第25話 女魔法使いアデリナ視点①
カールは守護砦から一人だけ生きて帰ってきた私を牢屋に入れて三日三晩尋問した。
それだけの短さで済んだのは、傷が深かったからだろう。
私にはわかっている。カゲトは私が疑われないように攻撃したのだ。
だから恩返しの意味もこめて「グスタフはリーンハルトに殺された」と言い続けた。
冒険者ギルドはもう冒険者の集うところではなく、カールの仕事案内所に変わっていた。依頼をコントロールされているとわかっていても、誰もカールには逆らえない。むしろ、喜んでカールの私兵になる者も多かった。
平民ながら勇者パーティーから、伯爵になり、魔王軍相手に快進撃を続けるカールは、平民にとって希望の星だ。王よりも人気がある。
そして、今、私は魔王軍との最前線に来ている。
だが、魔物にむかって魔法を唱えることはない。魔物は戦う前に逃げていく。
私の魔法で焼かれるのは――逃げ出した農奴だ。
隣では「危険は無いし、楽に稼げるな」と、笑いながら、冒険者が農奴を殺していた。
こいつらも、私も、魔物以下だ。心が腐っていく――。
遠くで多くの悲鳴が上がった。農奴が逃げたにしては声が多すぎる。
馬に乗った伝令が大声で叫ぶ。
「魔物の襲撃だ! 数は4匹。冒険者は戦え!」
この地域には農奴を管理する冒険者が100人近くいた。
周りは「たった4匹?」「誰かやれよ」「かったりいなあ」と、ヘラヘラ笑って誰も動かなかった。
群れからはぐれた魔物だろう。私もそう思っていた。
しかし、次の瞬間。遠くで冒険者の体が血を噴き出しながら、城壁の高さまで舞うのが見えた。それからは、まるで血の竜巻でも巻き起こったかのようだった。
「ドラゴンライダーだ!」
「ミノタウロスが乗っているなんて聞いたことがないぞ!」
「三つ頭の化け物だ!」
「何でゴブリンが、こんなにつええんだよ!」
冒険者たちは、驚いて死ぬことが、人生最後の仕事のように、叫んでは殺されていった。
4匹の魔物は振り返ろうともしない。
私に向かって迫ってくる。久しぶりの恐怖だ。
だけど、人を焼いて生きるより、魔物と戦って死ぬ方が幸せだ。
杖をかざす。大気中の水分が大きな塊となる。
「すべてを貫け! 氷柱巨槍!」
柱のような槍が4匹の魔物に向かっていき――砕け散った。
私は魔物に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
叶わないのは知っていたが、強さの差はさらに開いていた。
まともな戦闘をしていないだから腕が落ちるのは当然だ。
情けなくて、涙がこぼれてくる。
カゲトが私の顔を覗き込んできた。
「カールが魔物より悪に見えたか? なら、お前は仲間だ。いつでも来い」
カゲトは再びケルベロスの背に飛び乗った。
「よし、すぐに次の場所に移る。カールの兵を皆殺しにするぞ!」
「命令するな、ゴブリン」
「いいじゃない。退屈しないわ」
「楽じいぃー、楽じいよぉー!」
魔物たちはこちらを振り向きもせず、走り去っていった――。




