第7話
夕焼け空、屋台が明かりを灯した日本の下町。夏まつりだろうか。かなりの人でにぎわっている。
「すごーっ! きらきらーっ! すごーっ!」
目をキラキラさせながら屋台を見て回るメビ子。角が見えないようにしっかりとフードはかぶらせておいた。
興奮気味のエルマが手を引っ張ってくる。
「見て見てっ! 金魚ちゃんっ!」
「うわっ、え、ぐろ」
いつの間にやら金魚すくいしたらしく、ビニール袋ぱんぱんの金魚を見せびらかしてきた。
まんべんの笑みでグロすぎる金魚袋を握る少女というのは、なんというか惨い。
「おまえ金なんて持ってたのか?」
「うん、昨日財布ゲットしたの! 死体の懐からちょろ~っと」
エルマは嬉しそうに財布を広げて現金を見せびらかしてくる。だが、思ったより入っていない。
「そうなのです、あんまり入ってなかったの。黒いカードとか金色のカードばっかり入っててさ、かさばるから全部捨てちゃったけど。これは外れだね」
大当たりだろ。それ捨てない方がいいカードだろ。どんな富豪の懐漁ったんだよ。
「ほら、金魚ちゃん、ガクの夕飯だよ! お腹いっぱいなるかな」
「……俺は腹減ってねえからガキにでも上げてくるといいよ」
これ食ったら人として超えちゃやばそうな一線超える気がする。
「なあクラリ。早くこんなとこ抜けて――」
クラリを呼ぶと隣にいたはずだがいつの間にかいなくなっていた。
辺りを見渡す。体格、歩き方は人が多かろうと見分けがつきやすい。
すると目の前で浴衣姿の女の子が若い男と通りすがりに肩がぶつかる。
「おいどこに目ついてんだよ、ねーちゃんよぉ」
おっとこれは良くない流れだ。
男はイライラした様子で振り返る。
「タコ焼き落としてたらどうなって――」
「ご、ごめんなさいぃ」
「え、あ、うん、ぜぜぜ、全然いいんだよ、お嬢ちゃん」
浴衣姿の女の子を見た瞬間、男が鼻の下を伸ばして態度を一変させた。
どこかみずみずしくて妖艶で……一言で言えばエッチな子だ。
ていうか、あの子……。
「こ、これも何かの縁だから、れ、連絡先とか? 交換するか?」
どんな縁だよ。
「は、はい。というか連絡先だけじゃなくて……ぼ、ボク、お兄さんに悪いこと知っちゃいましたよね?(男の身体にもたれかかる)」
「お、おう。そうだな、悪い子だよお嬢ちゃん」
「は、はぃ、だ、だから、ぼくを。えっと、うぅ、ぼ、ボクをぉ」
「……ぼくを?」
「あそこの草むらで」
「草むらでっ? ごくり」
「この鞭でお仕置き――」
「エロがんなああああああああっ!」
俺は浴衣姿の女の子――クラロ・クラリの首根っこを引っ張ってエルマと共に人込みを抜けた。
*
仕切り直してさっさと目的を果たすべく歩く。ちなみにクラリは普通の服に着替えさせた。
「樹海にでも行って死体拾ってくるじゃだめなのか?」
犯罪やテロ行為が日常的に勃発しているこの世の中だ。樹海に行けば遺棄された死体なんてすぐ見つかる。
するとエルマはうげ、とベロを出した。
「死体が腐ってたらお腹壊しちゃうよー。生で食べてもたまにやばいのに」
「そういうもんか」
身体が異形になったからって胃袋が無敵になるわけじゃない。腐ったものを食べれば普通に腹を下すのか。
「じゃあどうすんだ? そこら辺の一般人を殺すわけにはいかないし」
ここで人を殺そうものなら大騒ぎになること間違いない。それにここにいる人たちは何の罪もないんだから。
するとエルマはきょとんと首を傾げた。
「なんで? 人たくさんいるから選び放題だよ?」
この反応、まさか……。
「おい、昨日は誰を殺した」
やや鋭い口調で問いかけた。
「んー、確か親子だったよ。お父さんと子供。だよね、クラリん」
俺はすぐにクラリを睨む。クラリはびくっと跳ねた。
「一般人を殺したのか?」
「め、メビ子ちゃんがそこらへんで捕まえて来いって言うからぁっ! ここ、怖いですぅ、ガクさん怖いですぅ!」
そうだ、間違ってもクラリはヴィランだ。そして、エルマもそれに準ずるものだ。
きっと、彼女らに俺の倫理観を解いたところで意味がない気がした。それに彼女たちには彼女たちなりの考えがある。俺がメビ子と手を組んだ以上、俺も彼女たちのやり方に賛同しなければならない。だから、この感情を押し付けるのは間違ってる。
だったら、彼女たちが納得できる理由を持ってくるのが筋というものだ。
「一般人を殺したらヒーローが黙っちゃいない。指名手配でもされたら街を出歩けなくなる。それは避けたいだろ? だから、殺すなら裏の人間にしよう」
「うーん、たしかに?」
エルマはそこらへんはどうでもいいようで軽く返事をして歩き出した。クラリは今もびくびく震えている。
「この街は来たことがある。俺に当てがある」
*
町はずれの廃工場。
以前にこの街では《紅蓮の神器》のうわさを聞きつて来たことがある。
その時入手した情報によると、この廃工場は犯罪まがいの商売で稼ぎを上げているヤクザがいるはずだ。
「明かりがともってる。多分十人くらいいるな」
偵察した限り、前情報と合致する。
この数なら俺だけでもなんとかなりそうだ。
「……て、おい。夏休みの小学生かよ。虫取りに来たんじゃねえんだぞ」
エルマはバケツに虫取り網という素っ頓狂な装備だ。先ほどデパートに行きたい、と駄々をこねたわけがこれか。
「なるべく血は流しちゃだめだよ。温めて飲むの好きだから。あと耳と目はこのバケツに入れてね」
「血っ、飲むっ、耳っ、目っ! ぎゃっ! ぐろっ!」
クラリは白目でぶくぶくと泡を吐いた。確かにグロい。
「……耳と目も食べるのか」
「焙るとおいしいんだよ」
物語に出てくる喰種は、だいたい生の人肉を食べてるイメージだが、エルマはや少し違うらしい。
「俺の時は生で食ってたじゃねえか」
「ちっちっち、まったくこれだから人を食べたことがない人は」
「普通は人を食べねんだよ」
エルマはよだれをたらしながら、あれがうまい、こうすればもっとうまい、だの解説を始めたがスルーさせてもらった。
「これまではどうしてたんだ? 毎日ぶっ殺してたわけじゃねえよな」
「んー、真っ白の部屋で決まった時間に大人たちが持ってきてくれてたの。べちゃべちゃでおいしくなかったなぁ」
研究所だろうか。ヒーロー連合管轄の転生症候群について研究する施設がある。
先生も転生してから何度も研究室に入るように打診されていた。どんな研究を行っているかは定かではないが、きっとクソに違いない。
「でもそこ抜け出してからはね、おいしいものたくさん食べてるの♪ ガクの唇、すんごくおいしかったよっ」
「うげぇっ! もうやべでぐだひゃいっ!」
クラリが涙目で訴えてくる。確かに聞いていていい気分にはならないな。
「じゃあ、これからはうまいもんたくさん食えるぜ」
俺は廃工場の天井に駆け上がった。
「じゃあ、殺るか」
数分後、エルマの食べ物は案外簡単に入手できた。その間クラリは泡を吹いて気絶していた。




