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聖獣達の鎮魂歌外伝~預言者の物語~  作者: 悠介


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第十七話 竜人の行商「ディー」

「やぁ外園君、待っていたよ。」

「ディーさん、お待たせしましたか?」

「いや、今来た所だよ、僕はそんなに早くから飲むタイプじゃないからね。」

 バーデュボアに足を運ぶと、夜は夜でランプの明かりがほんのりと灯っている感じが幻想的で、昼間の陽光がほんのりと入ってくるのとでは、また趣が違う良さがある、それは四十五年前から変わらない。

 私が用事があったのは、ディーさんという、竜人族の亜人、ドラグニートは都市「テンペシア」に居を構えている行商人の竜人で、テンペシア様の庇護下に生まれた者の特徴として、風色の瞳と肌の色感が特徴的だ。

 ディーさんの特徴、というよりは竜人族の特徴として、竜の様な頭の形に人間より大きい人間に似た体躯、という特徴があって、なんでも、マズルから伸びる髭の長さは、年齢に比例して長くなっていくんだとか。

 そんな風色の肌に、革でできたべストとツナギを着ているディーさんは、私がテンペシア様の元を訪ねて、門を叩いたころからの知り合いだった、竜人は何百年という年月を生きる、エルフ程ではないけれど、人間よりは長い時を生きる、だから、私がジパングに渡るにあたって、諸々の品を揃えてもらってという事のやり取りをする相手、として選んだのが、このディーさんだ。

 ディーさん、と言う名前は、九代目というよりは、歴代の竜神王「ディン」の名から問っているという話を本人がいつだったかしていた、ディンという名は「竜神王」しか名乗る事を許されていない、ある意味ハイエルフ達が「名」を継承していく様に、竜神王はその名をディンと言う、という話だった、そんな眉唾な話を信じているドラグニートの信仰、と言うのに驚いた覚えがあるが、竜神様という方々がいらっしゃるのだから、伝承にある「竜神王」が別で存在していてもおかしくはないだろう、その「ディン」から一文字取った名前、と言うのは、定期的にドラグニートで流行るらしい、かくいうディーさんも、同じ名前の同級生がいて困った、という話もあったのだとか。

「外園君はこれからジパングだったよね?品物のリストは送った方が良かったかな?」

「はい、その時その時で入手できるもの出来ないものがあると思いますのでリストを頂いて、という形を取った方が楽でしょうしね。それに、ディーさんの仕入れられている物、に関しては興味が尽きませんから。」

「あはは、まあ僕は世界中を回っているからね。と言っても、マグナには行かないよ?あそこは竜人が行ったなんて話になったら、国際問題になりかねないぞって、テンペシア様が言ってたからね。どうして僕がマグナに行こうとしたのを知ったのか、って事は未だに教えてもらえてないけど、テンペシア様の神殿に招かれた、と思ったらマグナに行っちゃだめだよ、君の命を守る為にも、民を守る為にもこれは約束して欲しい、だったからね。」

「マグナの民からしたら、竜人の方は侵略者という扱いになってしまうでしょうしね。かくいう私もその口ですよ、テンペシア様に、マグナに行くのなら幻惑魔法で耳を隠して、人間として行ってほしい、妖精が行ってしまったら、マグナとフェルン間での国際問題に発展してしまうのだから、と言われましたよ。」

 ノースディアン原産のワインを注文して、レッドチーズを摘まみながら、ディーさんと話をする、美咲さんからしたら、連絡船と言うべきか、このグランマリア号は、マグナに出入りを許されている数少ない船舶であり、マグナの地にも行った事があるのだから、わからないのだろうけれども、私達一般の、と言って良いのだろうか、そう言った「登録」されていない亜人や妖精がマグナの地に踏み込む、という事は、その地の生物からの侵略や宣戦布告だと思われても仕方がない、という程、マグナという国はぴりついていた、現在進行形で戦争をしていて、マグナの中での人間同士での争いの他に、ウィザリアでもフェルンやエクイティの人間達や妖精と争っているのだから、それは仕方が無いだろう。

「外園君は諸外国を巡っていたと言っていたけれど、私と違ってマグナへの立ち入りは許されていないんだったね。逆に、私がグランマリア号の船員だから許されているのが不思議だ、と言っていたね。」

「僕や外園君だと、侵略者認定されてしまうからね。もしかしたら、竜人であれば特派員として見られる可能性もあるけれど、でも、それに賭けて迷惑をかけるんじゃ、申し訳ないしね。」

「それで、ディーさんはこれからどちらの国へ?そう言え場伺っていなかった様な気がするのですが。」

「えっとね、サウスディアンだよ。あの土地は暖かい気候だからね、果物がよく取れるんだ。」

「サウスディアンの熱帯林、の果物と言うと、バナナなどですかね?あれらはフェルンには流通していなかったので、感動した覚えがありますよ。ただ、果物は傷むのが早いので、流通には適さないのでは?」

「そこは僕達は魔法が使えるんだから、保存の為に氷属性の魔法と水属性の魔法を使って、だよ外園君。水が必要な所では水属性を、冷却が必要な所では氷属性を。フェルンではそう言うのはなかったのかな?」

 フェルンにおいて魔法とは崇高なもの、と言うべきか、使えて当然だが、生活に使うとしても、火をともす程度だった、火属性の名も無き魔法、入門の中の入門、ファイアボールの前に教わる、所謂「魔力の使い方」を習う為に覚えるのが、火を灯す魔法だった、私は独学で色々な国の魔法を習って、上は上級魔法から、下は洋服についた汚れや匂い、布の切れ目を直す魔法から習ったのだが、フェルン時代は地産地消というのか、大体の事は村の中や近隣の村との提携で終わっていた、ロザウェルの中においても、ロザウェル近郊の村から作物や食料などを受け取って生活していた為、そもそも「外国とのやり取り」自体が珍しい事だった、だから、冷気魔法を保存のためにつかう、という発想自体が無かった。

 フェルンを脱してから百年、そう言った常識に関しては、まだまだ更新が出来ていない、と言うべきか、私の中の常識と別の国での常識の違い、に関しては苦労していた。

 これから行くジパングに関しても、ジパングは基本的に物々交換の世界、港町だけは金銭でのやり取りがある、という話を聞いて、最初はどうするべきかと悩んだし、フェルンには「フェリア」という独特の貨幣がある、世界共通貨幣として「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」という貨幣があったが、私が持っているのはフェリアだった、貨幣の変換自体は出来る、フェルンの港とドラグニートの港に、そう言った換金所、両替所と言うのがあるが、それも知らなかった、私にとっては、フェリアと言う金銭が基本だった為、最初にそれらを求められた時は、驚いた覚えがある。

「そうでしたね、私の中での当たり前と、竜人の方々の当たり前が違う、という前提がある事を、時折忘れてしまうのですよ。冷却魔法と言うのは、鮮度が必要な物の保存に使うのでしょうか?」

「そうだね、生肉だとか、果物だとか、保存が必要な野菜を運ぶときに使う魔法だね、名前がついてるのか?って言われると、僕達からしたら当たり前に使う魔法だし、名前はついてない、って言うのが正解なんだろうけど……。僕達行商人からしたら、使えないと駄目な魔法だ、ってずっと言われ続けてるからね、ブリジール様がどうお話してるのか、って言うのは学校で習った気もするけど、忘れちゃったや。」

 ブリジール様、と言うのは「雹竜ブリジール」と言われている、氷属性を司る竜神様の名前で、ドラグニートには八柱いる竜神様の中のひと柱だ。

 「火」「水」「風」「雷」「氷」「土」「光」「闇」「聖」という、九種類の属性からなるこの世界の魔法体系、例えばそれに所属しない魔法や、複合属性と言う魔法もあったりはするが、基本的に聖属性を除いた八属性、が私達の使える魔法の属性だ。

 聖属性が何故例外なのかと言われると、私達は基本的に八属性のどれかに属して生まれてくる、例えば私であれば光、ディーさんで言えば風、美咲さんで言うのなら水、という風に、基本的に適正のある魔法の属性を持って生まれてくるのがこの世界においての常識なのだが、聖属性は違う、聖属性とは、ある種異端者の魔法とも言われていて、誰かが属して生まれてくるものではなく、何某かの異変があって突然変異的に「使える存在」が生まれてくる、そんな属性だ、私も一人だけ、聖属性を扱える妖精に出会った事があるが、その妖精は、死ぬまで王家にとっての研究対象として実験に使われていた、聖属性とは、フェルンが八千年の歴史を持っている大国家なのにもかかわらず、歴史上数名しか現れなかった、そんな属性だと私は教わった。

「君も洋服を修繕する魔法だったり、汚れを落とす魔法だったりを使えるだろう?だから、そう言うたぐいの魔法だ、って僕は教わったけどね。行商人として、匂いって言うのは気にしなきゃならないし、見た目が汚いと売れるものも売れないからね。」

「そうでしたね、私も意識せずに使っている魔法でしたので、忘れていました。旅に出てから百年、思えばそう言った魔法を教わるのも、新鮮な気持ちになったものです。旅の中で困らない様にする魔法、というたぐいの魔法は、フェルンでは教わりませんからね。」

「フェルンは古風な魔法を使うって言うのはきいた事があるけれど、今でもそうなのかな?あそこは封鎖的な国家だから、僕達には情報が入ってこないんだよ。」

「それに関しては私に効かれてもわかりませんねぇ、私もフェルンを脱してから百年は立ちますから、そのあたりの常識が変っていたとしてもおかしくはありませんからね。美咲さん、そう言った部分の変化はあるのでしょうか?」

「ん?そうだね、あの国は本当に変わらない、神木への信仰心もそうだし、色々な意味で変わらない国だね、ドラグニートが発展を推進しているのに対して、フェルンは古来からの伝統を重んじる、他の国も様々だけれど、未だにフェルンは帆船しか受け入れていない、という事からも、そう言う鎖国的な部分、は変わっていないと言えるんじゃないかな?」

 伝統を重んじる、と言うのは随分と忖度をした表現で、美咲さんは私だけが客としていた時、「フェルンは蒸気船を受け入れる事すらできない行き遅れの国家だ」とまで言っていた、仕入れとして行くとしても、そう言った意味では不便なのだろうな、とは思っていたが、他の客の前で言葉を荒げる程、美咲さんも子供ではない、という事なのだろう。

「それじゃ、僕はこのあたりでお暇しようかな。あんまり飲むとかみさんに怒られちゃうし、僕はお酒あんまり強くないしね。じゃあ外園君、書類関係はまた今度。」

「はい、お願いします。」

 そう言うと、ディーさんはフラフラと千鳥足でバーを出ていく、元来飲む方ではない若者なのだろうが、これ位の嗜みは出来ないと客足にもかかわる、と言っていただろうか。

「外園君、クレールを入れるかい?」

「はい、頂きましょう。」

 クレールを飲む機会も、もう暫くは訪れないだろう、ジパングからフェルンへの流通、と言うのは事実上不可能だ、と言われていた、アルコールと言う長持ちする物品だったとしても、それは出来ないのだと。

 だから、ではないが、別れを惜しむ様に、クレールを味わう、美咲さんの思い出話、クレール地方のルポセ村、と言うのがどういう所で、美咲さんが小さい頃は葡萄踏みに加わっていて、そんな話を聞きながら、私はクレールをゆっくりと味わう。

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