなる、そんな心境だ。

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