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第6話

「……ヴィラン組織に入るつもりはねえ」


「いいや、てめえらがベルエムに入ってた方が動きやすい。それに、内部からほころぶ組織ほど、滑稽なもんはねえだろ?」


 彼女のぶっ飛んだ思想はさておき利害は一致していると言える。


 彼女の言葉を信じるのであれば俺が欲する《紅蓮の神器》は《ベルエム》のトップ東寺真賀人が所持していて、そんな彼を殺したいメビ子。つまり、メビ子と協力すると東寺真賀人を殺して神器を奪う、という手荒な手段にはなってしまうが神器獲得において有効な手段であるともいえる。懸念すべきはメビ子の動向や《ベルエム》全体を敵に回すことだが、そんなリスクを差し引いても、ようやく見つけた手がかりをみすみす捨てたくはない。


 だが、事実大きな不安要素がある。それは協力者がこの女だということだ。


「俺たちの目的が一致しているのは理解した。けど俺はお前を信用できねえ。だって考えてもみろよ。図ったようなタイミングであの場に現れたお前と手を組めってほうが無理があるぜ?」


 すると、隣のエルマからつんつんと肩を叩かれた。


「でも、メビ子は助けてくれたよ?」


「いや、そうだけどそうじゃないっつーか」


「注射器くれたんだよ? アタシ、アレがなかったら死んじゃってたもん」


「なっ」


 ぶわ、と鳥肌が走る。

 右手に刀を召喚させ、それをすぐさま振う。刀の刃がメビ子の首すれすれで止まる。

 メビ子は微動だにせず、荒い笑みを浮かべたままだ。


「性癖にぶっ刺さる力じゃねえかァ。創り出してんのか、あるいは異空間から召喚してんのか」


 俺の力を見て頬を吊り上げる。その場違いな態度に一層怒りが増す。


「話が変わった。お前は敵だ」


「注射器を渡した。そのおかげでこいつは生き延びた。それが結果じゃねェのかァ?」


 悪びれない態度に怒りが増す。


「俺がいなかったらこいつは殺されてた! あれは……この世に存在していいもんじゃねえ!」


「それはてめえの見解だァ。事実、人食いは注射器がなかったら死んでた。それは否定させねえぜ。それともここでやり合うのか?」


 メビ子の視線がエルマに向く。それは半ば脅迫に似ていた。この女と戦えば自分の命のみならずエルマの命も危険にさらす、という意思表示だ。


「……人の命を何だと思ってる」


「それをてめえが言うか? あたまっから血を丸被りしたような匂いまき散らしやがってよォ。今まで何人殺したァ?」


 見透かすような口ぶりだ。


「……俺はクソ共しか殺さねえ」


「クソ共だろーが善良な一般市民だろーが殺したら殺人に変わりわねェ。殺しっつーのはいつだっててめえの譲れねえ目的のために取る一つの手段にすぎねえんだ」


「…………その通りだよ、クソが」


 俺は刀を引き、椅子に腰かけた。その対応に満足したようにメビ子は鼻を鳴らした。


「それに、私とてめえに必要なのは信用かァ? もしそうだったら期待外れだぜ。てめえはそんな清潔で正常で一般的な判断をもってして目的をみすみす逃すようなことすんのかァ?」


 彼女の言葉には一理ある。

 ヴィランと手を組む以上、信用を求めるべきではない。必要なのは目的を遂げるために必要か否か。それだけだ。


 俺は息を吐き、頭を冷やす。そして、決定を下す。


「《紅蓮の神器》、それを俺が入手するまでだ。それまではお前とも手を組むし、ベルエムにも入る」


「あぁ、それでいい。機会は与えたァ。後はてめえの心で決めりゃいい」


 危ない橋を渡る、とはこのことかもしれない。


 だが方針はこれまでと何も変わらない。利用できるものは利用して、俺は復讐を遂げる。それだけだ。


「エルマ、てめえはどうすんだァ」


 これまでつまんなそうに話を聞いていたエルマが首をかしげる。


「紅蓮の神器とか、ベルエムとか、アタシはどーでもいいンよね」


 するとエルマは無邪気な笑みを浮かべた。


「でも、ベットとテレビあるからここにいよっかな。アニメ観れるし、ガクのこともうちょっとだけ見ていたいし」


 てっきり「アタシは最高のヴィランになるから誰の下にもつかないよ!」と言い出すのかと予想したが外れた。彼女の行動原理は今のところ把握できない。


 考え事をしながらエルマの横顔を見ていると、エルマは向日葵のような笑顔を向けてきた。


 胸の底で罪悪感が湧き上がる。俺はもうこんな笑顔を向けられていい人間じゃない。

 逃げるように立ち上がる。


「じゃあ、俺は帰る」


 一刻も早くここから去りたい。考えなけらばならないこともたくさんある。


「ガク、どこ行きやがる」


 席を立って踵を返した俺をメビ子が呼び止める。




「てめえら二人はこれからここに住むんだァ。冥主と使徒は暮らしを共にする。それがいいに決まってる。これ、当然だァ」




 当然じゃねーだろ。


  *


 話がまとまったところで、ぎゅるぅ、とエルマの腹が鳴った。


「じゃあボクはご飯取りに行きます」


 ぼくっ子メイドのクラロ・クラリが身支度を始めた。彼女は壁に飾ってあった物騒な槍を持っていこうとしている。


「おいおい、狩にでも行くつもりか?」


「はい、狩に行きますぅ。ちなみにボクたちのご飯じゃないですぅ」


 ぴし、と敬礼したクラリ。とても弱そうだ。


「俺たちのごはんじゃないって……」


「アタシ今日はね、筋肉質な太ももがぶがぶしたい」


「……そういうことかよ。こいつの食べ物ね」


 エルマは人間しか食べることができない。俺たちのご飯とは違って街で買えるわけではない。


「が、ガクさんも来てくだひゃいっ! ボクは弱いしエルマさんは雑だから結構ちゃんと危ないんです」


「そうだよ! 昨日はヒーローに見つかっちゃって大変だったんだよ」


 二人が希望の目を向けてくる。

 まあ、残るとメビ子と二人きりだから生理的に嫌だ。


「俺たちのご飯はどうすんだ?」


「ぼ、ボクが帰ってきてから作ります」


「あそこで堂々とマンガ読んでる奴に作らせればいいだろ」


 俺はソファーにどっかり腰を掛けコーヒー片手に漫画を読むメビ子を指さす。


「だだだ、ダメですよぉ! メビ子ちゃんの身の回りはすべて下僕であるボクがサポートする決まりなんですっ、でないと世界がぁ、世界が終わってしまうんですぅ!」


「そーだぜェ、ガクよォ? 誰でもできることなんて私はしねえ。私は私しかできねえことをやる。それが桜メビ子だァ。私が料理する日にはてめえらの胃袋がブラッディ―ボンバーするのが確定してやがんだ」


 ようは料理できねえってことかよ。この感じだと家事全般はクラリに任せているのか。


「しゃあねえな、俺も行くよ」


 首肯して身支度を終えたクラリに付いていく。





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