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聖獣達の鎮魂歌外伝~預言者の物語~  作者: 悠介


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第二十六話 村の再建

「……。」

 職務についてから何年、 何十年、いや数百年が経った頃、の話だった覚えがある、私の住んでいたゾキュペ村が再建された、という話を小耳にはさんだのは、確かその頃だったはずだ。

「ゾキュペ村、改めウィアデストロイド、ですか……。」

 私の力の暴走によって神木に流れるマナの流れが乱れ、そしてそれを正常化させて、村を再建して、「外園ケイというアンクウがいた」痕跡を全て抹消するまで、に二百年程度の時間がかかったのだ、と私は推測していた、そもそも精霊以外に神木に干渉できる存在はいない、そしてその精霊は「アンクウによって乱れたマナを正常化させるのは精霊としてしない」と言っていたのを聞いていた、だから、自然と正常化して、私の力の暴走による死の力、その残滓が消えるまで、フェルン側は表向き、ゾキュペ村をダークエルフに滅ぼされた村だ、とフェルン正史には載せていた、下らない歴史の改竄、そこまでして私の事を秘匿にした所で、どこかから情報が洩れる場合もある、そうなった場合、全てを統制するのは事実上不可能だ、と私は考えていた、だから、そこまで私の痕跡を消す事に固執する理由、がわからなかった。

「……。」

 アンクウの間から、寝室に向かう道中、私は思い出していた。

 村には、弔った跡があったはずだ、私が弔った村の方々の遺品、墓標が残っていたはずだ、しかし、それも撤去されてしまったのだろう、ダークエルフによって全滅した村、なのであれば「墓標が残っているのは不自然」である事は自明の理だ、だから、私の力による乱れがなくなった瞬間に、王家は私が弔った村の人々の痕跡も消した。

 教会と、幾つかの建物は残っている、フェルンの建物は魔力がこもった材木や煉瓦を使っているから、それこそフェルン創設当初から残っている建物がある程度、には頑強な造りをしている建物があった、私の家も層だった覚えがある、噂に聞いた所では、私の家は宿屋に使われているそうだ。

 それを知った時、私は二百歳を超えていた、心が疲弊している、というよりは心が欠落している状態で、ただただ自戒的に妖精たちの死の未来を視続け、そしてそれを王家に報告して、そこから王家が「王家にとって都合のいい魂」を選定して、ロザウェルの神木から転生させる、という事の手伝いをしていた、それが罰だと思っていた、それが私の贖いだと、本気で思っていた、私には、それしか道はないのだと、真剣に考えていた。

「アンクウのいた村、聞いたか?」

「あぁ、無事再建されたんだってな。」

「神木に何かあったら、俺達が派遣されるしかなかったからホッとしたぜ……。」

 私以外の神官、神木の手入れをしたりする係の者達が、私の事に気づいてか気づかずか、そんな話をしていた、私はその後ろを静かに通って、アンクウの間から自室に戻る、それを繰り返していた。

 食事も基本的には独りでとる、暴走する事はなかったとはいえ、「暴走する可能性」を秘めていた私と、食事をとりたいなどという存在は居なかった、私は孤独だった、私は独りだった、アンクウの間で日中を過ごして、部屋に戻ったら夕食と次の日の朝の朝食が用意されていて、それを独りで食べて、眠って、そして滅びの未来を視て、それを繰り返していた。

「……。」

 誰もいない自室で、私は彼らの事を悔いていた。

 私が、もし万が一アンクウの力に目覚めなかったら、目覚めていたとして、それを最初カラコントロールする術を持っていたら、ならば、それが村の中ではなく、ジェライセさんと別れてから村の穴から村の中に戻るまでの間だったら、そんな「もしも」の事を考えては、彼らの事を悼んでいた。

 しかし、それを公にする事は許されなかった、、私がアンクウとして覚醒した際に暴走した事、については、王家に仕える者達にとっては常識だった、最上級に位置するハイエルフから、末端の給仕係だったエルフや、門番や警備をしていたトロル族まで、私の所業と言うのは、王家の神殿の中では当たり前の事だった。

 ただ、そこを一歩出て、神殿から一歩出た瞬間に、私のしてしまった事、アンクウという存在である事、ゾキュペという村を滅ぼした事、それらを知っている存在は誰もいない、今現状でもそうだ、美咲さんとディーさん、そして竜神様方以外、私の過ち、私の罪業を知っている者はいない、それ位には、フェルンは言論統制をしていた、王家然り教会然り、都合の悪い事実に関しては隠匿する、それは一致している認識だった様子だ。

「テイラット、アリサ、トリムントス……。」

 涙など忘れてしまった、涙など、流す意味が無かった、私には、涙を流す権利も、意味も、何もなかった。

 ただ、村が再建された、彼らの墓標が、生きた痕跡が消されてしまった、という事に関しては、今でも悲しいと思っている、涙を流すのか、と問われると否と答えるだろう、しかし悲しい事に変わりはない、私は今でも、彼らの死を悼んでいる。

 あの頃、私は彼らの死を悼む以外の方法論を知らなかった、王家に逆らう気にもならず、何かを為す気力もなく、ただただ王家の傀儡として、死の未来を視続けていたあの頃、私は歎願をする気にもならなかった、彼らが生きた証を残してほしい、村を再建するのだとしても、彼らの死まで隠匿しないでほしい、そう願う事を許されていなかった。

 あの頃からだろう、給仕に依頼して、安酒を煽る様になったのは、あの頃からだっただろう。

 クレールのような高級品ではなく安ものだった、量産体制の成立しているワインとウィスキーを飲んで、酔っぱらって眠る、それ以外に私は、方法論を知らなかった。

 今となっては酒は嗜む程度、というよりは、あの頃に飲みすぎて耐性がついて、アルコールで酔うという事がなくなっているが、あの頃は、少し飲んでは酔っぱらって、それで酔えなくなってきたら給仕に依頼して酒の量を増やして、どんどんアルコールのきつい酒にシフトしていって、という事をしていた、それ位には、私は心を病んでいた。

 二日酔いになる事はなかった、二日酔いになる程には酔えなかった、その日の中で完結する酩酊だったというだけの話、それ以上は給仕がコントロールして出してくれなかった、という話にもなってくるが、兎にも角にも、あの頃の私は毎日美味くもない安酒をかっ喰らって、酔っぱらう為だけにアルコールを摂取していた、それをしないと眠れなかった。

 睡眠導入の為の薬草、というのは、王家には仕入れるルートが無かった、何処かの村で綿々と伝え継がれている、秘薬と呼ばれる類の薬草があるだとか、薬酒があるだとか、そんな噂は聞いた事があったが、王家の神殿に出入り出来る存在や、仕入れられる食料と言うのは、基本的には限られていた、王家に仕える者という性質上、毒を盛られてという事が過去にあったらしく、そこから警戒態勢が敷かれるようになって、出入り出来る妖精が少なくなっていた、私は「その中で最低限の価格」の酒を飲んでいた、ある意味、私がアンクウとして「死に対する耐性」があったと認識されていたから、毒にも耐性がある、と誤認されていて、私一人が飲む分にはと許されていただけだ。

「……。」

 酒を煽りながら、あの頃の事を思い出しては、心が壊れていく日々、私は、死の未来を視続ける事と、過去を思い出し続けるという、矛盾した二つの出来事を繰り返して、心を壊していた。

 心を砕いていたのではない、明確に、心を壊していた、今どき風に言うのであれば「心を病んでいた」という言葉になってくるのだろうか、あの頃は、ずっとそればかり繰り返していた、過去に囚われて、過去に縋りついて、それだけが私の支えだった、私が意識を失わず、王家の傀儡ではあったが「自我」を保っていた理由は、自戒と贖罪、そして彼らの尊厳の問題を抱えていたから、に他ならない。

 私の中にずっと在り続けていた破滅願望、彼らの元に行きたい、彼らと共に転生を待ちたい、という破滅願望も、あの頃には失っていた、二百年という長い時間は、私の感情という感情を消し去って、「悲しみと言う漠然とした何か」しか残らない程度に摩耗していた。

 ん、今はどうか?

 私にそれを聞くのは、深淵の中に潜む闇を覗く、そう言った事柄だ、聞かない方が身の為だ。

 その私が何故、キュリエを連れて国を脱したのか、それを語るには、あと四百年ほどの歴史が残っている、と言っても、あの頃は変わらない毎日を送っていた、朝起きて、朝食を食べて、アンクウの間に行って、死を記録し続けて、夜になったら部屋に戻って、夕食を食べて、酒の勢いに任せて寝る、それだけを繰り返していたよ。

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