第23話 戦況
魔王来訪まで半年。
仕事を終えた俺は宿舎に戻ると、ドーザの前に2枚の地図を拡げた。
「俺がお茶くみの間に盗み見た情報を共有しようと思う。まず、これが3年前のものだ。青く塗られた王家側の勢力が大陸の60%、赤く塗られた魔王軍が40%という割合になっている」
「青の中でも濃い色になっているのは?」
「ランベルト領だ。10%近くあるが、この時期は魔王軍の攻撃が集中していて、かなり疲弊していた」
もう1枚の地図を指す。
「これが今の勢力図だ。魔王軍は40%で変わらないが、カールのランベルト領が30%まで増え、王家側が30%まで減った」
「カールが王家から奪ったということか?」
「違う。グスタフの件を隠したから、王家とカールの君臣関係は崩れていない。地図をよく見ろ。カールが奪ったのは魔王の勢力圏で、王家側の領土は魔王軍によって失われている。何でこうなったかわかるか?」
「王都へ多くの戦力を投入し続けた。そして守護砦の存在」
「そうだ、騎士団は王都に釘付けになり、他の地域の救援には行けなかった。そんなときは、平民戦力である冒険者ギルドが活躍するはずなんだが、動きは鈍かった」
「グスタフか」
「ヘルザに聞いたが、魔王軍相手に勝ち続けているカールは今じゃ英雄扱いだそうだ」
「どうせ、まともに戦っていないのだろう。とんだ茶番だな」
ドーザはキセルを吹かす。
「カールだけが得をしていないか。これでは魔王軍の立場は、おぬしがよく言われている――」
「下請けだ」
「――魔王軍が下請けとは、情けない」
「ドーザがそう思うなら、魔王もそう考えると思わないか?」
「――そうか。魔王様が視察に来たときに、このことを言えば、メデューサは四天王から外されるかもしれぬ。半年後が楽しみになってきたわい」
「待ってくれ。今、言った話は俺の想像だ。当たっていると思うが証拠が無い。偶然と言い張れることができる。魔王軍の勢力自体は変わってないから、メデューサの失態を責めることもない」
「証拠か……」
「見つけることができれば、エレーナが戦わずにすむ」
「――嬢ちゃんのことを考えて、この作戦を?」
「戦いは剣を持つことだけじゃない。あいつを見てそう思っただけだ」
「じゃあ、嬢ちゃんはおぬしの師匠だな。ハッハハハ」
外で稽古をしていた、ミュウミュウが血だらけで入ってきた。
「大丈夫か? エレーナはいないんだぞ」
「こんな傷、ミルク飲んで寝れば、なおっちゃうよ」
「どんな特訓をしたんだ?」
「ワンちゃんと遊んだだけだって」
ワンちゃん? そんなのいたか? もしかして!
「ケルベロスと戦ったのか!」
「うん。めっちゃ噛まれちゃった」
そう言うと、ミュウミュウはベッドに倒れ込んだ。
馬鹿野郎、Sランクがパーティーで挑む相手だぞ。鍛えるにしても段階があるだろ!
「ドーザ、穴を掘ってくれ! 冷たい水が欲しい」
「うむ」
ドーザが井戸を掘る。
エレーナだけじゃない。お前にも無理させていたんだな……。
俺は一晩中、冷やした薬草をミュウミュウの傷口に当て続けた。




