第22話 向き不向き
霧の城・作戦室勤務から3カ月。
副室長イルザのデスクの前に立つと、左手のトレイに乗った数個のカップの中から一つ取る。
「ヘルザはホットティーだったよな」
「助かるわ。ありがとう。でもいいの? お茶くみの仕事だけで。事務仕事を覚えないとランクは上がらないままよ」
「ああ、俺にはこのほうがあっている。お茶くみを極めるさ」
「自棄になってない? きつく言ってたけど、それはあなたに見込みがあったから――」
「ホットミルクが冷める。また今度」
残念がるイルザを背に、次のデスクにミルクを運ぶ。世界中のどのお茶くみよりも早く。
「お兄ちゃん、ずいぶん元気になっちゃったね。はい、ホット」
アザだらけのミュウミュウがミルクを炎魔法で温めて渡してきた。
「お茶くみも修業になる。ナーガたちに快適に仕事をしてもらうためには、より速く、より揺らさず、より静かに動かなくてはならない。これがおもしろい」
「これ以上強くならないでよー。せっかく追い付いてきたと思ったのにー」
「心配するな。今日も思い切りしごいてやる」
「やったね! でもお姉ちゃんをしごいちゃダメ!」
特訓を始めてから2カ月。ミュウミュウの戦闘力は着実に伸び、Sランクに近づいてきたが、エレーナはサッパリだった。
「ずっと支援しかしてこなかったんだよ。それを急に聖騎士になれなんて、ヒドイよ!」
「仕方ないだろ。聖魔法を教えたくても、俺とドーザは戦闘しか知らないんだから」
「お姉ちゃんは優しいから剣術は向いてないよ。お兄ちゃんの学問と同じ。最近、ずっと落ち込んちゃって、かわいそうだよ。ミュウがお姉ちゃんの分まで強くなるから!」
「そうだな……」
仕事が終わり、部屋でエレーナに「特訓に出なくていい」と伝えると、泣いて飛び出していった。
「お兄ちゃん、言い方!」
「何をぼうっとしておる。さっさと追わぬか」
霧の城の外まで追いかけ、泣いているエレーナの肩をつかむ。
「エレーナ、言葉が足らなかった。特訓しないでいいというのは、聖魔法を教えるものがいないからだ。お前がダメだと言ったわけじゃない」
「でも、みんな頑張っています。私だけカゲト様に役に立てないなんて嫌です!」
「Aランクでも充分、役に立っている。お前がいなければ俺はここまで生きてこれなかった」
「私もディアナ様のようになりたいんです!」
ディアナにはなれない。
そう言おうとしたが、さすがに俺でも傷けることはわかったのでやめた。
「――だが、教えられる者など、すぐには見つからない」
「ディアナ様はどこでSランクになったのですか?」
「――森の教会だ」
―――――――――――
次の日。作戦室に珍しくメデューサの姿があった。
「ホホホホ! トレイを持つ姿がお似合いです。カゲト。聞きましたよおー。下僕のお嬢さんにも見放されたんですって。あの子のほうがアナタよりよっぽど有能でしたのにねえ。お気の毒さま」
メデューサがトレイに乗っているカップを取って飲む。
「これでわかった? アナタは無能の使い走りで、アタクシたちの下請けってことが」
「それはヘルザのホットティーだ。仕事の邪魔をしないでくれ、ボス」
「――! それは失礼! 不味いわね、これ!」
メデューサは残りのホットティーを俺の顔へかけると、自分の部屋へ去っていった。




