9話 感情のやり場 sideサフィーリア
ちょっと前から、シオの殿下たちに対する態度が、すこし柔らかくなった気がする。
シオの素を知ってるからこそ、強く感じる。
何があったかは知らないけど、第一王子殿下と第二王子殿下の間の雰囲気も、すこし違う気がするから、多分シオもそれに関わっているのだろう。
私は、というと、あの時から、私とシオの関係は変わってない。
学校終わりのこの場で、友人として話をするだけ。
前までは、シオが素を出す相手が少なかったから、そういう意味では、私のシオにとっての重要性は、薄れているのかもしれない。
……なんて、自分でも酷い言い方だな。
私は、気づいてしまった。自分の気持ちに。
あの時まで、自分がシオにとって、特別だとでも思っていたんだろうか。
失恋と同時に気づくなんて、したくなかったなぁ。
今、私はシオの前で上手く笑えているのだろうか。
そんなことを毎日ぐるぐると考えながら生活している。
そんな私に気づいているのかいないのか、スフィアが、休日に部屋でお茶をしようと、誘ってくれた。
「なんだか、2人だけで話すのが久しぶりに感じるね。」
スフィアが、そう言ってほほえんだ。
「そうだね、第二王子殿下の一件の時から、業務も忙しかったし。」
「……ねぇ、サフィー。何かあった?」
不意に、スフィアがそう言った。
「な、何かって、別に、なんでも……」
スフィアに嘘をつくのは嫌だったけど、なんと言えばいいかわからなかった。
「嘘、だってサフィー。最近ずっと、あの日からずっと様子が変だもの。」
スフィアは、まっすぐ、私の目を見ていた。
逸らしてしまいたくなるぐらい、綺麗な目で。
「サフィーが、ずっとなにかに悩んでるのはわかってるよ。見てたらわかる。でも、それを私に言いたくないなら、無理に聞く気もないの。私は、いつだってあなたの味方でありたいから。」
「っ!」
……その言葉を聞くと、何故か急に苦しくなった。
心配をかけているのは嫌なのに、本当のことは言いたくない。そんな自分の矛盾した気持ちが、すごく、嫌になった。
なんと言っていいかもわからず、時間は流れて、その日は、スフィアと別れた。
……やっぱり、いろいろ考えたけど、この気持ちを消してしまうのが、一番、良い解決方法なんだろうな。
そうやって一人、学校の裏庭で思案している時だった。
「ディアン伯爵令嬢。」
「え……?」
急に名前を呼ばれたと思ったら、その声の主は、パーシアン・ノルディックだった。
「……どうされましたか。」
シオと双子の兄弟であるからと言って、この人とはあまり話したことはない。だからこそ、こんな学校の隅にいる私に、わざわざ声をかけてくる理由がわからなかった。
「悩んでるんじゃないかと思っただけだ。シオンのことで。お前は、シオンのこと好きなように見えたから。」
……図星、ではあるんだけど。それ以上に、貴族かと疑うくらい、デリカシーのない発言に驚いていた。
「ああ、ちゃんと相手は選んで話し方を変えてるから、いつもこんな態度なわけじゃねぇし。お前は下手に遠回しに言ったら逃げるタイプだと思ったから、そうしただけだ。」
「……まだ何も言っていないのに、私についてわかっていることが多すぎませんか。」
「話さずとも、毎日同じ場所にいて、周りの人間まで同じだったら、多少はわかるだろ。」
……それでも、十分おかしいと思うんだけど。
「それで、聞いたんだろ?第二王子についてる神から。満月のこと。」
「……はい。」
「……満月は、あいつにとって光だった。暗く沈んでいたあいつを救ってくれた。俺は、あいつのために何もしてやれなかったから、満月には、感謝してもしきれねぇし、俺にとっても、親友で、大切な人。」
パーシアンは、懐かしむように、微笑みながら話した。
「なんで満月と一緒にいられなくなったのか、とか詳しいことは言えない、少なくとも、シオンが決めるまでは、俺からは言えない。……ただ、あいつは、シオンは、ちゃんと前に進んでる。だから、お前があいつの過去に縛られてても、意味はねぇんだよ。」
パーシアンの言葉に、ハッとした。
たしかに、そうだ。
私は、ただ嫉妬しているだけだ。
シオに、愛する人と呼ばれた、その人を。
わかってたんだ。シオの気持ちを理由にして、私が自分の気持ちと向き合うことから逃げてることも。
「シオは、すごいなぁ。ちゃんと前を向ける人なんだよね。……私も、そうなれるかな。」
伝えられるかな。私の気持ちを。




