第九章☆先生
子どもたちは全部で30人いた。
みんなコールドスリープから起きてきて、お揃いの服をきて、一斉に私に注目した。
「先生!」
誰かが叫び、みんな口々に私を先生と呼んだ。
「よく無事に起きたね。みんな未来に来た」
「先生も?」
女の子が私を見上げて聞いた。
「私も」
みんな納得したように、顔を見合わせて笑った。
「この未来の世界を生き抜くために、睡眠学習がなされたの。やるべきことはみんなの頭の中に入ってる」
「僕らは、たんぽぽのタネみたいに思い思いの場所へ散らばっていって生き延びるのですね?」
「そう。生き延びて子孫を増やして地に満ちるのです」
「先生は一緒に来ないの?」
「私は歳がだいぶ離れているし、古い記憶の方が多いから一緒には行けません」
移動手段の羽根がついた乗り物が準備してあった。
食糧と物資がコンパクトに積まれ、子どもたちが旅立つのに困らないように工夫されていた。
こほんこほん。
一人の男の子がせきをしていて、なかなか止まらなかった。
「大丈夫?」
手を差し伸べると、その子は笑って、「お母さん」と言った。
私は、子どもの頃父親から、女は勉強せずともやがて結婚して子どもを産み育てればいいのだと育てられた。だからその「お母さん」という言葉に戸惑いを隠せなかった。
ごほごほっ。
その子が血を吐いた。
「きゃー」
その子の妻になる予定の女の子が叫んだ。
「先生、この子を助けて!」
私には医療の知識がなかった。
「お母さん。もう一度、僕は夢の中へ帰りたい」
その子は私にそう言った。
コールドスリープに戻すしか無い。
私は気がつくと泣いていた。他の子どもたちが手伝ってくれて、その子をカプセルに入れた。
「今度起きた時は元気になってね」
「うん。約束だよ」
その子は笑っていた。
みんな旅立つ時が来た。
片割れをなくした女の子は、私のそばに残ることになった。
「何か困ったらここへ帰っておいで」
「もちろん」
ひらひらと飛んでいく姿は遠目には蝶たちのようであった。




