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第20話



 案内されるまま、俺たちは義仙閣の最上階に赴いた。


統一神骸商会ベルエムが統括、東寺真賀人様がお待ちです」


 浴衣の女は綺麗にお辞儀し入室を促してきた。人二人分ほどの高さの襖がゆっくり開かれる。


 そこは時代劇で帝と家来が会合する謁見室のような、きらびやかな装飾と三段ほど高い場所に設置された玉座がある厳かな部屋だ。


 そして玉座の上には、スーツを着た男が鎮座していた。


「――はて。あの唯我独尊を地で行く馬鹿女の姿が見えないが」


 刀を眺める中年の男は酷くつまらなそうに呟いた。

 きらびやかなアクセサリーを身にまとい、彼が動くたびにキラキラ宝石が光る。日本建築にスーツという酷く不格好な組み合わせだ。


「東寺様が先日、ここ義仙閣を出禁にしたばかりですよ」


 男の傍らに立つ袴の女が冷淡な口調でそう告げた。


「あぁ、第二階位の何某をぶっ殺したんだっけか?」


「はい、ちょっとした口論の末、第二階位ルイ・レルベ様率いる二十三名を殺害しました」


「まったく、バカげたことをしてくれる。アレの面倒な力がなければ早々に殺しておいたのだがな。測り難い。して、こいつらはなんだ」


 ようやく男――東寺真賀人が俺たちを捉えた。ゆくゆくはこの男を俺たちは殺さなければならない。


「彼らは桜メビ子様が配下です。彼女の報告によりますと『我が使徒が舞い降りた』、とのこと。神父ネリッタ捕縛任務は彼らの手柄です」


「ほお。碌に任務もこなせないごく潰しがようやく任務を遂行したと思ったら、またごっこ遊びの延長線であったか。まったく度し難い」


 東寺はまるで値踏みするかのように、俺たちを一人一人捉える。


「ことごとく転生者とはオレを馬鹿にしているのか、桜メビ子。当てつけのように見せびらかしおって。怒り難いことだ、くそ」


 怪訝そうな顔で吐き捨てた東寺は、再度俺を捉えた。


「小僧」


「あ?」


「小僧、名乗れ」


 真意はなんだ。俺の名を聞いてどうする。


 俺の名前は知れ渡っている可能性がある。それは英雄連合だけでなく、彼らのようなヴィランたちにも。


「貴様――英雄殺しか」


 英雄殺し。日幸サガリを殺した張本人。その汚名。

 俺が背負う業の名前。


「…………九十九ガクだ」


「くそ、つくづく気に食わない。あの女の物語主義もここまでくれば天命と呼べるか。怒り難く、そして――――測り難い!」


 突然東寺は高らかに笑い声を上げる。


「何がおかしい……?」


「おかしくはないとも! この世界は歪みの美しさがすべてを物語る!」


「東寺様、落ち着いてください。お体に響きます」


「響け響け! これほどに測り難く純粋な歪みを前に、この身体に! この心に! 響いてもらわねば困るというものだ! あぐっ…………ぐふっ」


「馬鹿なお方」


 東寺は吐血し浴衣の女が体を支え、ゆっくりと玉座に座るように促す。

 持病だろうか。東寺は背中を摩られながら、息を整える。


「……まあよい。貴様らに伝えてもらおうか。あの女との約束だからな」


 東寺は数度深呼吸してから口を開いた。


「明日の闇市にて――――《紅蓮の神器》を出品する」


「…………は?」


 東寺の言葉の頭からケツまで理解できなかった。


「《紅蓮の神器》を……出品する、だ?」


「あぁ、決定事項だ」


「な、なんでんなことしやがるッ!」


 《紅蓮の神器》それはもはや幻とも呼ばれる神器。人類でもっとも強かった転生者の神器。その存在が公になれば、莫大な人間がそれを求める。

 それほどまでに、貴重で異質なものなんだ。


(それを……出品? 売るってのか?)


 当然、出品された暁には金を手に入れることができる。しかし、《紅蓮の神器》は『大金程度』と引き換えにできるものじゃない。


「なんで、か。オレはこの競売場の経営者だ。いい品があれば秤にかける。当然ではないか?」


「当然じゃねえ! あんたがそんな軽々手放すわけねえだろ! …………あれがどれだけ危険か、分かってんだろ」


「あぁ、分かってるとも。あれは最上で最美な殺戮兵器だ!」


「だったら!」


「だからこそ、だ。神器があるべき場所は人殺しの掌。オレは見たい。あの惨劇を。あの夜、オレが恋焦がれた人殺しを! 人殺しの先にある芸術を!」


「東寺様」


「分かっておる」


 袴の女の注意にやや煩わしそうに頷き、東寺は上げかけていた腰を下げた。


「喜ぶところだぞ。金を払えば手に入るのだ。これほど簡単なことはない」


「俺はッ、そんなことを言ってるんじゃねえ! あれをどうして手放す気になるのかって聞いてんだ!」


「これ以上は無駄な時間よな。俺は《紅蓮の神器》を出品する。変え難いことにな」


 最後にはひらひら手を振って、早く出ていけとジェスチャーを始めた。


「それともここで邪魔なもの断ち切って見せるか? それもまた美しい歪みだ」


こちらを見定めるように東寺は笑みを浮かべた。


今にも斬りかかりそうになる身体と、酷く合理的な理性とでごっちゃになりそうだ。


(冷静になれ! …………いまこいつと戦ったって神器が手に入る保証も勝算もない)


 俺は踏みとどまって東寺を睨んだ。


「聡さは時に残酷だな」


 東寺の吐き捨てた言葉が頭にこびりついた。



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