第28話
アタシの名前はエルマ。
夢は世界最高のヴィランになること。毎日を楽しんで、笑って、そうやって着々とアタシはヴィラン道を歩んでいくの。そんなハッピーでキュートな女の子。
『あなたなんてっ…………生まなきゃよかったのね』
アタシは一度お母さんのお腹の中で死んで、そして転生して生まれて来たらしい。
赤ちゃんの時はお母さんのおっぱいを飲んでたけど、大きくなるにつれて今と同じ、ヒトしか食べられなくなった。
――それに初めて気づいたのは、お母さんを半分くらい食べ終えた時だった。
気づけばお母さんは真っ赤になってて、肌は冷たいけど中身はすごく暖かかったの。
こうなっちゃうともうお母さんは動かないって、初めて知った。
もう殴られたり蹴られたり、痛い思いしなくていいんだって、ちょっぴり嬉しくなった。
『人を食うガキだぞ! おい、食ってみろよ! ぎゃはは、ほんとうに食ってやがる! きめえ!』
お母さんがいなくなってからは、結構大変だった。年中、戦争してる場所だったから、小さくて力がないアタシでもご飯にはありつけたけど。
怖い人はたくさんいて、見つかるたびに玩具みたいに遊ばれて、痛めつけられたり、裸にされたりもしたし、売られて買われたりもしたし、そしてまた玩具みたいに遊ばれるの。
死んじゃおっかなって考えることも少なくなかったけど、それでもお腹がすいたらご飯は食べたい。だから、なんだかんだで生きてた。
『被検体0076、食事だ、食え』
気づけば真っ白なお部屋で何年も何年もおいしくないご飯と、痛くて苦しくて楽しくないことさせられた。
でも唯一楽しいことがあったの。今まで生きてきて感じたことのない、ごろごろどっかーんって全身に雷が落っこちるみたいな、そんなカンジを味わったの。
『そこまでだ! 私が来たからには、お前の好きにはさせないぞ!』
真っ白なお部屋にあったテレビ。そこに流れていたアニメがアタシの人生を変えたの。
『いつかな、いつアタシのところにヒーローさんはやってきてくれるのかな』
来なかった。
いつになっても来なかった。それどころか、ヒーローの証が刻まれている服(テレビで知った)を着た人たちは何度もここに来るのに、アタシを見つけても助けてくれないの。
『悍ましいな』
みんなして、アタシを気味の悪い化け物を見るみたいな視線を向けてくるの。
こんなに助けてって叫んでるのに。
こんなに痛いって、やめてって言ってるのに。
だれも、アタシを助けてくれない。
――だけど、名前も知らない誰かがすべてをぶち壊してくれたの。
ちょうど二年前だったっけ。
『うわぁっ! 台無しだぁ♪ なにもかもめちゃくちゃだぁ! かっこいいなあ!』
アタシが嫌いな人を、場所を、みんな灰にしたその人は、街ごとめちゃくちゃにしていったの。
お礼は言えなかったし、姿も遠目で少ししか見れなかったけど、市民もヒーローもどんどん殺して、すべてを台無しにしていくその人の姿が、アタシにとっては救いだった。
そうやって、何もかも関係なく、好き勝手に自分の道を歩く。
自分のために、自分がしたいように、自分らしく戦う。
そんなあの人に――ヴィランに憧れた。
「あははっ! あの人は絶対負けないんだねっ! まっすぐなんだ! すっごく強いキモチがあるんだ! だから自分勝手なんだね! だからぜーんぶ台無しにできちゃうだね!」
アタシの生きる意味ができた。
希望が見えた。このでたらめに終わってる世界で生きる勇気を貰えた。
(これがアタシの目標だ! これからアタシは幸せになるために最高のヴィランになる!)
負けない。突き抜けた最高のヴィランは負けない。
だって、自分のすべてを賭けてるから。それ以外を台無しにできちゃうから。
志半ばで死んじゃうなんてあるわけないもん。
そんなの、面白くない。全然面白くないから。
だから、最高のヴィランは負けない。
(あとは――笑っていれば、アタシが一番幸せって顔してれば満点だ!)
あの人は笑ってただろうか。分からない。
もしあの人が笑えていなかったら、あの人の分まで笑うんだ。
――だから、キミにも笑って欲しい。
キミには目標がある。すごーでかいキモチがある。
キミがくれることはぜーんぶ、なんだかアタシを幸せにしてくれる。
こんなの初めて。こんなのって素敵。
だから、負けないよね。
キミは負けるはずないよね。
キミが負けるなんてありえないよね。
(キミが負けたら――……アタシの全部が否定されちゃうもん)
みんなから嫌われるアタシがまるっきり終わっちゃうから。
「なんだこいつッ! 総員、敵だ!」
血だらけでボロボロのキミが、ヒーローに囲まれているのが見えた。
(あぁ、やっぱり苦しそうな顔してる)
だめだ。それだけは。
自分でも分からないキモチが胸の中をかき乱した。
(ううん。楽しも。アタシは何があっても笑い飛ばすんだ)
それがアタシの信念。
譲れない、ヴィランの掟。




