6話 選んだ理由
その後、第一王子と第二王子は、普通に部屋に戻ってきた。
むしろ、仲良くなったように見えた。
話したかったこと、ちゃんと話せたみたいだ。
けれど、いずれ、どちらかが王になり、どちらかが臣下になるのは決まっている。
だから、二人にとって、これが一番良い関係なのかは、わからないけど。
今、二人が良いって思えるなら、それでいい気がする。
後日、第一王子からの提案を受け、俺は、屋上に向かっていた。
学園の屋上には、テラスのようにセットされた空間があり、そこで昼食を取ろう、という提案だった。
第一王子にしては、珍しい場所だな、と思いながら、たどり着くと、既に第一王子は、席に座っていた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。」
本来、立場の低い俺が、先にいなきゃいけないんだけどね。
「大丈夫だ。俺が少し早く来ただけだからな。」
いつもの笑顔を浮かべて、第一王子は言う。
「……それで、今回はどういうご要件で?」
「いや?特別用はないな。ただ、リュシオンとゆっくり話がしたかっただけだ。」
……これが、本心なのか、否か。
それがどちらか、俺にはわからない。他人の心情なんて、確実に知る方法なんてないんだから。
それでも、俺は、この人を信じたいのだと、思う。
「……リュシオン?」
しばらく黙っている俺を見てか、第一王子が、俺の名を呼んだ。
そんな第一王子に、俺は、すこし微笑んで、言った。
「……いつも、そうやって名前を呼んでいますよね。俺だけじゃなく、みんなの。それは、なぜですか?」
「……そうだな。名はその人にとって、自身を示す、最も明確な言葉なのだと、考えているからだな。だから、名を呼ぶ、ということは、俺がその人と向き合っていることを伝える、最適な手段だと思うんだ。」
俺がいきなり聞いたにも関わらず、律儀で丁寧な答えが返ってくる。
「そうですか。……もう一つ、聞いてもいいですか。」
「ああ、時間は十分にあるからな。聞きたいことを聞いてくれ。答えられる範囲は答えよう。」
第一王子の髪が、風ですこし、揺れた。
この人は、いつも、俺の目を見て話す。
「……どうして、俺を側近に選んだんですか。」
ずっと、気になっていたこと。
社交界で、表向きな関わりを交わしたことはあっても、プライベートで話したことは、今までなかった。
俺の魔法の才を知っていたとしても、心の内がわからない、信頼できるのかわからない俺を、一番近くに置くだろうか。
第一王子は、フッと笑って、前を向いた。
「……すこし長くなるが、いいか?」
俺が静かに頷くと、第一王子は、話し始めた。
「昔、五年前、だったか。王家主催のパーティーに参加していた。俺は、幼い頃から見てきた、優秀な王としての父の姿と、父を慕う民を見て、俺もそんなふうになりたいと、その頃から、思っていた。」
第一王子は、懐かしむように微笑んで、目を細めた。
「そんな時に、お前を見つけた。」
俺に向いた第一王子の瞳は、まっすぐに俺を映していた。
「ほとんどの人物は気づいていなかったが、あの頃から、お前は他人と関わる時、とても退屈そうな顔をしていたな。」
「……気づいてたんですね。」
これはすこし、予想外だな。
「我ながら、洞察力は高いと自負しているんだ。」
第一王子がニヤリと笑う。
「俺は、人と関わることが好きだ。身分に関係なく、自分にはない視点や、考えを聞けることに喜びを感じる。だからこそ、お前のことが理解できなかった。」
「……俺が、今までに見たことのない考え方を持っていると知ったから。自分に理解できない人間を、理解したいと思ったから、ということですか?」
「まあ、そうだな。……あと、単純にお前に興味が湧いた。だから、とりあえず視界に入ろうとした、というわけでもあるな。」
予想外の答えに、思わず俺は目を見開いた。
「……そう、ですか。」
「どうすれば心を開いてもらえるのか、お前が居心地の良い場を作れるのか、かなり悩んだんだぞ。なのに、それでもお前は何も気にしないし、退屈そうだっただろう。」
「それは……すみませんでした。」
本当は、気にしないようにしていた、が正しいんだけど。
「だけど、昨日、フォーリアスからお前のことを聞いた。これを話したのも、今のお前なら、ちゃんと聞いてくれるんじゃないかと思ったからだ。」
本当にちゃんと、この人は俺のことを見てくれる。そう、何度も認識させられる。
「……そうですね。俺も色々あったので。今まで、頑固になっていたところは認めます。」
「……今までと比べると、本当、よく話すな。」
すこし驚いた様子にも見える第一王子が面白くて、俺は笑みをこぼした。
「そうですね。……俺も、元々はかなり喋る方だからね。」
俺がそう言うと、第一王子は、数秒止まった後、微笑んだ。




