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第26話 女魔法使いアデリナ視点②

杖を手に立ち上がり、辺りを見渡すと生きているのは私だけだった。

武器を持つものは死に、農奴は逃げ散っていた。

森の中から死臭を嗅ぎつけたゴブリンやオークが出てくる姿が見える。


カールは人を家畜のように使う。カゲトの言う通り、悪だ。

しかし――


辺りに転がっている死体を見る。腕や脚がちぎれ、真っ二つになっている物もあった。


――魔物は人を容赦なく殺す。やつらも、悪だ。


どちらも選びたくはない。どちらも殺したい。

自分の力ではどうにもできないことが、ただくやしかった。


―――――――――――――


何日、森の中を彷徨っただろうか。

食事もせず、思い悩み、歩き続けた。

そして自分でも知らないうちに教会の前に立っていた。


私は何にすがろうとしている。

ここにいるのは、乱れた世を傍観しているだけの神だ。


教会前で清掃している女が声をかけてきた。


「アデリナさん……でしたよね?」


守護砦でカゲトといっしょにいた女か? とすると――。


「大丈夫です。カゲト様はいません。さあ、中に入って祈りましょう。」

「祈りなど、必要ない」

「顔に迷いが出ています。私も同じです。救いを求めましょう」

「免罪符や祝福を売るのに忙しい神に用はない」

「仕方が無いのです。冒険者を続けられなくなった神官も生きていかなければなりません。戦士は商店や酒場の用心棒。魔法使いはスクロール作りの内職。みな、次の生活に移らなければなりません。一生分の財産を蓄えられるのはアデリナさんのようなSランク冒険者ぐらいです」


エレーナと名乗る女は教会を見る。


「ここでは聖なる商いはしておりません。ディアナ様のお考えです」


聖女ディアナ。SSランク以上に許された、聖女の称号を持つ神官。同じように戦士は勇者や守護者。魔法使いは魔導士の称号を与えられる。


カールの婚約者が、ここで何をしている。


「中に入るわ」

私は教会の扉を開けた。


神に祈りをささげるエレーナの横で、祈るふりをしながら神にさんざん悪態をつく。


「闘気が漏れていますよ、アデリナ。心を鎮め祈るのです」


目を開けるとディアナがいた。

冒険者ギルドの幹部会で顔を合わせた以来になる。


「ご立派だね、聖女。でも、こんな神に祈るより、カールの悪行を止めた方が人を救えるんじゃないかしら? 婚約者なら、やつが何をやっているか知っているでしょう?」

「人を救う方法を見つけるのは難しい。まだ答えを探している途中よ。そのためにはいろいろ試す必要があるの。今は一番、人が死なない方法を取っている。アデリナにもわかってほしい」

「魔物に襲われなければ、確かに死者は減るでしょうね。だが、農奴の心は死んでいるわ」

「農奴の心を救済するための教義を作っているところよ。ねえ、エレーナ」

「はい。ディアナ様」

「笑わせるわ。支配するための間違いでしょう?」


ディアナが笑う。


「何がおかしい?」

「ここに来たときのエレーナも似たようなことを言っていましたわ。でも今は違いますよね?」

「はい。ディアナ様」


外から馬蹄が響く音が聞こえてきた。


「カールよ。エレーナ、アデリナを隠れられる場所に」


教会の外へ出ようとした寸前で、エレーナが私の袖を引っ張り、柱の陰に身をひそめた。

カールが荒々しく扉を開ける音が聞こえる。


「ディアナ! 大司祭はいるか! メデューサのババア、部下をコントロールできなくて、何が四天王だ! 使えない下請けめ!」

「父上は地下にいます。だだ、今は祝福中で――」

「いいから開けろ!」


ディアナが詠唱するとガコンッという音がして、神の像が動いた。


「あれは何? 奥には何があるの?」

「黙って!」


横を見ると、エレーナも同じ詠唱をつぶやいていた

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