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第三十話 莫竜テンペシア

「ここは?」

「何処、でしょうか……。フェルンのどこかではない事、はわかりますが……。」

 転移魔法、という高等魔法を使った結果、発動は出来た、発動は出来て、フェルンを脱する事は出来たが、けれどけれども、何処に飛んだのか、ならばどの国のどこに飛んだのか、ダークエルフに対する警戒は、考える事は枚挙の暇がない。

 キュリエと辺りを見まわしていると、何やら亜人種と言われる類の人間、妖精とは明確に違う、いつだったか勉強で聞いた「竜人」と呼ばれる方々が往来をしている場所、に私達は転移した、それだけが情報として理解できた事だった。

 ドラグニートはテンペシア様の都市「テンペシア」そこが、私達がフェルンから転移を発動した結果たどり着いた場所だった、しかし、その事を理解するまで、少し時間がかかった。

 というよりは、諸外国の情報を歴史としてしか知らなかった私達は、ここがどの国で、どの都市で、という事を判断する材料が無かった、と言い換えても良かっただろう。

「ドラグニート……、という事は、神殿があるはず……?」

「ドラグニートって、竜神様が治めてるって言う国だっけ……?あたし、お父さんから聞いた事あるよ!」

「竜種の亜人が住まう国、はドラグニートであっていたはずです、ならば……。風色の体表をされている方が多いという事は、莫竜テンペシア、という竜神様が治めている都市、でしょうか。キュリエ、君の事がフェルン側に漏れる前に、竜神様に嘆願をしに行きましょう、国を運営されている方々なのであれば、もしやするに策を授けてくださるかもしれません。」

「うん、分かった。あ……。そうだ、貴方の事は、なんて呼べばいいの?外園、外園さん、って言うのも、なんだか違うなーって……。」

「……。親しかった仲間からは、先生と呼ばれていましたよ。外園でも先生でも、好きな様に呼ぶのが良いでしょう。」

 キュリエからしたら、私は年上だった、私からしたらキュリエは少女だった様に、逆にキュリエからしたら、私の事を何と呼ぶか、何と呼称するか、と言うのは、少しばかり問題だったらしい、莫竜の都市テンペシアの片隅で、少しうーんと唸って悩んでいた事を、今でも覚えている。

「じゃあ、先生って呼ぶね!あたしの事は、キュリエって呼んでね!」

「はい、わかりましたよ、キュリエ。では、ドラグニートの都市には神殿があるはずですので、そこを目指しましょう、無鉄砲でここにきてしまったのですから、そうですね……。武器はしまっておいた方が良いでしょうかね、無駄に敵意を見せてしまう事にもなりかねません。」

「しまうって、何処に?」

「私は先程発動した転移魔法の簡易版、物質の保管に関する転移を使えるのですよ、キュリエ。」

「そうなんだ!先生は凄いんだね!」

 ともすれば、奴隷商人か何かと間違えられてしまいそうな、ローブを着た私と、麻布でできた簡素な洋服を着ているキュリエ、という構図は、少しばかり不味いかもしれないとは思った、実際、辺りの目は少しばかり警戒の意を示していた、ただ、そうだったとしても、どうしようもなかった、ダークエルフの事、に関しては、フェルン側が国外に迫害の歴史など持ち出す訳がない、という事で知られていなかったが、探知魔法が使える存在、からしたら、キュリエ達ダークエルフは「魔物」に似た探知の波動をしている、とテンペシア様は仰られていた、だからこそ、私達に謁見を許したのだと、アンクウと言う特殊な気配の持ち主と、ダークエルフと言う魔物に似た気配を纏っている組み合わせ、と言うのは、警戒対象であると同時に、テンペシア様からしたら、よその国から来た保護対象としても見ていたのだ、というお話だった。

「言葉が通じるかどうか……。」

「あ、そうだね、言葉って違うんだもんね。」

 そもそも言葉が通じるのかどうか、通じたとして、こんな突然現れた異邦の者を受け入れてくれるのかどうか、金銭は持っていないのだから、ならば移動に関わる金銭はどうすれば良いのか、それも考えつかない程度には、私達の逃避行は突発的な事柄だった、テンペシア様が気を利かせて保護してくれていなかったら、今頃私達は野垂れ死んでいただろう。


「そこの妖精二人組、ついてきなさい。」

「貴方は?」

「莫竜テンペシア様の使いである、それ以上の事を語るべきではないと言われている、莫竜テンペシア様が、君達に謁見を許可している、という事だ。ついてきなさい。」

「先生、どうしよう……?」

「……。ついて行くほかありません、私達に取れる選択肢は、多くはないでしょう。」

 風色の瞳と、それによく似た色のローブを着た人間の方、に声を掛けられた、その方が何処から現れたのか、という事を気にする間もなく、私とキュリエは神殿へと向かって歩いていった、神殿は私達が転移した場所から割と近く、無作為に転移を発動した割には、良い場所に飛んだ、というのが今でも残っている印象だ、ただ、その時にはどうすれば良いのか、と言うのはわからなかった、世界を守るという命題を持っている存在、それが竜神だ、という話自体は聞いた事があった、だけれど、ならばキュリエの存在は、ダークエルフとしての素養を持っているキュリエの存在は許されないのかもしれない、今日あったばかり、というよりは私とキュリエも出会って一時間程度、だった中で、私達が心を交わすのに時間はいらなかった、ただそれを証明したとて、ダークエルフが迫害されているという現実を知っている以上、相手がどう動くか、がわからないまま、私達は神殿に向かっていた。


「テンペシア様、妖精の二人組をお連れしました。」

「うん、入れてもらって良いかな?」

「入りなさい。」

「……、はい。」

 莫竜テンペシアの都市中央に位置する、テンペシア様の神殿、白を基調とした大理石のような素材で造られた神殿は、とても美しくて心を奪われるものだったが、当時の私はそれを見れる程余裕が無かった、キュリエが罰されたり、私が断罪される様な事があったらどうすればいいか、ならば、どうすればそれを回避できるか、そんな事が頭の中をとめどなく流れ続けていた。

 神殿の奥、竜神の間と呼ばれる大きな部屋、に私達は通された、使いの方がそれを報告すると、まだ若いであろう声が聞こえて、私の背丈の三倍程度はあろう木の扉が開いて、中に通された。

「君達が転移を発動してここに来た子達だね?」

「子達……、貴方は?」

「僕は莫竜テンペシア、この都市を治める竜神で、ドラグニート、ひいてはこの世界を守る竜神のひと柱だ。」

「莫竜、テンペシア様……。確か、風をつかさどる竜神様だと……。」

 竜神の間には、玉座と思しき椅子があった、そこに座っていたのが、人間の見た目に竜の翼をはやした少年のような神、テンペシア様だった。

 竜神様は数百万年という長い年月を生きていく種族だ、という事は学問としては知っていた、ただ、当時で約五千年を生きていたテンペシア様が、少年のような見た目をしている事、についてはたいそう驚いた覚えがある。

 風を司る竜神様、というだけあって、翼も瞳の色も、纏っているローブも風色に統一されていた、というよりは、生来持ち合わせていた風色の瞳と翼に合わせて、ローブを作ったというのが正解だっただろう、丸みを帯びた穏やかな瞳、が印象的なテンペシア様の瞳を見て、取り合えず敵意はなさそうだ、ならばどうするべきか、と私は考えを巡らせた覚えがある。

 どれもこれも実らなかった、ともすれば、こうして私が今ジパングと言う国に居を構えられている理由、はテンペシア様が親書を出してくださったから、なのだが、キュリエに関してはとくにあの方が何かをした事はなかった、私達妖精の問題、として判断したのだろうが、今でも思う事はなくはない、竜神様が「魔物に対するカウンター」として世界を守られているのであれば、その魔物にも似た性質を持っているダークエルフを放任する意味は何か、と問うべきなのかもしれない、私は、ジェライセさんに「いつかダークエルフの迫害の歴史を終わらせる」存在として、彼から教鞭を受けていたのかもしれない、ただ、それは高望み、そもそもジェライセさん達が生きているのか、現在においてはダークエルフが存在しているのか、それとも歴史上の存在として抹消されてしまっているのか、それすらわかっていない状況だ、それを言うのは高望み、というやつだろう。

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