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聖獣達の鎮魂歌外伝~預言者の物語~  作者: 悠介


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第二十二話 四十年

 あれからの私、ケイと言う名を捨てて、外園として生きていく事を誓った私は、神官になる為に、血反吐を吐くような鍛錬と、睡眠すら許されない様な教育の中を過ごしていた、ただ、睡眠が取れない事、についてはどこかで安心していた、あの村の光景も、世界の滅びのヴィジョンも、視ずに済むのだからと、それはそれで安心していた。

 ただ、それでも辛い日々だった事に変わりはなかった、ロイスと言う教育係にこっぴどくしごかれて、彼は彼で恐れていただろうが、私に教育を施しがてら、私の実力をよく測っていた。


「外園、精霊からの賜り物だ。壊れる事は無いと思うが、壊すなよ?」

「これは?」

「名をリヴォルビングランタン、大鎌と言う武器だ。二代前のアンクウが持っていたものに関しては、教会に没収されてしまった、だから精霊シェイドより賜った、この小刀はインソムニア、スコップの様にも見えなくはないが、切れ味は鋭いから気を付ける様に、こちらはウィル・オ・ウィスプからの賜り物だ。」

 私が五十歳程度になった頃だっただろうか、ある程度の事を学びきって、そろそろ神官として活動を開始するのだ、という達しが来る頃に、私は精霊達から武具を賜った。

 精霊達には一度だけ拝謁した、私達妖精が基本的に中級魔法までしか使えない、素質のある属性だけは上級魔法を使える、というのが定説な中、私は全属性の上級魔法を使える様に、と精霊達に謁見をして、それを賜った。

 燃え盛る火蜥蜴のサラマンダー、人魚と言う、下半身が魚のような見た目をしたウンディーネ、風の洋服を纏った小人の様なシルフ、ひげを蓄えた土色の小人ノーム、光が形をとって白い火の玉の様な形をしたウィル・オ・ウィスプ、女王ディアーヌに似た、というよりは女王ディアーヌが似ているフラウ、黒い瞳の人シェイド、雷を纏った老人のジャンゴ、それぞれの精霊に、私は上級魔法を伝授してもらった、私の生来の属性は「光」だったらしく、闇のシェイドの魔法を覚えるのには苦労した、そんな覚えがあったが、伊達に私も研究者気質だと言われていたわけではない、覚える事に苦は一切なかった、ただ、自由が無かった、それだけが苦しかった。

「さて、俺の役割もここまで、お前を育てた時点で、俺の役割は終わりだ。……。情がわかないわけでもない、アンクウの歴史はよく覚えているな?先代のアンクウは、協会に使いつぶされた結果、発狂死したと。お前がそうならない様に、歎願する事も考えたんだがな、俺はお前を育てるのが役割、俺にはそれは許可されていない、女王の言葉は絶対だ、あのお方に逆らってしまったら、この国では生きていけない。外園、もし万が一、お前が女王のお言葉に従えないとなったら、女王はお前を躊躇いなく傀儡に変えて生かしていくだろう。……。この部屋だけは、女王の魔力探知にも引っ掛からない、あのお方がお前の力の暴走から逃れるために、外からも内からも魔力を一切合切遮断しているからだ。恐らく、これからもお前はこの部屋を使う事になるだろう、そうさな、この部屋はお前にとってセーフティルームだとでも思えば良い。」

「……、ロイス……。はい、胸の内に刻んでおきます、ありがとうございました、私を気遣ってくださって。」

「……。子供がそんな事をいうもんじゃない、と言いたいところだが、そうさな、お前さんはもう立派な大人だ。どう生きて、どう終わって、どう足搔いて、それを見物させてもらう事にするよ。」

 ロイス、私の教育係だったハイエルフの老体、私の暮らしていた村の村長と同じくらいか、それよりも年上だったロイスは、私を恐れながら、というよりは私の力を怖れながら、しかし情熱と真心をもって、私に教育を施してきた、そんな感覚が今でも残っている。

 女王が無意識下で恐れていた私の力、アンクウとして死神の力が暴走しない、と判断するまでにかかった時間、それが四十年という時間だった、と言うのもあるだろうが、私から毒気を抜いて、反逆の意思を失わせるのにもそれ位の時間がかかると考えていたのだろう、事実、私はあの頃は王家に反逆をするつもりは一切無かった、そこから五百五十年間、王家の命令に従って神官を続けてきたのだから、それは自明だ、私は、王家に逆らうつもりも、反逆者として、アンクウの力を暴走させるつもりもなかった。

 そもそも、意図的にも偶発的にも、アンクウとしての力、つまり死神として誰かを殺める方法、というのを私は知らなかった、以前のアンクウがどうだったかについてはわからない、それは今でもわかっていない、アンクウと言う存在自体は竜神様もご存じだったが、その発生理由、偶発的か意図的か、そしてその力の根源に関しては、テンペシア様もご存じではなかった、知らないと言っていた、だから、私は今でも「死神」としての生き方を知らない。

 ただ、未来を視る方法に関しては、しこたま教えられた、それを神官として生業にしていくのだから、とロイス他ハイエルフの中で、軽い未来予知が出来る者がいて、その者達に教え込まれた、私は歴代のアンクウの中でも「死の未来を視る力」が強かったらしく、私がそれを学び始めてから四十年、と言っても四十年、人間という種族からしたら、人生の半分を捧げている様な事柄だが、エルフからしたら命の十分の一にも満たない時間、でそれを体得したのは、端的に言って「異常な速さ」だったらしい、歴代のアンクウは短くて三百年、長くて五百年の時間をかけて、死の未来を視るという技術を体得するのだ、ロイスは言っていた。

 それを四十年という短期間で体得してしまった、しかもそれを「一つの属性を覚えて極めるのには十年かかる」と言われていた上級魔法を同時に体得していたのだから、彼らからしたら、私はエルフの中では他の追随を許さない程度、には才覚に溢れていたのだろう。

「さらばです、ロイス。」

「ああ、さようなら、愛しい教え子。」

「……。」

 ロイスが部屋を出ていった、彼があの後どういった境遇をたどったのか、については後々に聞いた、アンクウを知っている者は最低限で良い、協会にアンクウを攫われてしまわない様に、そして、王家がアンクウを使って、都合のいい存在から転生させているという「王家にとって都合の悪い事実」を知る者は最低限で済ませなければならない、と粛清されてしまった、ハイエルフの中では下から数えた方が階級が低かったロイスは、その後ディアーヌの命によって粛清された、何かを咎められたのではなく「都合が悪いから」粛清された。

 悲しい、と感じる余裕も無かった、あの頃は、生きていくのに精いっぱいだった、ロイスに感謝こそしていたが、それ以上に私には之しか生きる道はないのだ、と強迫観に囚われていた、私はこの道で生きるほかに道がない、私には、それ以外の道は残されていないのだ、と。

 今では違うと答えるだろう、今こうして旅をしていて、世界を回っている身としては、私はあの頃の自分に「違う生き方もあったはずだ」と言えたはずだ、ただ、あの頃はそんな思考にすらたどり着かなかった、私は、あの頃はアンクウとして、死を視る予言者として、生き続ける他ないのだ、と考えてしまっていた。

 それが間違いだったのか、それとも正しかったのか、それは今でも答えは出ていない、あの頃その答えにたどり着いていたら、今こうして独りで旅をしている事はなかっただろう、ならば、キュリエと出会う事もなかっただろう、だとすれば、私が世界を守る為に奔走する理由もなかっただろう。

「……。」

 静かな部屋だった、学術書や魔導書の類が敷き詰められた棚と、洋服用のタンスと、ベッドと机だけの簡素な部屋、それだけがあの頃の私のすべてだった、セーフティネット、として、セーフティルームとして、あそこがすべてだった。

 白い部屋は狂う、という話を何処かの学術書で読んだ事があった、真っ白な空間、真っ白だけの空間は、空間認識能力と、識別能力を欠如させるのだ、と。

 私のいた部屋はそれに近かった、机と本棚とタンスがあったから、白い部屋とまではいかなかったが、閉塞的で、魔力的にも諸々を遮断された部屋だった、ただ、私にとっては、誰かに介在されない空間、と言うのは居心地が良かった。

 ロイスが言った言葉、それは、この部屋であれば、誰かに干渉される事がない、という意味合いだったのだろう、実際、女王ディアーヌでさえ、私の部屋の中には干渉が出来なかった、入って来る事もなかった、だから私は、いつかの為にダークエルフの歴史、ジェライセさんから聞き継いでいた歴史を、書き留めていた、いつの日か役に立ってくれる日が来る、いつの日か、ダークエルフとエルフの橋渡し役になる為に、と私は羊皮紙に書き留めていた、それは結局、ディアーヌに見つかって破棄されてしまっただろう、私が居なくなった後、私の部屋はくまなく捜索されただろう、だから、記録が残っているとは思っていない、そして、最低限「ジェライセさんというダークエルフに伝え継いで貰った」という事柄に関しては、私自身があそこを抜け出す前に焼却していた、だからおそらく、ジェライセさん達には被害は行っていない、と信じたいものだ。

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