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第19話

「ふわぁあ、おー我が使徒二号、九十九ガク、任務ご苦労だぜェ」


 朝食を食べていた俺に、昨晩帰ってきていたメビ子が欠伸しながら階段から降りてきた。寝ぐせがたくさんあるし『俺が主役!』とフォントされたパジャマを着ているしで、なんともメビ子らしい。ちなみに、身支度はすべてクラリにしてもらっているらしい。


「神父の右腕がなかったしひでえ衰弱してたが及第点だァ。ワンチャンてめえら死んじまうかと思ってたが、それじゃあ面白くねえもんなァ」


 死ぬというより、カルト宗教の一員になるとこだったよ。


「これでもメビ子ちゃんは褒めてる方ですよ。いつもはメビ子ちゃんが任務もろとも消し炭にしちゃうことが多いので」


 キッチンで洗い物をするクラリの元へ、俺も自分の皿を運ぶ。

 クラリは料理、掃除、洗濯など家事全般を一人でこなしているため、ほぼ居候の身としてはなにか手伝っておきたい。

 なにかとエロがってくる変態メイドだが、家事をしている時は普通のメイドさんだ。


「や、やめてくださいよぉ! 皿洗い何て全部ボクがやりますからぁ! メビ子ちゃんみたいに優雅にコーンポタージュ飲みながら食い入るようにアニメ観ててくださいよぉ!」


「いや、四人いるんだし分担きめようぜ? アイツとエルマがいるだけで毎日部屋がぐちゃぐちゃなんだから一人じゃ大変だろ」


 クラリは呆気にとられたように俺を見つめてからくすっと笑った。


「ボク戦うことに関してはあまり役に立てないので、こういうことはしたいんですよ……役に立ちたいんです」


「クラリ……」


「だから、みんなの下僕メイドとして! 奴隷として! 身も心もすべて好きにしてくだしゃい! さあどうですか? ガクさんの内なる嗜虐性をあらわにしてみては! うひひっ」


「うわぁ」


 顔が近い。鼻息荒く頬を赤らめている。怖い。


「おっはー諸君っ!  て、はぁ!? クラリんなんしとンの!? 味見!? もしかしてガクを味見しようとしてる!?」


 めんどくせえのが来た。

 エルマはすぐさま俺からクラリを引きはがし口論を始める。


「クラリんってなんかいつもエッチなことばっかしてない? なんかもっとメイドさんらしく、すん、ってしててよ! すんって!」


「い、いやですぅ! エルマちゃんは知らないかもだけど、エッチなメイドさんの方が殿方には人気なんでしゅ!」


「まじかすごっ! メイドすご!」


 朝から面倒事に巻き込まれないために、俺はすぐさまそこから離れた。


「おい、我が使徒たち。このアニメが終わったら準備を始めろよ?」


 相変わらず、優雅にコンポタ飲みながらアニメ観ているメビ子が言った。


「準備って、もう任務か? まだ神父のじじい地下に閉じ込めてんだろ」


「それだァ。神父ネリッタを輸送すんだよ」


 メビ子はテレビを消して立ち上がる。


「――敵地調査と行こうぜェ」


   *


「あんなこと言っといて、メビ子は来ねえのかよ」


 俺たちの敵地、それすなわち《ベルエム》のアジト。


 拘束した神父を車に押し込んで、俺たちは三時間ほどかけて《ベルエム》のアジトが存在する街へと向かった。


「メビ子ちゃんは《ベルエム》出禁ですからね」


「《ベルエム》の第一階位なんて言ってたけど、どんだけ嫌われてんだ?」


「ちょっと前に問題起こしちゃったんですよ。ここ最近は任務の報告とかはボクが請け負ってるんです」


 クラリの横顔越しに車窓に映る街並みへ視線を移す。


「うっひょーっ! 時代劇の舞台みたい! 安心せい、ミネウチじゃ~~っ! あははは、ミネウチってなにウケるっ!」


 エルマが車の窓から頭を出して楽しそうに目を輝かせた。


 コンクリートや電柱が一切ない、日本建築の街並み。大きな一本道の両サイドに大量の市場が広がっていて、活気がある賑やかな街だ。


「殺しのための市場の街――義仙街か」


 その名の通り、ここは殺しのための武器や情報が溢れる街。世界組織の英雄連合も統制が取れていない、非合法的で法律を度外視した街だと言っていい。


「クソオブクソの連中がひしめき合う街なんざ、来たくなかったんだけどな」


「あ! 侍だ! あっちにはメカ人間!? すごーっ! SFだよ! すごー街だよ!」


 車窓から見える裏の世界の人間たちを見て興奮冷めやらぬエルマ。なんだか和んでしまう。

 そのまま車は大通りから外れ、ほどなくして停車した。


「二人とも、着きましたぁ」


 車を出ると目の前には、巨大な城が聳え立っていた。背の高い塀で囲まれたそれは江戸時代なんかの城をそのまま再現したような、厳かさがあった。


「お疲れ様です、桜メビ子様が配下の皆さま」


 大きな門の前で待っていた浴衣姿の女が丁寧に深くお辞儀した。


「任務NO.401『神父ネリッタの捕縛』、ただいまこちらで審査いたしますので、どうぞごゆるりとお待ちください」


 事務的なやり取りをクラリが済ませた後、浴衣の女は気絶した神父を回収し城の中へと消えていく。


 俺たちは案内されるまま《ベルエム》の本拠地へと足を踏み入れる。


「すごー人の数だね。ここって結構わるいこともやってるんよね? ヒーローにとっちめられんの?」


「その心配はありません。なにせ《ベルエム》のアジトとは裏の姿。真の姿は競売場――義仙閣ですから」


 そう、《ベルエム》のトップ東寺真賀人とはこの競売場の経営者としても有名だ。

 ここにはベルエムの人間だけではなく、各地から集まった富豪や強力な武器を求めるもの好きなんかもいる。


「ではでは、お二人方! 審査が終わるまでお店を見て回りましょっ! すごくたくさんお店があるんですよ!」


 テンション高めのクラリが提案してきた。

 クラリに促されるまま、城に入ると見た目に反して内装は洋風のそれを彷彿する雰囲気だ。多くの店と多くの人間で入り乱れる、一種のデパートともいえる。


「競売場の上にこんな店があるなんて知らなかったな」


「はい、ここでは武器や防具などの職人さんたちが名を売るために奮って出品なさってるんですよ」


 この競売場――義仙閣の一階には大規模な競売を行うホールがあるが二階以降は多種多様な戦闘道具の出品場所という面があるらしい。


「ねえねえクラリん! アタシ武器! カッチョいい武器見たい!」


「はい! ボクもかっちょいい武器見に行きたいです! あっちは刀、あっちは戦斧、いろいろ種類が多いので全部回りましょ!」


 エルマがこういう類に興味を示すのは想像通りだが、クラリは意外だった。

 彼女は戦闘は分野外だと語っていたため、物騒なものは苦手だとばかり思っていた。


 傍から見ると物騒な武器が売り出されるデパートで可愛い少女たちが興奮気味にきゃっきゃしてるという、なんとも不気味な絵面だ。


「ガクも行くよ!」とエルマに手を引かれ適当な店に入る。


 店内は静謐で高級な雰囲気はなく、雑に刀が並べられている。雑貨屋みたいなカジュアルな雰囲気だ。

 刀の良し悪しなど見ただけでは分からない。意匠が凝っているかどうかとか、鋼が綺麗だとかその程度だ。

 ふと、クラリを探すとまるで宝箱の中身を漁る子供みたいな瞳で刀を手に取っていた。

 鞘から抜いて息を漏らし、控えめにポーズをとってみたり。なんだか微笑ましい光景だ。


「ひゃっ、な、なんでしょう、ガクさん」


「いや、なんつーか、意外だなって」


 クラリは恥ずかしそうに頬をポリポリ掻いて刀を置いた。


「こういうの好きなのか?」


「は、はいぃ。恥ずかしながら……ボク、戦うのは苦手だけど……憧れるんです」


「というと?」


「メビ子ちゃんが戦ってるところとかかっこいいなって思うんです。ですから力になれたらと思って素振りとかしてみたことあるんですけど……力もセンスなくてですね」


 クラリは諦めたように眉を下げて笑った。


「こんな風に刀でしゅぱぱぱっ、って戦場を駆け回る戦闘メイド路線はあきらめきれないんですよ。これ、ボクの理想のメイド像なんですが、ガクさんがボクに戦い方教えてくださってもいいんですよ?」


 からかうように、あざとく小首を傾げたクラリ。まあちょっと可愛いと思わなくもない。


「いや俺も刀振り始めたの最近だし教えらんねーって」


「いやそこを何とか! 手取り足取り! 時に厳しく時にもっと厳しく教えていただいたらボク……最高です!」


「うわぁ」


 この子の反応に毎度ながらドン引きしていると、後ろから元気のいい足音が近づいてくる。


「ねね、見て見て! これすごない? 角生えてると毎回帽子かフードで隠さなきゃだけど、これなら白昼堂々かっちょよく歩けると思うの!」


 自信満々に胸を張ったエルマの頭には時代劇の将軍が付けていそうな甲冑が輝いていた。しかし、側頭部から生える二本の角が甲冑の隙間から伸びていて、なんというかそういう装飾に見えなくもない…………いや見えないな。


「って、あれ…………ぐぬぬぬぬー、ふんぬー! ぬ、抜けないっ!? なしてっ!? ちょっとガク、この甲冑あれだよ! 石仮面みたく一度付けたら外せなくなる的な呪いのアレだぁ! でぃ、ディオオオっ!」


 角が突っかかってるだけだろ。


 クラリも一緒になってエルマの甲冑を引っ張るが取れないでいる。なんだか漫才を見ているようで和んでしまう。


「えっと、審査が終わりましたのでお呼びに参りましたが……」


 そこに神父を回収してくれた浴衣姿の女が、酷く申し訳なさそうにしていた。俺はなんだか恥ずかしくなった。





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