第21話 事務職
何度、向かっていっても、打ちのめされた。
騎士団の大軍に怖気づくことが無かった、この俺が恐怖さえ感じている。
「また。誤字脱字! 責任感を持って仕事してって言っているでしょ! 何度でも言うわ。命令書の魔力紙は貴重なの。これはね魔力の高い獣人が痛いのを我慢して、剥いでくれた皮でできている。それをアナタは無駄にしたのよ!」
霧の城・作戦室。
黒髪を後ろに縛ったナーガが俺を叱る。眼鏡の奥の目が怖い。
メデューサの罵倒は腹が立つが、怖くはない。だが、作戦室副室長のナーガ・ヘルザは、俺を一人前に事務員にしようとして、熱血指導してくる。悪意がないからこそ、ヘルザの叱責は精神的にこたえる。
「そんなに落ち込まないでください。カゲト様なら、きっと上手くなれます。一休みしましょ、ね!」
事務員Aランク評価を受けたエレーナがDランクの俺をなぐさめようと、休憩室につれていく。
「ホットorアイス?」
文字が読めないミュウミュウはDランクにさえなれず、休憩室でミルクサーバーとして働いていた。
「アイスをくれ」
「えーっと、ちょっと待ってね。アイスの魔法はたしかこうして――はい、できあがりー!」
ミュウミュウはナーガに炎と氷の初歩魔法だけ覚えさせられていた。
「うふふ。カゲト様は叱られることに耐性が無いんですね」
「経験が無ければ耐性はつかない。俺は子供のころから剣の才能があったからな。叱られた記憶などほとんどない。ディアナには小言を言われていたっけ。『世界を救うためには学問も必要よ』って。あいつに習っておけば良かった」
「……そんなことはありません! 私が教えますから!」
仕事を終えると、城の中にある宿舎に戻った。ドーザも同部屋だが、体が大きいので穴を掘って上半身だけ出している。
「さあ、いっしょに勉強しましょ! カゲト様」
エレーナが練習用の紙を持ってくる。
「元気なのは、嬢ちゃんだけだな。カゲトは叱られ、ミュウミュウはミルク係、そしてわしは焼却係だ。仕事が終わるころには自慢の牙がこの様だ。やってられん」
ドーザが煤だらけの牙を見せた。
「魔王が来るのはいつだ?」
「来年だ。ここにいたのでは手柄なんぞ上げれぬ。よく聞け、勉強などよりもっといい考えがある……ボスを倒すのだ」
「これがある限り、無理なのは知っているだろう?」
意識をして右腕を見ると、毒蛇の錠前の存在がわかる。ドーザの腕にもついているのが見えた。
「そのまま、嬢ちゃんとミュウミュウを見てみろ」
目を凝らして見るが、二人には毒蛇の錠前はついていなかった。
「二人のことをボスは脅威だと思っていない。だから二人に倒してもらう」
「メデューサは口だけの魔物じゃない。Sランク以上の強さはある。二人はまだAランクだ」
「ボスよりも強いわしらが鍛えればSランクになる」
「そう簡単な話じゃない。龍族と違って、人がS以上になるためには並大抵の努力じゃ行けない」
「ほう。おぬしが事務員のランクを上げるのと比べたら、どちらが可能性がある?」
「――エレーナ、ミュウミュウ、今日から特訓だ」
「やったー! ミュウ強くなっちゃう!」
「ちょっとカゲト様、勉強は!」
俺は剣を持って立ち上がった。




